精神医学 Vol.68 No.7
2026年 07月号

ISSN 0488-1281
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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特集にあたって
山田敦朗(名古屋市立大学大学院医学研究科こころの発達医学寄附講座)

 日々の精神科診療で,ジェンダーについて考えさせられる場面に多々遭遇するのではないだろうか。本誌66巻1号(2024年1月号)の特集では,精神疾患の頻度や重症度における生物学的な性差に注目された。今回は,精神科医の立場から,診療におけるジェンダーの観点,社会におけるジェンダーの課題,精神科医の働き方における男女共同参画といった視点から考えてみたい。
 2025年の日本のジェンダーギャップ指数は148カ国中118位という状況である。女性はライフサイクルを通じて,ホルモンバランスも大きく変化し,妊娠,出産をはじめとした女性特有の生殖関連事象が精神健康に影響を与える。同時に育児,介護負担を負いやすい。こうした問題を精神科医はどこまで理解し,寄り添えているであろうか。一方で,父親の周産期うつなど男性の問題が見逃されていないだろうか。
 ジェンダーの問題は患者だけに限らない。例えば,患者家族では,神経発達症児の受診に付き添うのはほとんどが母親である。家族療法では父親の参加が鍵となるが,父親については参加してくれるだけでありがたいという風潮がある。家族会の中心メンバーも母親が多く,キャリアを犠牲にしている人も少なくない。また,超高齢社会においては認知症の問題も増えてくる。子どもと親の両方を介護するという「サンドイッチ世代」も珍しくない。老齢夫婦においては,男性がより年配であることが多く,配偶者間でも女性の負担が大きいのではないか。
 児童福祉の分野に目を向けると,父子家庭よりも母子家庭が圧倒的に多い。ここにも,子育ては女性といった先入観があり,両親のどちらが親権をとるかについてもさまざまな問題がある。片親の家庭の未成年者の医療保護入院で,保護者の同意を得る時に,親権の確認,親権のない親と入院した未成年者の面会など,悩む場面に遭遇したことのある精神科医は少なくないであろう。新しく施行された共同親権についても知っておかなければならない。
 性被害も社会的に重要な問題であるにもかかわらず,診療で最も難しく感じる分野でもあり,関与している精神科医が非常に少ないという現状がある。ワンストップ支援センターの相談件数は増加傾向で重要性が増す一方で,自治体によっては予算削減に直面していて,支援体制の維持も課題となっている。性被害では,女性が圧倒的に多いのはもちろんであるが,その陰で男性の性被害者が相談につながらず認知されにくいという問題もある。
 最後に自身を振り返って,ジェンダーの問題で悩んだことはないだろうか。精神科医としてのキャリアップへのジェンダーの影響は大きい。女性医師が専門医や精神保健指定医を取得する過程で,妊娠や出産に重なれば取得が遅れてしまう。男性の育児休暇取得が進んでいるが,ギャップは埋められるであろうか。結婚による姓の変更も,わが国ではほぼ女性である。公的書類の取得の遅延,変更の手続きのわずらわしさは決して軽い問題ではない。一方,男性医師からすれば,当直などの時間外労働は,子育て中の女性医師に比べて免除されにくく,むしろ肩代わりしているといった意見もあろう。
 気づいていても声を上げにくいのが,ジェンダーの問題ではないだろうか。本特集がジェンダーについて振り返って考え,議論できる機会となれば幸いである。

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特集 精神科診療でジェンダーに直面するとき
企画:山田 敦朗

特集にあたって
山田 敦朗

■Editorial
精神科医がジェンダーに向き合うために──知っておきたい用語の解説を兼ねて
山田 敦朗

■診療におけるジェンダーの視点
ジェンダーの視点から考える女性のメンタルヘルス支援
菊地 紗耶・他

ジェンダーの視点から考える男性のメンタルヘルス支援──周産期から子育て期の役割葛藤と家族支援
黒川 駿哉

治療者のジェンダーで精神疾患の診たてと治療に差異があるか
榎戸 芙佐子

女性医師が診療において果たしうる役割──対人関係療法のエッセンスをふまえて
利重 裕子

児童精神科臨床におけるジェンダーの意識──ペアレント・トレーニングの実践的視点から
齋藤 真樹子・他

認知症診療をジェンダーの視点から読み解く──災害精神医学の視点を手がかりとして
奥山 純子

■社会におけるジェンダーの課題
共同親権と子ども──精神科医に知っておいてほしいこと
上野 千穂

性暴力被害者支援における精神科医の役割──ワンストップ支援センターとの連携
古橋 功一

〈column〉見えない攻撃を可視化する──精神医学におけるマイクロアグレッションの理解と臨床的意義
内田 舞

■精神科医の働き方における男女共同参画
精神科医のキャリアと男女共同参画
布施 泰子

〈column〉性別にかかわらず自由に生きる社会をめざして
渡辺 雅子

〈column〉いまどきの中高生の制服事情とジェンダー・多様性
赤崎 安昭


●資料
胃切除長期間後の患者の精神症状と薬物治療に関する実態調査
堀口 淳

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