BRAIN and NERVE Vol.76 No.1
2024年 01月号

ISSN 1881-6096
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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 近年,重症筋無力症治療は大きな進歩を遂げ,新時代とも呼べる変革期を迎えている。かつての治療の中心は胸腺摘除術と高用量経口ステロイドであったが,2014年版のガイドラインでは治療目標として「MM-5mg(経口プレドニゾロン5mg/日以下)」が提唱され,2022年版では漸増・漸減による高用量経口ステロイドを「推奨しない」と明言された。また,2017年には分子標的薬のエクリズマブが適応拡大され,2022年以降も相次いで新薬が登場している。その一方で,ランバート・イートン筋無力症候群に対する治療薬は限定的であり,保険適用もなされておらず,今後の課題と言える。本特集では2022年版ガイドラインを概観するとともに,各テーマで診療の最前線を論じていただいた。現状と課題への認識を新たにし,診療・研究に役立てていただきたい。        

重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022 overview 村井 弘之
『重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022』について解説を加えた。ポイントは,(1)わが国の診療ガイドラインとして初めてランバート・イートン筋無力症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome:LEMS)を取り上げた,(2)重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)とLEMSの新しい診断基準を提示した,(3)漸増・漸減による高用量経口ステロイド投与を推奨しないと明言した,(4)難治性MGを定義した,(5)分子標的薬として補体阻害薬を取り上げた,(6)MGの新しい分類を示した,(7)MGとLEMSの治療アルゴリズムを示した,などである。

成人重症筋無力症の診療 鵜沢 顕之
重症筋無力症は神経筋接合部に存在する自己抗体が産生されることで神経筋伝導が障害され,全身の筋力低下をきたす難病である。ステロイドや免疫抑制薬での治療が中心に行われるが寛解状態は得がたい。早期速効性治療戦略により予後の改善は得られているものの,治療目標の達成率は十分とは言えず,新規分子標的薬の開発が盛んに行われている。治療法の多様化や発症年齢の高齢化などに伴い,重症筋無力症診療を取り巻く状況は大きく変化しており,本論では成人重症筋無力症の診療について概説する。  

小児重症筋無力症の診療 石垣 景子
小児発症重症筋無力症の病態は成人発症と変わらないが,眼筋型が主体,低い抗体陽性率,低い胸腺腫合併率,高い寛解率などの点で成人発症例と大きく異なる。成人の治療方針である低用量ステロイド,非経口速効性治療戦略のエビデンスは小児において十分でなく,免疫抑制薬の安全性も確立していない。むしろ,十分な量のステロイド使用により,寛解率が高いことが報告されているため,成人の治療方針との乖離が生じている。        

irAEとして発症する重症筋無力症の臨床像 鈴木 重明
免疫チェックポイント阻害薬に関連した免疫関連有害事象として発症する神経・筋障害は多彩である。特に重要なのが,重症筋無力症(irAE-MG)であり投与早期に発症し,頻度は1%程度である。急速に進行し球症状やクリーゼを伴う重症例が多く,血清クレアチンキナーゼが高値であり筋炎の特徴を併せ持つ。致死的な心筋炎を合併する場合があり,Kv1.4抗体がバイオマーカーとなる。ステロイドなど免疫療法が有効で,早急に開始する必要がある。

ランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)の診療 北之園 寛子 , 吉村 俊祐 , 白石 裕一 , 本村 政勝
ランバート・イートン筋無力症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome:LEMS)患者の約90%がP/Q型電位依存性カルシウムチャネル(VGCCs)抗体陽性であり,臨床的に特に小細胞肺がんを伴う傍腫瘍型とがんを伴わない非腫瘍型に大別される。2022年5月に重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022として本邦初のLEMS診療ガイドラインが作成された。本論では,疫学・症状,診断・検査,および,治療・予後についてガイドラインを引用しながら解説する。

先天性筋無力症候群の診療 大野 欽司
先天性筋無力症候群(congenital myasthenic syndromes:CMS)は神経筋接合部信号伝達が先天的に障害される疾患群であり,神経筋接合部に発現する36種類の遺伝子において病的バリアントが同定されてきた。CMSは筋無力症状が必発ではなく先天性筋症を含む幅広い疾患との鑑別が重要である。2歳以下発症の筋力低下に対する低頻度ならびに高頻度反復神経刺激検査が必要である。多くの病型において病態に応じた治療法が存在し,遺伝子解析による診断が重要である。

MuSK抗体陽性重症筋無力症の病態 重本 和宏
重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)の長期的な寛解は稀で患者のhealthy-related QOLは健常者に比べて低い。MG患者の約5%は筋特異的チロシンキナーゼ(muscle-specific tyrosine kinase:MuSK)抗体が陽性のMGで,全般的に症状が重く難治例や筋萎縮が残存するなど予後不良例がある。最近,MuSK抗体陽性MGの発症メカニズムの研究から難治性の原因が明らかになりつつある。本論で最新の知見を概説する。             

臨床で遭遇するdouble seronegative重症筋無力症—実態と病態を考察する 近藤 誉之
アセチルコリン受容体(acetylcholine receptor:AChR)抗体,筋特異的チロシンキナーゼ(muscle-specific tyrosine kinase:MuSK)抗体が既存法で陰性の重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)は,DNMG(double seronegative MG)とされる。Cell-based assayでAChR抗体,MuSK抗体の関与が証明される症例もある。検査上,AChR抗体の検出されないAChR抗体関与症例は多く,両抗体の関与しない重症DNMG例も存在すると推測される。

神経筋接合部(NMJ)の形成・維持シグナルとNMJ標的治療の開発 山内(井上) 茜 , 山梨 裕司
骨格筋は個体の運動機能,認知機能や多様な臓器の健全性に必須の器官であり,骨格筋機能を支える筋収縮は運動神経による厳密な制御を受ける。運動神経軸索末端と筋管(筋線維)を結ぶ神経筋接合部(neuromuscular junction:NMJ)は骨格筋収縮の運動神経支配に必須の化学シナプスであり,その異常は筋力低下を含む多様な骨格筋機能の異常を引き起こす。本稿では骨格筋におけるNMJ形成・維持シグナルの理解とNMJ標的治療開発の概要を紹介する。

Fc融合蛋白を用いたAChR抗体中和・選択的B細胞抑制療法 鵜沢 顕之 , 山下 潤二 , 桑原 聡
重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)は主にアセチルコリン受容体(acetylcholine receptor:AChR)に対する自己抗体によって神経筋伝導が障害される疾患である。ステロイドを中心とした既存治療による寛解率は低く,また長期免疫抑制による有害事象のリスクも無視できない。われわれは「正常免疫を抑制せず,病原性抗体・細胞を選択的に除去する」というコンセプトのもとAChR構造に免疫グロブリンG1のFc部位を結合させた融合蛋白AChR-Fcによる新規治療の開発を進めている。この融合蛋白はAChR抗体の中和活性と病原性B細胞に対する細胞傷害活性という2つの作用機序を有し,MGの克服につながる新規治療シーズである。

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特集 新時代の重症筋無力症と関連疾患の診療

重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022 overview
村井弘之

成人重症筋無力症の診療
鵜沢顕之

小児重症筋無力症の診療
石垣景子

irAEとして発症する重症筋無力症の臨床像
鈴木重明

ランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)の診療
北之園寛子,他

先天性筋無力症候群の診療
大野欽司

MuSK抗体陽性重症筋無力症の病態
重本和宏

臨床で遭遇するdouble seronegative重症筋無力症──実態と病態を考察する
近藤誉之

神経筋接合部(NMJ)の形成・維持シグナルとNMJ標的治療の開発
山内(井上)茜,山梨裕司

Fc融合蛋白を用いたAChR抗体中和・選択的B細胞抑制療法
鵜沢顕之,他


■総説
てんかんの発生を時間的・空間的にピンポイントで抑える治療法の開発
宮川尚久,南本敬史

薬物依存症のサイエンス
松本俊彦


●〔予告〕新連載 スーパー臨床神経病理カンファレンス
第1回 易転倒性で発症し,経過5年で死亡した76歳男性例
佐野輝典,他

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