病態生理と神経解剖からアプローチする
レジデントのための神経診療
日常診療で普遍的に役立つ神経診察を学ぶ
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神経領域は「難しい」「分かりにくい」と敬遠されがちだが、体系的に理解できると面白いと感じることができる。本書は初心者向けに、領域横断的に内容をまとめ、オリジナルのシェーマを多用し概念を整理して提供することで、研修医、若手医師の学習に有用な一冊となっている。日常診療で普遍的に役立つ神経診察の方法、症候学、コモンな疾患を扱っており、非専門医であればここまで把握しておきたいという線引きを明示した。
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序文
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監修の序
杉田陽一郎先生と一緒に仕事をさせていただいたのは,2019年のことでした.私が勤める千葉県にある国保旭中央病院に総合診療と脳神経内科を研修するため,卒後5年目で赴任された時でした.特に,毎週水曜日に2人で当直をしたことが,昨日のように思い起こされます.当直の際は指導医とペアになるルールになっていたのですが,診療をともにするなかで,日々「これが5年目なのか」という驚きを禁じ得ず,特に脳神経内科領域では指導する点がみつからないほどの仕上がり具合でした.今回幸いにも監修にかかわる機会を得ることができましたが,まさに今,杉田先生の時代が到来したのだと実感している今日この頃です.
当時から杉田先生が心がけていたことの1つに解剖学的診断があったかと思います.杉田先生の神経診察は,問診から病変と病態を想起し,それを確認していくproblem-orientedなものでした.気になる症状,徴候からsnap diagnosisができる知識も必要ですが,この本では病歴から病巣を推測し,病歴との「整合性」を確認しながら,神経診察で確かめていく流れを説明してくれています.まず「第1章 神経診療の基本」を是非,しっかり読んでいただき,次の章に読み進んでいただければ,この本に込めた杉田先生の思いが伝わるかと思います.近年,どれを購入すべきか迷ってしまうほど,良質な書籍が多数出版されていますが,問診と診察の大切さを,丁寧に伝えている書籍は少数かと思います.
「第2章 運動・感覚障害と病巣同定」では,まさに病巣診断のノウハウを解剖学的分類にそって解説してくれています.運動・感覚障害の総論に続いて,特筆すべきは脳,脊髄,神経根,末梢神経,神経筋接合部,筋の項目です.それぞれの病巣の特徴を,まさに本書の真骨頂でもあるカラーイラストを使って分かりやすく解説してくれています.杉田先生のオリジナルのイラストには,神経伝導検査など脳神経内科領域独特の検査の解説まで,これまでの脳神経内科のテキストにはない理解のしやすさが際立っています.
そして,「第3章 代表的な症候・疾患」では,市中で遭遇する症候・疾患を中心に杉田先生ならではのイラストをふんだんに使い,実臨床の現場を想定した内容となっています.
まさに令和時代の寵児である杉田先生の著書の監修をさせていただくことは,私自身の生涯学習となりました.コメディカルのみなさん,医学生,初期研修医,専攻医,指導医やベテランの先生まで,どんな医療の領域,世代の方にとっても学びに満ち溢れた書籍となっておりますので,是非お手にとっていただければと存じます.
2023年8月
塩尻俊明
序
私はこれまで臨床現場で神経診療の教育をする機会に多く恵まれてきました.臨床現場で研修医の先生方と問答を繰り返す過程で感じたことは,多くの方が神経診療に対して苦手意識を感じており,またそこでの悩みや疑問,誤解はどの病院でも共通しているという点です.こうしたよくある疑問に対して,できる限り分かりやすく言語化し伝えようとする作業を繰り返し積み重ねていった経験が本書作成の契機になりました.
こうした経緯から本書の内容は主に研修医の先生やプライマリケア,救急領域の先生方を対象としており,特徴としては大きく以下の3点が挙げられるかと思います.
1点目は病歴と診察“history and physical”を重視した点です.神経診療は得てして画像所見の議論に終始してしまい,病歴や神経所見がないがしろにされてしまうケースがあります.しかし病歴や神経所見を軽視すると,容易に誤診に陥ります.また「この病歴がどういった病態と対応しているのか?」,「神経所見からどこが病巣か?」と検討を繰り返す過程にこそ神経診療の本質が宿っており,この重要性と面白さが少しでも伝わればという願いを込めています.
2点目はいきなり病名を挙げるのではなく,上記の病歴と診察を踏まえて「どこが病巣か?」,また「どのような機序か?」,そしてこれらを通じて「どのような臨床診断を挙げるか?」という診断の過程を重視した点です.例えばいきなりPOEMS症候群という病名を提示されると,「そんな難しい病気が診断できるわけがない」と諦めてしまうかもしれませんが,いきなり病名を挙げるのではなく(またいきなり検査に飛びつくのではなく)そこに至るまでの過程を重視しました.
3点目はプライマリケアや救急領域で役立つ内容を重視した点です.通常,神経を専門としない先生方が多発性硬化症の薬剤選択を行うことはなく,筋ジストロフィーなどの希少な変性疾患をフォローすることもないと思います.こうしたかなり専門性の高い知識,治療に関しては思い切って省略し,プライマリケアや救急領域で遭遇頻度の高い症候や病態を中心に記載しています.
本書を通じて少しでも神経診療への敷居が下がり,日常診療の役に立つことができれば幸いです.最後に本書を監修いただいた塩尻先生,神経内科の先輩方,一緒に臨床に取り組み疑問を投げかけてくれた研修医の先生方,看護師さんやリハビリテーションをはじめとした医療スタッフの方々,本書を作成いただいた医学書院の方々,生活を支えてくれた家族,そして何よりも多くを教えていただいた患者さんに深謝申し上げます.
本書の参考にさせていただいた素晴らしい教科書として“DeJong's The Neurologic Examination 8th edition” (Wolters Kluwer, 2019),『MMT・針筋電図ガイドブック』(著:園生雅弘/中外医学社,2018),『神経症候学を学ぶ人のために』(著:岩田誠/医学書院,1994),『カラーイラストで学ぶ神経症候学』(編著:平山惠造/文光堂,2015),『神経症状の診かた・考えかた(第3版)』(著:福武敏夫/医学書院,2023)を挙げさせていただきます.
2023年8月
杉田陽一郎
目次
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第1章 神経診療の基本
1 病巣と機序を考える
2 病歴の基本
3 病歴聴取の実践
4 神経診察の基本
第2章 運動・感覚障害と病巣同定
1 運動・感覚障害総論
5 運動障害(筋力低下)
1.解剖
2.病巣同定の基礎知識
3.診察方法の解説
6 感覚障害(しびれ)
1.患者の表現する「しびれ」が医学的に何を意味しているのか?
2.感覚障害の機能分類
3.感覚障害の性状分類
4.感覚障害の分布と神経解剖の対応
5.長さ依存性?長さ非依存性?
6.感覚と神経解剖の対応
2 病巣の特徴
7 脳
1.病巣診断上のポイント
2.診察
8 脊髄
1.髄節の理解
2.病巣診断上のポイント
3.解剖と病変の理解
4.急性脊髄障害へのアプローチ
9 神経根
1.病巣診断上のポイント
2.臨床像
3.診察方法(神経根性疼痛=放散痛の誘発方法)
4.頸椎症と神経合併症
5.腰椎症と神経合併症
10 末梢神経
1.病巣診断上のポイント
2.末梢神経障害の分類
3.検査
4.代表的な疾患
代表疾患
1.上肢の末梢神経障害
2.下肢の末梢神経障害
神経伝導検査
1.学校クラスの徒競走で考える神経伝導検査
2.病態との対応関係
3.検査の限界・誤解
11 神経筋接合部
1.病巣へのアプローチ
2.具体的な疾患
3.番外編:神経筋疾患による呼吸不全
12 筋
1.病巣へのアプローチ
2.具体的な疾患
3 障害部位からの病巣同定
13 上肢単独の運動または感覚障害
1.片側性
2.両側性
14 下肢単独の運動または感覚障害
1.片側下肢
2.両側下肢
15 上下肢の運動または感覚障害
1.片側上下肢
2.両側上下肢(四肢)
4 番外編
16 診断プロセス(病巣,機序)の実践
症例1/症例2/症例3/症例4/症例5/症例6/症例7/症例8
第3章 代表的な症候・疾患
17 意識障害
18 一過性意識消失
19 けいれん,てんかん
1.言葉の整理
2.発作の種類・分類
3.てんかんの診断
4.てんかん重積のイメージ
5.てんかん重積へのアプローチ
6.救急外来:“けいれん”へのアプローチ
7.脳波検査
8.抗てんかん薬
20 頭痛
2次性頭痛
1.突然~急性発症の頭痛アプローチ
2.代表的な疾患
1次性頭痛
1.1次性頭痛の分類
2.片頭痛(migraine)
3.緊張型頭痛
4.群発頭痛
21 急性期脳梗塞,TIA
急性期脳梗塞
1.初期アプローチ
2.病型診断
3.急性期管理・再発増悪予防
TIA
1.TIAの病歴聴取
2.診断
3.入院適応・リスク評価
4.治療(増悪予防)
22 脳血管と灌流領域
1.脳血管解剖
2.血管灌流域
23 頭部画像検査
1.頭部CT検査
2.頭部MRI検査
3.急性期脳梗塞での画像検査
4.画像と脳解剖
24 髄膜炎・脳炎
1.細菌性髄膜炎
2.無菌性髄膜炎
3.脳炎へのアプローチ
4.単純ヘルペス脳炎
5.抗NMDA受容体脳炎
6.脳腫瘍
7.感染性心内膜炎
25 脳症
1.肝性脳症
2.Wernicke脳症
3.抗菌薬関連脳症(AAE:antibiotics associated encephalopathy)
4.PRES(posterior reversible encephalopathy syndrome)
5.橋本脳症
26 髄液検査
1.腰椎穿刺の方法
2.代表的検査項目の解説
3.どの検査項目を提出する?
27 めまい
1.めまいへのアプローチ
2.眼振
3.病巣ごとの臨床像
28 視神経,視野,瞳孔
1.視神経・視野
2.瞳孔
29 眼球運動障害と複視
1.複視へのアプローチ
2.鑑別
3.検査
4.各論
5.共同偏視
6.眼瞼下垂
30 顔面感覚(三叉神経)
1.三叉神経の解剖
2.責任病巣と原因疾患
31 顔面運動(顔面神経)
1.顔面神経の解剖
2.病巣診断上のポイント:中枢性 vs 末梢性顔面神経麻痺
3.診察方法
4.末梢性顔面神経麻痺
32 構音障害・嗄声
1.構音障害へのアプローチ
2.嗄声
33 嚥下障害(舌咽迷走神経)
1.嚥下の機序
2.原因
3.嚥下障害へのアプローチ
4.嚥下障害での神経診察
5.嚥下機能のチェック方法
34 不随意運動
1.振戦(tremor)
2.舞踏運動/バリズム(chorea/ballism)
3.急性~突然発症の片側不随意運動
35 パーキンソン病
1.パーキンソン病
2.その他の疾患
36 高次脳機能評価
1.注意の評価
2.言語(失語)の評価
3.記憶(健忘)の評価
4.行為(失行)の評価
5.視空間認知の評価
37 認知症
1.認知症へのアプローチ
2.代表的な疾患の紹介
38 機能性神経障害
1.総論
2.診察方法
索引
書評
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神経診療を学ぶ初期研修・内科専攻医へ。通読の上,随時参照を勧めます
書評者:江原 淳(東京ベイ・浦安市川医療センター総合内科部長)
神経診療は難しく,苦手意識のある医師は多い。
なぜ難しく苦手と感じるのか。一つに,神経領域の幅広さがあると思う。解剖学的にも,脳,脊髄,末梢神経,神経筋接合部,筋などと多彩であり,病態的にも血管障害,感染症,自己免疫,変性など幅が広く,その組み合わせで膨大な疾患が存在する。誰しもその疾患数や領域の広さに圧倒され,特に神経内科を専門領域とするもの以外にとってこれを全て勉強しきることは無理だ,専門科に任せようという気持ちになるのもわからなくはない。
ただ一方で,救急外来で,一般内科外来に,脳卒中や意識障害,痺れの患者は受診するものであり,全てを神経専門家にコンサルトすることは現実的でなく,非専門医もそうした患者のマネジメントを適切に行えねばならない。
著者の杉田陽一郎医師は,2022年より神経内科の一人医長として東京ベイ・浦安市川医療センターに着任された。エビデンスに基づいた豊富な知識をもとに内科専攻医や研修医に対して熱心に神経診療を教育してくれ,病院全体の神経診療のスキルアップに多大な貢献をされ今ではなくてはならない存在となっている。本書にはまさに,彼が日々実践,教育されている神経内科診療のエッセンスがまとめられている。第1章の「神経診療の基本」では病歴と診察から病巣と機序を掴む,という最も重要な基本技術について丁寧に解説されている。非専門医であっても,できる限りその基本技術を習得してほしい,自身で診断仮説をもった上で専門医にコンサルトしてほしい,という強い想いが伝わる内容であると思う。
第2章では,運動,感覚の障害について病巣ごとの特徴がまとめられている。特筆すべきは,オリジナルのイラストやたとえなどを豊富に用いて,わかりやすく解説されている点である。神経内科は総論である神経解剖や診察方法を習得しないと鑑別に進めないが,ここの部分でつまずかないよう(習得を諦めてしまわないよう),大変に工夫されている。
第3章では,意識障害,けいれん,脳梗塞,頭痛,髄膜炎など神経領域で多く遭遇する病態,疾患について標準的な診療手順ついて解説している。同じく,豊富なイラスト,表でわかりやすく記述されている一方で,いずれも多数の国際的なレビュー論文やガイドラインを参照されており,一つひとつの章が非常に優れたレビューとなっていて指導医レベルが読んだとしても勉強になる内容である。
また,合間に臨床に役立つクリニカルパールが随所に散りばめられている点も秀逸である(例:先行感染+蛋白細胞解離=ギランバレ症候群,などキーワードから診断しようとすると誤診する,神経救急では脳を見たら心臓を見るなど)。
本書はまさに神経診療のエッセンスを臨床現場のGeneralistへ届ける,最適な本だと感じている。初期研修医や内科専攻医が「神経診療」を学ぶための最初の一冊として,強くお勧めしたい。豊富な内容ながら読みやすく工夫されており,ぜひ通読した上で,さらに当該の疾患や病態を経験したときにもう一度そこを読み直す,というように深く愛用していただくのが良いのではないかと思う。評者自身は卒後16年目の総合内科医師ではあるが,通読用の書籍版と病棟普段使い用の電子書籍版双方を活用しており,すでにベッドサイド教育の心強い相棒となっている。
非専門科が神経診療をやって良かったと思えるものにするために
書評者:舩越 拓(東京ベイ・浦安市川医療センター救命救急センター長)
救急外来・一般内科外来は,ふらふらする,力が入らない,めまい,しびれ,などの愁訴に溢れており,神経疾患を考えない日はありません。当院ではその中から抗NMDA受容体脳炎,ギラン・バレー症候群などさまざまな疾患が明らかになる過程を目の当たりにできますが,そんな診療の先頭に立つ脳神経内科医が本書を上梓した杉田陽一郎先生です。
しかしそもそも神経診療を苦手とする救急医・一般内科医は少なくないでしょう。苦手と思って避けていると上達しない→できるようにならない→避ける→上達しない,という悪いループから抜け出せなくなってしまいます。そもそも髄膜炎と脳卒中のみ意識していれば大丈夫,ややこしい脳神経内科の疾患が好きだったら救急医になってないよ,という声も聞こえてきそうです。とにかく苦手意識が強いんですよね。
6歳の子どもに説明できなければ,理解したとは言えない,と言ったのはかの有名なアインシュタインですが,本書は救急医や総合内科・初期研修医など神経診療を専門としない分野の医師に向けてわかりやすく解説しています。杉田先生は院内でのレクチャーも大変明快で難しいことを簡単に話すのに長けていて感動しますが,さすが,本書においてもそのエッセンスは受け継がれています。学習意欲をデザインする枠組みの一つにARCSモデル〔Attention(面白そう),Relevance(やりがいがありそう),Confidence(やればできそう),Satisfaction(やってよかった)の頭文字〕がありますが,本書にはイラストや具体的な症例提示が豊富で,神経診療が面白そう,やりがいがありそうと思わせてくれる工夫が随所にあります。しかし本書は入門的な内容に終始しているものではありません。シンプルに語られる内容の中に筆者の経験と多くの引用文献に基づいた重厚な含蓄が込められているのです。それを支える特徴として特筆するべきは以下の3点です。
(1)病名から入らないことの重要性
病名から入るのではなく「病巣」と「機序」を同定すること,これは本書を通じて一貫して強調されている筆者のメッセージです。診断学の大家である千葉大総合診療科の生坂政臣教授も診断不明例を考える際にまずは臓器と病態を考えることを強調し,そうすれば疾患そのものを知らなくても正診につなげられると仰っておられました。「臓器と病態」を「病巣と機序」に置きかえれば言っていることは本書も同様です。それにより診断精度の低い情報からシマウマ(まれな疾患のたとえ)に飛びついてしまう(本書では蛋白細胞解離とギラン・バレーの関係などが挙げられています)誤診を防ぐことができます。そのため病巣ごとに診断論が構成されており,本書の大きな特徴となっています。
(2)病歴を重要視している
脳神経内科といえば神経「診察」が命,と思いがちですが,本書のタイトルがなぜ神経「診療」なのかは本書を読めば1ページ目から明らかとなります。なぜなら第1章に配置されているのは病歴の取り方や注意点で,これはどの科の医師であっても(神経診療をしなくても)読むべき内容です。患者の言葉を医療用語に変換するプロセスである病歴聴取は漫然と話を聞くだけではうまくいかず,仮説に基づいた能動的な聞き取りが必要となります。患者さんが突然といっても,急性発症であったり,いよいよ限界を迎えて一線を超えた場合(本書ではもうダメだ型と表現されている)であったりさまざまなパターンがあることや,非利き手のTIA診断は難しい,といったことなどは経験のある臨床家であれば首肯しながら読み進めてしまうでしょうし初学者にとっては非常に重要なTipsとなります。唯一過去の所見を拾うことができるのは病歴,など病歴聴取に関するさまざまなパールも散りばめられ,これらは筆者本人が誰よりも病歴に真摯に取り組み試行錯誤を繰り返してきた証左でしょう。
(3)疾患の整理が秀逸
よくある成書では疾患ごとに章立てがなされ,症候が似た疾患が離れた項目になってしまうことで実践的な構成でなくなっています。しかし本書は症候別に章立てが構成されているため実臨床に活用しやすいという利点があります。非専門医にとっては関連の見えにくい,脊髄硬膜外血腫とTIAが誤診されやすい疾患としてまとめられていたり,パーキンソン病の章に水頭症が出てきたりするなどはその中の一例で,筆者が各疾患のゲシュタルト(シンプルなイメージ)を正確に把握し整理していないとできません。
これらの特徴に支えられた本書によって,今日から使える神経診療の実践的な能力が楽しみながら得られることはもはや疑いようもありません。
さらに,救急医にとっては,神経筋疾患による呼吸不全や意識障害の鑑別の進め方など本書内の何気ないコラムが救急外来の診療において大変参考になります。
さあ,本書を通読して苦手だった神経診療が,やりがいがありそう,と思えたあなた,本書を片手に臨床現場に出かけましょう,ARCSの最後の項目であるSatisfaction(やってよかった)が必ず得られるはずです!