BRAIN and NERVE Vol.76 No.2
2024年 02月号

ISSN 1881-6096
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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本邦における特発性正常圧水頭症の研究は世界的にも質が高く,多施設共同研究SINPHONI,SINPHONI-2や全国疫学調査は大きな成果を挙げている。その一方で,この疾患を十分に疑うことのできる症候を呈していても老化によるものとして見過ごされることが多く,病院受診率,正診率とも依然として低い。「治せる認知症」として,早期発見・早期診断に脳神経内科医が寄与できる余地は大きい。本特集では,2020年に改訂されたガイドライン第3版を概観しつつ,症候学や画像所見,鑑別診断やシャント術後の予後予測など,幅広いテーマを網羅した。最新の知見を読み解き,知識のアップデートを図りたい。

特発性正常圧水頭症の症候学 森 悦朗
特発性正常圧水頭症は,高齢者に,歩行障害,認知症,尿失禁の,いわゆる三徴をもたらす。どの症候も,加齢に伴う機能低下として,あるいは高齢者の神経系および非神経系疾患で生じる症状でもある。特発性正常圧水頭症においては,それぞれ失行性-失調性歩行,皮質下性認知症,切迫性尿失禁と特徴づけられるが,これらの特徴を知っておくことは臨床上重要である。本論では,特発性正常圧水頭症の症候学について解説する。         

特発性正常圧水頭症診療ガイドラインoverview 數井 裕光 , 河合 亮
わが国の特発性正常圧水頭症診療ガイドラインは世界初で,かつその後のiNPH研究の発展に伴い改訂している唯一のガイドラインである。本論では,ガイドラインの作成・改訂と多施設協同研究SINPHONIの実施が,車の両輪となってiNPH診療を発展させてきた好循環の流れを紹介した。またガイドラインの最も特徴的な「診断基準」と「診断と治療に関するアルゴリズム」を中心に解説した。

グリンパティック系と特発性正常圧水頭症 猪原 匡史
グリンパティック経路の流入路は動脈の最外層にある軟膜とグリア境界膜が形成する基底膜である。くも膜下腔から脳脊髄液はこの流入路を通って脳実質に流入し,その水成分はアクアポリン4の働きによって脳実質に汲み上げられる。その駆動力の1つは血管拍動であり,この経路不全により脳脊髄液はその正常のダイナミクスを失い,特発性正常圧水頭症の一因になる。その寄与度がいかほどかは今後の研究が必要である。

特発性正常圧水頭症の疫学・自然歴と遺伝 伊関 千書
わが国の疫学調査で,特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)は80代高齢住民のうち7.7%の有病率である一方,受診率は数%と低い。iNPHでは,発症数年前からAVIM(asymptomatic ventriculomegaly with features of iNPH on MRI)もしくはAVE(asymptomatic ventricular enlargement)の状態が認められる自然歴がある。SFMBT1遺伝子がリスク遺伝子の1つである。

特発性正常圧水頭症の鑑別診断—特に進行性核上性麻痺 大原 正裕
特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)は,特徴的な画像所見や症状,シャント術への反応性に基づいて診断される。しかし,iNPHに類似した画像所見は神経変性疾患でも見られることがある。そのため,特に神経変性疾患の病初期でその疾患に特徴的な症状が顕在化していない段階においては,iNPHとの鑑別が困難であることが多い。本論では,iNPHの鑑別診断として進行性核上性麻痺を中心に概説し,shamタップテストを含めた評価プロトコルについて紹介する。

特発性正常圧水頭症の神経病理と最近の動向 宮田 元 , 大浜 栄作
特発性正常圧水頭症に特異的な神経病理所見は確立されていない。剖検脳では血管壁の硬化性変化や脳実質の虚血性変化が高頻度に認められることが報告されており,臨床病理学的にビンスワンガー病との異同が議論されている。生検脳組織ではアルツハイマー病の病理所見が年齢調整した一般人口における頻度と同程度に認められることやアクアポリン4の発現変化が報告されており,後者は髄液循環動態の異常に関連する現象と考えられる。

特発性正常圧水頭症の最新画像診断 高橋 竜一 , 石井 一成
特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)は,原因不明の脳脊髄液の循環不全により認知機能障害,歩行障害,尿失禁をきたす疾患である。近年では,脳血流画像,拡散テンソル画像など機能的変化を捉えるさまざまなモダリティや画像解析法が開発され,正常圧水頭症の発症機構が明らかになりつつある。本論ではiNPHの画像診断の歴史,および近年の画像診断法について述べたい。

特発性正常圧水頭症のバイオマーカー 中島 円
特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)の病態生理は,いまだ不明である部分が多いものの,脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)の吸収能の低下により脳室拡大をきたす疾患であることについては,異論のないところであろう。CSFとともに老廃蛋白の排泄障害を有するiNPH病態では,異常蛋白が凝集しやすく,また多くの神経変性疾患では,蛋白質の異常な凝集と蓄積が疾患発症に深く関与する。iNPH診断に対する画像診断の役割が高くなり,特徴的な症状と脳画像でシャント治療の適応が決定されるなか,生物指標化合物(biomarker:BM)による補助診断は,治療予後に影響する併存神経変性疾患の鑑別や疾患発症機序を明らかにする病態の探求につながる役割がある。血液,CSFによるiNPH診断を補助するBMは,シャント治療の予後を予測する重要な検査である。

特発性正常圧水頭症の外科的治療 喜多 大輔
髄液シャント手術は特発性正常圧水頭症の唯一の治療法であり,術式として脳室-腹腔/心房,腰椎-腹腔がある。圧可変式バルブと抗サイフォンデバイスを組み合わせたハイブリッドバルブが普及し,シャント再建,シャント流量過多時の硬膜下血腫などの合併症は大幅に減少している。シャント術後の頭蓋内環境をより生理的状態に保つための技術開発が課題である。

特発性正常圧水頭症における髄液シャント術の予後予測 菅野 重範 , 鈴木 匡子
特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)におけるDESH(disproportionately enlarged subarachnoid-space hydrocephalus)の所見は,iNPH患者に対する髄液シャント術の有効性をある程度予測することができる。しかしながら,DESHの有無によらずiNPHではアルツハイマー病やレビー小体病の併存が多いことが近年明らかになり,これらの併存は術後の転機不良因子ではないかと考えられている。さらに,iNPH患者における髄液シャント術の長期予後はいまだ不明のままであり,その解明は今後の最も大きな課題の1つである。

特発性正常圧水頭症の運動障害とリハビリテーション 二階堂 泰隆
特発性正常圧水頭症の運動障害,とりわけ歩行とバランス障害は,転倒や日常生活活動の低下につながる重要な徴候である。本論では特発性正常圧水頭症の運動障害について,病態生理学的観点や運動学的観点などから解説するとともに,タップテストならびにシャント術前後における評価のポイントや転倒リスク評価のポイントを解説する。そして特発性正常圧水頭症のリハビリテーションに関する最新の知見を紹介する。            

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特集 特発性正常圧水頭症の現在

特発性正常圧水頭症の症候学
森 悦朗

特発性正常圧水頭症診療ガイドライン overview
數井裕光,河合 亮

グリンパティック系と特発性正常圧水頭症
猪原匡史

特発性正常圧水頭症の疫学・自然歴と遺伝
伊関千書

特発性正常圧水頭症の鑑別診断──特に進行性核上性麻痺
大原正裕

特発性正常圧水頭症の神経病理と最近の動向
宮田 元,大浜栄作

特発性正常圧水頭症の最新画像診断
高橋竜一,石井一成

特発性正常圧水頭症のバイオマーカー
中島 円

特発性正常圧水頭症の外科的治療
喜多大輔

特発性正常圧水頭症における髄液シャント術の予後予測
菅野重範,鈴木匡子

特発性正常圧水頭症の運動障害とリハビリテーション
二階堂泰隆


■総説
胎児性Fc受容体(FcRn)──自己免疫疾患における新たな治療標的アプローチ
村井弘之,原田大輔


●スーパー臨床神経病理カンファレンス
第1回 易転倒性で発症し,経過5年で死亡した76歳男性例
佐野輝典,他

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