医学界新聞


第26回日本心臓リハビリテーション学会の話題から

2020.08.24



心不全における緩和ケア×心リハ
第26回日本心臓リハビリテーション学会の話題から


 第26回日本心臓リハビリテーション学会(会長=九大大学院・筒井裕之氏)が7月18~19日,「心臓リハビリテーションの未来――協働から調和へ」をテーマにオンライン上で開催された。本紙では,心不全患者に関与する多職種によるシンポジウム「心不全緩和ケアにおける心リハチームのかかわり」(座長=兵庫県立姫路循環器病センター・大石醒悟氏,久留米大・柴田龍宏氏)の模様を紹介する。


 2018年度の診療報酬改定によって末期心不全患者が緩和ケア診療加算の対象に追加され,来る「心不全パンデミック」に向け緩和ケアはホットトピックとして扱われている。しかしながら実臨床では患者への介入や運営において,運動療法,患者教育に主眼を置く心臓リハビリテーション(以下,心リハ)と,症状緩和,日常生活支援を目的とする緩和ケアの線引きが曖昧となるケースもあり,両者をどう共存させていくべきかが模索されている。

包括的な疾病管理のために各職種ができることは

 最初に発表した循環器内科医の鬼塚健氏(前JCHO九州病院)は,緩和ケアが先駆的に導入されてきたがん診療と比較し,臨床経過の違いから「心不全診療には患者の希望を適切に反映しにくい特徴がある」と語る。がんの場合,比較的長い間身体機能が保たれやすいものの,心不全の場合は増悪と改善を繰り返す特徴的な病みの軌跡をたどりやすい(BMJ. 2005[PMID:15860828])。そのため心不全は臨床経過の予測が困難な上,状態を正確に把握しづらく,多職種によるより綿密な情報共有が必須となると述べた。

 一方で,こうした特徴的な病みの軌跡に対応するため,心リハ領域ではすでに多職種連携が実践されていることに言及。緩和ケアとの共存のために心リハで醸成されたリソースを活用し,患者のニーズに沿った医療を提供する体制の構築が必要と参加者に訴えかけた。

 「心リハナースの役割は患者の伴走者であること」との考えを示したのは,国立循環器病センターで心リハに携わる看護師の小西治美氏。心リハナースの長所は入院から外来までシームレスに患者にかかわれることであるとし,主治医,緩和ケアチームと協働し,「患者の望む療養を,生きることを支援する」ことが重要だと述べる。そうした心リハナースの役割の中でも,生活者としての患者に寄り添うことで患者の希望を聞き出し,スムーズに人生会議へとつなげる橋渡し的な役割が特に求められていると発表をまとめた。

 では,心不全における緩和ケアの導入はいつから,どのように行えばよいのだろうか。理学療法士の立場で心リハに取り組む阿部隆宏氏(北大病院)は,「積極的な心リハの導入に伴い,①症状モニタリングや,②患者ニーズに基づく目標設定がなされる,ステージCの段階から導入すべき」と主張する。①は症状緩和への介入,②は患者の意思決定支援につなげるきっかけの一つであり,心リハの継続によって緩和ケアへの導入を円滑にできるメリットをその理由に挙げた。他方,ステージDでは患者のリスクとベネフィットを考慮し,心リハの止め時を理解することも必要だと指摘。心リハを通じてコミュニケーションを取りやすい理学療法士が積極的に患者に介入し,多職種と情報共有しながらアプローチすることを求めた。

 最後に,心不全よりも先んじて緩和ケアとリハビリテーションの共存を実現してきたがん診療における取り組みを紹介したのは,理学療法士の井上順一朗氏(神戸大病院)だ。がん診療と同様,心不全診療の場合も診断後より症状緩和のための適切な治療を行いつつ,身体・精神機能,ADLの維持・改善を目的としたリハビリテーションの継続の意義が高いことを氏は強調した。その上で,患者のQOLの向上やgood deathにつなげるための包括的な患者へのかかわりを終末期までシームレスに行うべきとの見解を示し,シンポジウムを締めくくった。

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