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第3375号 2020年6月15日


【寄稿】

高齢者の外来処方における多剤処方の実態把握

石崎 達郎(東京都健康長寿医療センター研究所 研究部長)


 高齢者は複数の慢性疾患を抱えていること(多病)が多く1),5種類以上の薬剤が処方されること(多剤処方)も多数認められます。多剤処方は,薬剤管理の負担増,残薬の増加,薬物有害反応リスクの増大等につながり,高齢者医療における重要課題です。しかしながら,国内の高齢患者を対象に多剤処方の実態を都道府県単位で把握し,多剤処方の実態とその関連要因,薬剤併用パターンを検討した報告はこれまでにほとんどありません。

 今回,東京都における約109万人分の75歳以上の外来医科レセプトデータ(以下,レセプトデータ)を使用して多剤処方を分析し,薬剤併用パターンと多剤処方のハイリスクとなる薬剤を明らかにしました2)。本稿ではその研究内容をご紹介します。

レセプトデータからみた多剤処方の現状と併用パターン

 本分析では2014年5月から4か月間の東京都後期高齢者医療広域連合の匿名化済みレセプトデータを使用しました。分析対象の薬剤は継続的に毎日の服用が必要とされる内服薬とし,例外としてweekly製剤やmonthly製剤のある骨粗鬆症治療薬や抗リウマチ薬,また貼付薬(抗認知症薬)も対象に加えています。分析方法は,レセプトデータに含まれる医薬品コードを薬価基準収載医薬品コードと突合することで薬剤の成分を把握,成分単位で薬剤数をカウントし,多剤処方の実態を確認しました。

 結果,対象薬剤を処方された外来患者一人当たりの薬剤数は平均6.4種類(標準偏差3.8),中央値6種類(四分位範囲3~9),5種類以上を処方されていた患者は全体の63.5%,10種類以上は18.2%でした()。また,受診医療機関数の内訳は,1か所が30.5%,2か所31.2%,3か所以上は38.3%で,受診医療機関数が増えるにつれて,処方薬が5種類以上の患者割合は高くなっていました。

 対象薬剤を処方された薬剤数の内訳
5種類以上を処方されていた患者は全体の63.5%,10種類以上処方されていた患者は全体の18.2%であった。

 次に対象薬剤の中から慢性疾患の治療薬として代表的な16種類の薬効を選択し,因子分析を使って薬剤併用パターンを解析したところ,15種類の薬効についてに示すような5つのパターンが同定されました。これらの薬剤併用パターンは,次のような臨床的に妥当な解釈が可能と言えます。

 東京都における75歳以上のレセプトデータから導かれた薬剤併用パターン(2014年5~8月,n=109万4199)(クリックで拡大)
パターン1:慢性心不全や浮腫性疾患
パターン2:不眠症やうつ病等の精神科疾患
パターン3:骨粗鬆症や疼痛を伴う脊椎・関節疾患
パターン4:生活習慣病
パターン5:認知症

併存疾患への併用薬を考慮した診療ガイドライン開発に向けて

 現在,数多くの診療ガイドラインが国内外で発行されていますが,併存疾患とその治療による薬物相互作用について記されている診療ガイドラインはごくわずかです。高齢患者を対象とする診療ガイドラインを編集する際,併存疾患の治療薬における薬物相互作用を取り上げることで,薬物有害反応のリスクを減らすことが可能になると考えられます。

 しかし,薬物相互作用が問題となる薬剤の組み合わせは無数にあることから,診療ガイドラインに詳細な記載をすることには限界があります3)。今回の研究で示された薬剤併用パターンは,後期高齢外来患者の代表的な慢性疾患とその治療薬と解釈できます。そこで,5つの薬剤併用パターンについて,各パターンの中に併用禁忌薬や併用注意薬が含まれるかどうかを確認することで,高齢患者の薬物治療の際に注意すべき薬物相互作用を把握できます。

 一例として,パターン4に含まれる脂質降下薬と降圧薬の薬物相互作用を見てみます。日本医師会が公開した「超高齢社会におけるかかりつけ医のための適正処方の手引き」4)の「脂質異常症」編では,日本動脈硬化学会が編集する「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」を引用し,脂質降下薬と降圧薬の薬物相互作用に対する注意を促しています。具体的には,CYP3A4で代謝を受けるアトルバスタチンやシンバスタチンは,CYP阻害薬であるアムロジピンなどのカルシウム拮抗薬やワルファリンと併用されることで,スタチンの血中濃度が増加するといったことです。このように併用されやすい薬剤の一般名を示し,どのような相互作用に留意する必要があるのかを示すことで,薬物相互作用がより一層認識され,薬物有害反応の予防につながると考えられます。

薬剤の種類による多剤処方リスクの評価

 そもそも薬物有害反応のリスクを減らすためには,患者一人ひとりについて全ての処方薬を把握する必要があります。しかし,多忙な外来診療の場において,他の医療機関から処方された薬を含め,処方薬全てを把握することは,時間的制約もあり困難を極めます。そこで,本研究で明らかになった下記の分析結果から,多剤処方の可能性に気付くための判断材料をお示しします。

 外来患者一人当たりの薬剤数「1~4種類」を基準とした 場合,薬剤数「5~9種類」となるリスクが最も高かった薬剤種類は鎮痛薬(調整済みオッズ比6.62)で,利尿薬(同5.78),抗糖尿病薬(同5.70)が続きました(いずれもP<0.001)。同様に薬剤数「10種類以上」となるリスクが高かった薬剤は,鎮痛薬(同25.35)が最も高く,次いで利尿薬(同17.97),睡眠薬・抗不安薬(同17.34)となっています(いずれもP<0.001)。

 このように,多剤処方のリスクが高い薬剤が処方されている場合,その患者への処方薬がたとえ数種類であったとしても,他の医療機関からの処方薬を合わせると5種類以上,もしくは10種類以上の多剤処方となっている可能性があり,念のため他の医療機関からの処方薬を確認するとよいでしょう。

 今回,レセプトデータを使って示された後期高齢外来患者の多剤処方の実態は,高齢者医療に携わる医療専門職から見ると奇抜な結果ではなく,誰もが気付いていることです。しかし,この実態をデータで提示することによって,当事者が現状を客観的にとらえられるだけでなく,高齢者医療にかかわっていない人たちと現状を共有できるでしょう。

 今回は東京都における分析ですが,レセプトデータの分析は全国各地で実施可能です。医療専門職,高齢患者やその家族,そして多剤服用に係る保健指導に取り組もうとしている自治体関係者が多剤処方に対処する手立てを検討する際,今回の研究成果が活用されましたら幸いです。

謝辞
本稿執筆にあたり,東京都健康長寿医療センター薬剤科・島崎良知氏から多くの助言をいただきました。厚く感謝を申し上げます。

参考文献・URL
1)Prev Chronic Dis.2019[PMID:30703000]
2)Geriatr Gerontol Int.2020[PMID:32048453]
3)BMJ. 2015[PMID:25762567]
4)日本医師会.超高齢社会におけるかかりつけ医のための適正処方の手引き.2020.


いしざき・たつろう氏
1988年帝京大医学部卒後,92年同大大学院修了。博士(医学)。96年米ハーバード大公衆衛生大学院修了。帝京大医学部助手,東京都老人総合研究所(当時)研究員,京大大学院医学研究科助教授,准教授を経て,2011年より現職。