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第3366号 2020年4月6日


臨床研究の実践知

臨床現場で得た洞察や直感をどう検証すればよいか。臨床研究の実践知を,生物統計家と共に実例ベースで紹介します。JORTCの活動概要や臨床研究検討会議の開催予定などは,JORTCのウェブサイトFacebookを参照してください。

[第13回]経時的に測定したPROの解析

小山田 隼佑(JORTCデータセンター統計部門 部門長)


前回よりつづく

 本連載はここまで,臨床研究の「計画」と「実施」にスポットを当ててきました。今回は第8回(3345号)でも紹介した研究1)を実例に,臨床研究の「解析」について触れていきます。

経時測定データから解析する3つのアプローチ

 本研究は,がん治療中の口腔粘膜炎の疼痛に対する,インドメタシンスプレー製剤(Indomethacin Oral Spray:IOS)の疼痛軽減効果を検討する,プラセボ対照のランダム化比較試験です。疼痛の評価には,PRO(Patient-reported outcomes:患者報告アウトカム)の一種であるBrief Pain Inventory(BPI,0:全く痛くない~10:これ以上の痛みは考えられない,の11段階)のitem 6「今感じている痛み」を採用しています。

 PROを用いてデータを取得する際,同じ患者に対して複数時点で評価することが多いです。本研究では初回投与前(0分),初回投与後15分,30分,60分,120分,180分,240分の計7時点で評価しています。このように,あるアウトカムを時間経過とともに(=経時的に)繰り返し測定して得られたデータは,経時測定データまたは単に経時データと呼ばれます。

 経時的に測定したPROの解析として,主に3つのアプローチが考えられます()。以降,それぞれのアプローチ内容と具体例を簡単に説明します。

 経時的に測定したPROの解析の主なアプローチ(クリックで拡大)

 1つ目は「解析に利用する時点を事前に限定」するアプローチです(以下,アプローチ①)。「解析に利用する時点」とは,例えば「治療後のある1時点」や「治療前から治療後のある1時点への変化量・変化率」などを指します。

 第8回(3345号)でも紹介しましたが,本研究の主たる解析は「初回投与前(0分)と初回投与後30分におけるBPI-item 6の差(変化量)の,平均値の群間差に対する2標本t検定」であり,解析に利用する時点を2つに限定しているので,アプローチ①に該当します。今回用いているBPI-item 6はスコアが大きいほど痛みが強いので,変化量(=初回投与後30分-初回投与前)がマイナスに大きいほど改善の度合いが大きい,と解釈できます。

 主たる解析の結果,変化量の平均値とその95%信頼区間は,IOS群が-1.85[-2.37,-1.32],プラセボ群が-0.59[-1.02,-0.16],群間差(=IOS群-プラセボ群)は-1.26[-1.94,-0.57]であり,2標本t検定の結果はp=0.0005と統計学的な有意差が認められ,IOSの有効性が確認されました。

 解析に利用した時点での結果の図示化(各群の時間的傾向の要約)として,各時点の平均値±95%信頼区間を群ごとにプロットする表示方法も,特にランダム化比較試験でよく利用されます。図1より,初回投与直後から60分後までは群間差が広がり,以降,群間差がなくなっていくさまが確認できます。

図1 BPI-item 6における平均値±95%信頼区間の経時的変化

 アプローチ①の他の例として,変化率による評価が挙げられます。変化率は(変化量÷治療前)×100(%)で算出します。既に述べた通り,BPI-item 6では変化量がマイナスに大きいほど改善の度合いが大きいことから,変化率も同様に評価可能ですので,変化率がマイナスの場合を「改善割合」と呼ぶこともあります。

 本研究では「25%以上の改善の有無」や「33%以上の改善の有無」を患者ごとに判定し,改善した患者の割合について群間比較したところ,共にIOS群の方が有意に「改善した患者の割合が大きい」という結果を得ました。このように,領域によっては「スコアの平均値がどのぐらい変化したか」よりも「何%改善したか」のほうが臨床的に解釈しやすいと考えられますが,「何%以上の改善であれば臨床的に意味があると言えるのか」は,計画段階で十分に検討する必要があります。

適切なアプローチを計画段階から選択したい

 2つ目は「経時的に測定したデータを1つの統計量に要約」するアプローチです(以下,アプローチ②)。本研究ではアプローチ②として曲線下面積(Area Under the Curve:AUC)による評価を行いました。AUCとは,スコアの経時的推移と,スコアの下限によって囲まれた面積のことです。図2における水色の部分が,ある患者におけるBPI-item 6のAUCであり,患者ごとにAUCを計算し,その平均値を利用して群間比較を実施しました。AUCは本研究のように,「初回投与直後から60分までは群間差が広がるが,段々と群間差がなくなる」といった,「一時的な変動」を評価するのに有用です。

図2 ある患者におけるBPI-item 6の曲線下面積(AUC)

 AUCと同様,「一時的に変化して,最終的に元の状態に戻る」ような場合には,「最良値」や「最悪値」を評価対象とすることも有用です。最近では,PROを用いて定義可能な「臨床的に意義のある変化」(スコアの変化量や変化率など)が生じるまでの時間を評価対象とし,結果をカプランマイヤー曲線で表示することも多いです。一度そのような変化に達した場合に,その状態がしばらく持続する場合は特に有用です。

 3つ目は「経時的に測定した全てのデータを利用」するアプローチで,一般に「経時測定データ解析」と呼ばれます(以下,アプローチ③)。今回で言えば,初回投与後の全ての時点(15分,30分,60分,120分,180分,240分)におけるBPI-item 6に対して,何らかの統計モデルを仮定して解析する方法です。主な解析方法として,「反復測定分散分析」「混合効果モデル(Mixed-effects Model)」「一般化推定方程式(Generalized Estimation Equation:GEE)」などが挙げられますが,技術的に高度なため,詳細は割愛します。

 今回は経時的に測定したPROの解析として,主な3つのアプローチを具体例と共に紹介しました。「どのアプローチを採用すべきか」は,当然ながら目的に応じて選択すべきと考えられます。解析のシンプルさや,解釈のしやすさの観点からは,アプローチ①やアプローチ②が有用です。群間における経時的変化のプロファイルの違いを検討したい場合は,アプローチ③が有用と考えられます。計画段階から生物統計家にも相談しながら,適切なアプローチを選択するようにしましょう。

 なお,今回3つのアプローチを紹介するに当たって,欠測(得られるはずのデータが何らかの理由で得られなかった状態)は存在しないことを前提としています。実際,本研究ではBPI-item 6の欠測は発生しませんでした。しかし,臨床研究において欠測が発生することは多いですし,発生した欠測には何らかの対処が必要となる可能性があります。次回は主要評価項目に欠測が生じた場合の事例を紹介します。

今回のポイント

・経時的に測定したPROの解析として,主に,①解析に利用する時点を事前に限定,②経時的に測定したデータを1つの統計量に要約,③経時的に測定した全てのデータを利用,の3つのアプローチがある。
・計画段階から生物統計家にも相談しながら,目的に応じて適切なアプローチを選択したい。

つづく

謝辞:本研究の研究代表者である筑波大病院緩和ケアセンターの長岡広香氏に資料提供と助言をいただきました。感謝の意を表します。

参考文献
1)長岡広香,他.がん治療中の口腔粘膜炎に対するインドメタシンスプレー製剤の疼痛軽減効果の研究.第56回日本癌治療学会学術集会抄録;2018.

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