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第3364号 2020年3月23日


一歩進んだ臨床判断

外来・病棟などあらゆる場面で遭遇する機会の多い感染症を中心に,明日からの診療とケアに使える実践的な思考回路とスキルを磨きましょう。

[第9回]肺結核疑いの患者が入院したら……?

谷崎 隆太郎(市立伊勢総合病院 内科・総合診療科副部長)


前回よりつづく

こんな時どう考える?

 86歳男性,肺炎の診断で入院したが,肺結核の疑いで陰圧個室管理となっている。新人看護師から,「患者さんにN95マスクをしてもらわなくていいんですか?」と聞かれ,師長からは「部屋が一杯だから,隔離解除がいつになるか,ドクターに確認しておいてね」と言われた。どのような情報を確認すべきだろうか?

 結核は結核菌の感染によって起こり,全身のあらゆる臓器に病変を作る厄介な病気です。中でも,肺に病変を作る肺結核では,患者さんが咳やくしゃみをすることで結核菌が空気中に飛散し,他者へ空気感染するリスクがありますので,公衆衛生上,とても大きな問題を引き起こします。しかし,これまた厄介なことに,肺結核は臨床症状や画像所見だけでは,よくある細菌性肺炎と区別することが困難なので,診断が遅れることもしばしばあります。そこで私たち医師は,①抗酸菌塗抹検査,②培養検査,③核酸増幅検査の3つを駆使して肺結核を診断しています1)

結核を疑った際の検査について

 まず基礎知識として,結核菌は「抗酸菌」と呼ばれる菌の一種であること,そして,結核以外の抗酸菌のことを「非結核性抗酸菌(Nontuberculous mycobacteria:NTM)」と呼ぶことを知っておきましょう。その上で,それぞれの検査が何を示しているのを学んでいくと理解しやすくなります。

1)抗酸菌塗抹検査

 簡単に紹介すると,痰などの検体を特殊な方法で染色して抗酸菌を顕微鏡で直接観察する検査です。主な染色法にはチール・ネルゼン染色または蛍光染色が用いられますが,蛍光染色のほうが感度が高いです。顕微鏡で菌が見えたら陽性と判定し,その菌量に応じて1+,2+,3+と報告されます1)。ちなみにこの表記,古くはガフキー○号と表されていましたが,現在は併記されることはあるものの基本的には用いられていません2)。よって,細かい話ですが,ガフキーというのは検査名ではなく程度を表す指標ですので,医師に確認する際には「ガフキー提出しますか?」ではなく「抗酸菌塗抹検査しますか?」のほうが正確です(なお,ガフキーとは,結核菌を発見したロベルト・コッホの助手であるゲオルク・ガフキーの名字です)。

 さて,肺結核患者の喀痰の抗酸菌塗抹検査が陽性になると大変です。なぜなら,他者への感染力が強く,空気感染対策が必要になるからです(一方のNTMは,他者へ感染することはありません)。肺結核と気付かず一般病棟に入院させ,しばらく抗菌薬治療をしても治らないからと念のため出した喀痰の抗酸菌塗抹検査が「陽性」……,「実は肺結核でした」という状況は避けたいものです。

 ただし,この抗酸菌塗抹検査はあくまで抗酸菌の有無を単に調べるものであり,「結核菌なのかNTMなのか」を見極める検査ではありません。そこで,次に培養検査を行うことで菌名を同定する必要があるわけです。

■備えておきたい思考回路
抗酸菌塗抹検査の陽性は,結核とは限らない。非結核性抗酸菌(NTM)かもしれない。

2)培養検査

 この検査は一般的な細菌にもよく行われます。専用の培地に痰などの検体を塗って,コロニーと呼ばれる菌の集塊が生えてくるのをじっと待ち,そのコロニーを使って菌名の同定検査を行うものです(結核菌かNTMかも判別できます)。培養検査によって菌名を確定することも重要ですが,培養陽性になると薬剤感受性試験を行えるので,より適切な治療薬を選択できるようになります。結核の治療は6か月間以上の長期間に及ぶため,どの薬が効くタイプの菌なのかという情報は非常に重要です。なお,一般的な細菌であれば1日程度でコロニーを形成して培養陽性と判定されますが,結核菌をはじめとした抗酸菌は通常,培養陽性まで2~6週間程度の期間を要します(一部例外はあります)。患者さんの状態によっては何週間も悠長に待っていられませんし,そもそも結核かNTMか判明するまで何週間も空気感染対策を続けるなんて,一般病棟では現実的ではありませんよね……。そこで,次に説明する核酸増幅検査も同時に行います。

3)核酸増幅検査(PCR法,LAMP法など)

 2020年3月現在,結核菌と,NTMの一部であるMAC(Mycobacterium avium complex)の核酸増幅検査が利用可能です。この検査で結核菌が陽性と判定されれば,そこに結核菌が存在するということになります。

 つまり,抗酸菌塗抹検査の陽性だけでは結核かNTMかはわかりませんが,核酸増幅検査で結核菌陽性となれば,顕微鏡で見えたその菌の正体は結核菌ということになりますので,培養結果を待たずに「塗抹陽性の結核」という診断がつけられます。喀痰塗抹陽性の肺結核であれば空気感染するため感染対策が必要になり,原則,結核病床を有する病院での入院治療が必要になります。なお,塗抹・培養検査はその感度の問題などから基本的には3回行いますが,核酸増幅検査は1回のみ行います。

 以上のような結核の検査結果の解釈を,に簡単にまとめています。

 治療が必要な肺結核の検査について解釈の概略(筆者作成)(クリックを拡大)

■備えておきたい思考回路
結核の検査では,まず塗抹検査と核酸増幅検査の結果が得られ,しばらくして培養検査の結果が得られる。

どうする? 隔離解除の判断

 隔離解除の判断について,現状は「塗抹検査で3回連続陰性」が必要とされています。塗抹陰性であれば,たとえ核酸増幅検査が陽性であっても,後で培養が陽性になっても,他者への空気感染のリスクはほぼないと判断されるため,隔離解除が可能です。この3回連続の間隔ですが,同時に3回痰を採取すれば良いわけではなく,別の日に分けて3日間連続,塗抹陰性を確認することになっています(なお,米疾病管理予防センターでは最低8~24時間空けての3回検査でもOKとしており3),この方法なら最短2日で隔離解除が可能です。ただし,1回は必ず早朝痰が必要です)。もちろん,ただ機械的に3回検査して陰性なら即解除というわけではなく,最終的には感染管理チームや主治医により隔離解除して良いかどうかを臨床的に判断します。

■備えておきたい思考回路
肺結核を疑って隔離した場合,喀痰塗抹検査が3回連続で陰性を確認してから解除を検討する。

着用すべきマスクはどれか

 肺結核を疑った時点で空気感染対策を行うので,医療者が患者さんをケアする際には通常のサージカルマスクではなく,N95マスクを装着する必要があります。一方,患者さん自身は通常のサージカルマスクでOKです。

 結核菌は飛沫核感染という形で空気感染を起こしますが,患者さんの口から排出された直後には飛沫核の状態ではなく,唾液などさまざまな液体に覆われていて比較的サイズが大きい飛沫の状態であるため,たとえ咳やくしゃみをしてもサージカルマスクで飛散を十分に防ぐことができます。ですので,結核患者さんであろうと,患者さん自身にはサージカルマスクをつけてもらえば良いのです(患者さんにN95マスクを付けさせたら,苦しくて余計に呼吸不全が悪化しかねません)。

 この理解には,2つのマスクの目的が違うことを知る必要があります。そもそもN95マスクの主な目的は「マスクを装着している人が他の人から病原体をうつされないため」であり,サージカルマスクの主な目的は,「マスクを装着している人が他の人に病原体をうつさないため」だからです。

■備えておきたい思考回路
たとえ肺結核でも,患者さんにはサージカルマスクの着用でOK!

 冒頭の患者さんについて,新人看護師には「患者さんにはむしろサージカルマスクが適切」と教育し,担当医には「喀痰塗抹検査3回目の結果がいつわかるのか」について確認し,師長へと報告しました。

今日のまとめメモ

 肺結核の隔離については通常,医師だけでなく感染管理に携わる看護師(ICN)が大きな役割を果たします。ただし,現場で働く皆さんも,肺結核疑いの患者さんの不安や疑問に寄り添えるよう,正しい検査の知識を備えておきましょう。

(つづく)

参考文献
1)Clin Infect Dis. 2017[PMID:27932390]
2)阿部千代治.結核菌検査の標準化と精度管理.結核.2003;78(8):541-51.
3)MMWR Recomm Rep. 2005[PMID:16382216]

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