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第3348号 2019年11月25日


一歩進んだ臨床判断

外来・病棟などあらゆる場面で遭遇する機会の多い感染症を中心に,明日からの診療とケアに使える実践的な思考回路とスキルを磨きましょう。

[第5回]エビデンスに基づいた解熱鎮痛薬の使い方

谷崎 隆太郎(市立伊勢総合病院内科・総合診療科副部長)


前回よりつづく

こんな時どう考える?

 細菌性肺炎の診断で救急外来より緊急入院した65歳男性。酸素投与(鼻腔カニューレ 3L/分)で呼吸困難は改善したが,38.4℃の発熱が続いている。本人は,体熱感があるが水分摂取も可能で,特に熱で苦しいわけではないとのこと。さて,この患者は積極的に解熱すべきだろうか……?

 医師不在時の指示の中に,発熱時にどう対処するかの指示はよく見掛けますよね。「発熱時:クーリング」といった指示に対し,「発熱時って,何℃からやねん!」と心の中で声なきツッコミを入れた経験のある方も多数いらっしゃるのではないでしょうか。本連載の第2回(3335号)を読まれた方は,「その前に,まずは血液培養2セットだよね?」と既に実践的な思考回路へと昇華されていることと思います。

 さて,解熱させる方法としては,クーリングまたは解熱鎮痛薬の使用が思い浮かびますが,古くから行われてきたこの対症療法に対して近年,新たな知見が集積されてきています。

 今回は,そんなエビデンスを紹介しながら,解熱処置の判断について考えていきましょう。

発熱を見たら,すぐ解熱か?敗血症による発熱への解熱処置

 現在使用できる代表的な解熱鎮痛薬はアセトアミノフェン,非ステロイド系消炎鎮痛薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs;NSAIDs)の2種類であり,病棟でもよく見掛けるかと思います。両者とも解熱・鎮痛作用はありますが,NSAIDsは抗炎症作用も有することが特徴の一つです()。また,NSAIDsの中にも作用時間や作用の強さなど,細かい分類が存在します。

 アセトアミノフェンとNSAIDsの特徴の違い(クリックで拡大)

 さて,発熱の原因で多いのは,何と言っても感染症ですよね。「熱は悪!」と思いがちですが,発熱自体は原因微生物に対する生体の反応ですので,外部から強制的に解熱することは予後を悪化させるかもしれない,といった研究もいくつか報告されています。しかし,熱でつらそうな患者さんを目の当たりにすると,解熱して少しでも早く楽にしてあげたいとも思ってしまいますよね……。比較的お手軽に試みられる処置であるクーリングについての研究を見てみると,38.3℃を超えた敗血症性ショックの患者に対して36.5~37℃まで下げるのを目標に,48時間を目安にクーリングしたところ,14日後の死亡率が低下したそうです1)。その後の研究でもクーリングが死亡率を上げる,という報告は出てきていませんので,発熱に対してまずはクーリングを行う,という方法は許容されそうです。

 では,解熱鎮痛薬はどうでしょうか? 実は,敗血症患者にNSAIDsまたはアセトアミノフェンを投与すると,28日死亡率がそれぞれ2.6倍,2.1倍高くなったとの前向き観察研究があります(クーリングは死亡率を上昇させませんでした)2)。発熱自体は死亡率とは関連しておらず(むしろ高体温よりも低体温のほうが死亡率が高い),解熱薬を投与したほうが予後が悪い,というのは興味深い結果です。一方で,その後発表されたより質の高い研究では,少なくともアセトアミノフェンによる解熱は敗血症患者の予後に影響しなかったと報告されています(この研究ではアセトアミノフェン1回1 gを6時間ごとに静脈内投与しています)3)

 果たして解熱薬が有効なのか,はたまた有害なのかについては,いまだ決着はついていませんが,少なくとも上記の研究からは,熱で苦しそうな患者さんに対してはまずクーリングを試み,あえて解熱鎮痛薬を処方するとしたら,アセトアミノフェンを選択する,ということで良さそうです。

■備えておきたい思考回路
 感染症による発熱にはまずクーリングを行う。解熱薬を投与するならアセトアミノフェンの選択を!

 ちなみに,経口アセトアミノフェンの添付文書上の成人への投与方法は,解熱目的であれば1回300~500 mgを1日2回まで(最大1500 mg/日),鎮痛目的であれば1回300~1000 mgを4~6時間ごと投与(最大4000 mg/日)となっています。どちらも年齢・症状に応じて適宜増減できます。小児に対しては,解熱・鎮痛ともに1回10~15 mg/kgを4~6時間ごと投与(最大60 mg/kg/日)となっています。

実際に解熱鎮痛薬を使ってみると?

 では実際に解熱鎮痛薬を使用すると,体温が低下する以外にどのような作用があるのでしょうか? アセトアミノフェン,NSAIDsそれぞれで平均血圧が6.6±6.0 mmHg,5.9±5.7 mmHg低下し,さらにNSAIDs使用群では有意な尿量減少を認めることが指摘されています4)。ショック状態の患者さんなどでは,血圧低下は臓器血流のさらなる低下につながりますので,余計な血圧低下は避けたいところですよね(ちなみにクーリングは血圧を低下させませんでした)。

 また,高血圧治療などで「利尿薬とACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬」または「利尿薬とARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)」の2剤を併用している患者さんにNSAIDsを投与すると,急性腎障害のリスクを有意に増加させると報告されており5),患者の服薬状況もしっかり確認する必要があります(これは主に医師や薬剤師が確認すべきことですが,参考まで)。

 そしてもちろん,基礎疾患に慢性腎臓病がある方にはそもそもNSAIDsを使用しないことが推奨されます。

■備えておきたい思考回路
 アセトアミノフェンでもNSAIDsでも,使用後は血圧低下に注意!

 さて,NSAIDsの副作用ばかりに着目しがちですが,その鎮痛作用は外傷や運動器疾患,癌性疼痛などに幅広く利用されています。また,抗炎症作用も有することからリウマチ性疾患,自己炎症疾患などでも治療薬の一つとして位置付けられています。腫瘍熱に対してはナプロキセンというNSAIDsが投与されます。

 少なくとも感染症による発熱に対しては「解熱目的のみでのNSAIDsの使用」は推奨されませんが,こと鎮痛または抗炎症作用を求める場合には,上記の副作用に留意しながら適正に使用することで,NSAIDsは,臨床上非常に重要な役割を果たしてくれる薬剤でもあります。

 「熱で苦しいわけではない」と話していた冒頭の患者さんについて,医師からの指示を確認すると38.3℃以上で「クーリング」または「アセトアミノフェン400 mg内服」の2つの指示がありました。患者さんは熱による苦痛症状もないようでしたので,本人と相談の結果,一旦クーリングのみで経過を見る方針としました。

今日のまとめメモ

 敗血症による発熱に対しては,解熱薬を使用する前にまずクーリングを試みましょう。ただし,熱のせいで食欲が出ない,熱のせいで苦しくて眠れない,といった苦痛が患者さんに大きいようであれば,解熱薬の投与も検討してください。ただし,その場合でもまず選択すべき薬としてはNSAIDsではなくアセトアミノフェンが推奨されます。

 さて,気温と湿度が低下してくると気になり始めるのが,そう,インフルエンザの流行ですね。そこで次回は,インフルエンザについて知っておいてほしい知識とスキルをお伝えします。

(つづく)

参考文献
1)Am J Respir Crit Care Med. 2012 [PMID:22366046]
2)Crit Care. 2012 [PMID:22373120]
3)N Engl J Med. 2015 [PMID:26436473]
4)江木盛時,他.重症患者に対する解熱処置.日集中医誌.2012;19(1):17-25.
5)BMJ. 2013 [PMID:23299844]

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