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第3348号 2019年11月25日


看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第179回〉
続 AI技術と人間の読解力

井部 俊子
長野保健医療大学教授
聖路加国際大学名誉教授


前回よりつづく

 学校教育に必要なことは,「一に読解,二に読解,三,四は遊びで,五に算数である」と主張する新井紀子さんが,読解力アップの実践法を示した『AIに負けない子どもを育てる』(東洋経済新報社)を2019年9月に出版した。この著書は『AI vs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)の続編である。

読解力とは何を指すのか

 今回は,AIが苦手とする読解力を人間が身につけるにはどうしたらいいのかがメインテーマである。そこで「人間の読解力を診断し得るような高品質なベンチマークを作り,人間がそれを有償で受検する傍らで,AIにもそれを解かせてみるという研究」に取り掛かった。そうして生まれたのが「答えが書いてあるのに解くのが難しい不思議なテスト」とされるリーディングスキルテスト(RST)である。

 RSTは6分野に分類して設計され,読者は本書の第3章でRSTを受検することができる。6分野とは,①係り受け解析(文の基本構造である主語・述語・目的語などを把握する力),②照応解決(指示代名詞が指すものや,省略された主語や目的語を把握する力),③同義文判定(2文の意味が同一であるかどうかを正しく判定する力),④推論(小学6年生までに学校で習う基本的知識と日常生活から得られる常識を動員して文の意味を理解する力),⑤イメージ同定(文章を図やグラフと比べて,内容が一致しているかどうかを認識する能力),⑥具体例同定(言葉の定義を読んでそれと合致する具体例を認識する能力)で構成される。近未来AIには到底解けそうにない問題群は⑤イメージ同定,⑥具体例同定であるという。

 新井さんはRSTを提供する一般社団法人「教育のための科学研究所」を立ち上げ,すでに小学6年生から一流企業の社会人まで,延べ11万人を超える人々が有償版のRSTを受検した(私も本書で受検したが,確かに「きちんと読む」のは結構疲れる)。

幼児・児童期の教育の在り方

 新井さんはRSTの回答について丁寧に解説しているが,本稿では個人的に関心のある「意味がわかって読む子どもに育てるために」(第9章)を復習したい。「すべての子どもに,ゼロ歳から十分に母語のシャワーを浴びる機会,インターネットから切り離されてリアルな外部の世界と接触する十分な機会,そして歩いたり,走ったり,同年代の子どもと喧嘩をしたり仲直りをしたりする機会が保証されるべきだ」と著者は主張する。さらにリーディングスキルを向上させると考える幼児・児童期の教育の在り方を提示する。

 本稿では,幼児期および小学校高学年に関する提言を紹介する。

【幼児期】
1)身近な大人同士の長い会話を聞く機会を増やすこと。特に多様な年代の大人同士の会話を聞く機会があるとよい。
2)身近な大人が絵本を開いて,繰り返し読み聞かせをしてあげてほしい。
3)信頼できる人に自分は守られているという実感を持てること。
4)社会に関心を持つようになったらごっこ遊びができる環境を作ったり,広告や駅名を読んでやったり,貨幣で何かを買ったり,簡単な調理を一緒にする機会を増やす。
5)日々の生活の中で,子どもが身近で小さな自然に接する時間を取る。
6)子どもが自分の関心に集中できる時間を十分に確保する。
7)同世代の子どもたちと接し,少し年上の子どもの真似をしたり,憧れたりする機会を確保する。

【小学校高学年】
1)徐々に発達の差が縮まるが,①暗記やドリルに頼る,②自己肯定感が低く諦めやすい,③試行錯誤を怖がる,④グループ活動で意見を言わないようならば注意が必要。
2)穴埋めプリント,ドリル類から徐々に卒業させて,板書をリアルタイムで写せるように指導する。
3)新聞を読むことを奨励し,ニュースの要約や感想を書かせる宿題を出す。
4)他者に対して,きちんと説明すれば聞いてもらえるが,いい加減に説明すると聞いてもらえないことを学ばせる。
5)新しい言葉を定義するときには必ず「とは」を使って説明させることを繰り返す。
6)理科や家庭科での作業を手順どおり箇条書きすることを指導する。
7)算数や理科の教科書を音読したり,定義を口頭で説明させる。
8)抽象概念が多くなり,推論能力なしには授業内容の理解が難しくなる。
9)複数の段落から成る文章を読んで内容を200字程度でまとめることができるように指導する。
10)文章表現をレベルアップし,「とても」「すごく」「~と思った」「よかった」などの定型的な文体に逃げ込まないようにする。
11)暗記とドリルに頼りすぎないようにして基礎的スキルを身につけて中学校に進学してほしい。

 AIが苦手とする読解力を,人間が身につけるための道程を知るために少し長めの引用を行った。大胆にまとめると,読解力とはRSTを構成する6分野であり,各分野の強化は幼児・児童期から始まっていることがわかった。私はあらためて板書の効用を知り,穴埋め式のドリルは効果的でないこと,言葉の定義を理解するよう仕向けること,見たことを正確に記述することの訓練など,大学の授業への応用を考えた。

(つづく)

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