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第3341号 2019年10月7日


【座談会】

成人移行支援の実現には
プライマリ・ケア領域との連携を見据えて

窪田 満氏(国立成育医療研究センター総合診療部統括部長)=司会
平田 陽一郎氏(東京大学医学部附属病院小児科講師)
一ノ瀬 英史氏(いちのせファミリークリニック副院長)


 20歳を超える小児慢性疾患の患者数は,小児慢性特定疾病対象疾患患者だけでも毎年約1000人ずつ増加している。現代の専門分化された小児診療の現場では,成年を迎えた患者に対する適切な医療の提供は困難であり,成人診療科への移行が課題となっている。

 今回本紙では,厚労科研「小児期発症慢性疾患を持つ移行期患者が疾患の個別性を超えて成人診療へ移行するための診療体制の整備に向けた調査研究」で研究代表者を務める窪田氏を司会に,大学病院における成人移行支援の現状を知る小児科医の平田氏,プライマリ・ケア医として移行期の患者を数多く引き受けてきた一ノ瀬氏と共に,小児科医および成人診療科の医師が身につけるべき視点を明らかにする。


窪田 小児診療が進歩し,以前なら助からない命が成人の年齢にまで達することが増えました。これは大変喜ぶべきことです。しかしながら,成人になっても小児時代から通う小児科を受診し続ける患者が一定数存在するのもまた現実です。近年,こうした患者に対して成人診療科への移行を支援する仕組みが模索されています。

 そこで今回は,大学病院における成人移行支援の現状を知る小児科の平田先生と,プライマリ・ケア医として移行期の患者を数多く引き受けてきた一ノ瀬先生と共に,小児科医および成人診療科の医師がそれぞれ認識しておくべき課題を共有したいと思います。

小児科内に増加する移行期患者

窪田 まずは,NICUの満床問題(MEMO)を起点に成人移行支援の問題を考えてみたいと思います。

 2008年にNICUの満床問題が注目された後,高度医療機関ではその解決策として小児在宅診療が推進されるようになりました。しかし,「NICUに空床をつくる」という大義のために,その裏側では患者家族に大きな負担を強いてきたのも事実であり,「病院から追い出された」という感情を家族が持つことも経験しています。

 こうした影に潜む問題が,「小児診療から追い出された」という形で成人移行支援の現場でも起ころうとしています。まずは先生方から現状を聞かせてください。

平田 全国的な数値ではないかもしれませんが,東大病院という1つの総合病院のデータを示します(図1)。当院の小児科外来患者数は年間約5000人です。そのうち20歳以上の患者は約300人で,この数は減少傾向です。一方で, 2014~16年までの3年間を見ると,10~12歳,16~18歳の患者数は徐々に増加しています。つまり,現在10代の患者を成人診療科へ移行させる努力を行わない限り,小児科で診なければならない患者がどんどん増加すると考えられます。こうした状況に鑑み,当院では2015年に成人移行支援のタスクフォースを組織して,翌年から移行期支援外来を開設しました。

図1 東大病院小児科外来受診者の年齢分布(2014~16年)

窪田 外来開設が20歳以上の小児科外来受診者数減と関連しているのでしょうか。

平田 外来開設よりも前からさまざまな取り組みを行っていたので一概にそうとは言えませんが,要因の一つではあるはずです。その他の取り組みとして,2008年から循環器内科に開設された成人先天性心疾患専門外来の存在も大きいですね。当院では生後間もない患児の心臓手術を数多く行っていることが影響し,移行期支援外来の患者の半分は循環器疾患の患者です。これらの患者が20歳を超えると,上述の成人外来に紹介されるシステムです。

 循環器領域における成人移行支援のための受け入れ窓口は全国的にも広がりつつありますが,地域や病院によってはいまだに小児科が患者を抱えているケースもあります。

窪田 受け入れ先の専門外来が存在するのは成人移行支援の実現にとって,大きな意味を持ちますよね。

 一方で,受診する小児科の病院内に専門外来がない場合は,地域の病院に引き継ぐ必要があります。私はこの受け入れ先を地域医療に親和性の高いプライマリ・ケア医が担うことが理にかなっていると考えています。実際に移行期の患者を受け入れる一ノ瀬先生はどうお考えでしょうか。

一ノ瀬 現場で手応えを感じています。しかし,プライマリ・ケア医の中で小児診療に対する経験値の差が存在するのも事実です。現在,家庭医研修中の医師に対し小児診療の研修年数に関するアンケートを実施している最中で,現時点では約4分の3が小児科研修1年未満という結果が出ています。ただ,実際にプライマリ・ケア医が対応する小児患者は,風邪や胃腸炎などの軽症例が大部分を占めます。一般的に慢性疾患や難病を抱える小児患者を対応することは多くないのですが,もし仮に専門的な知識が必要となる患者の対応をする場合は,適宜小児科の臓器専門医と連携して診療に当たることになります。

窪田 一ノ瀬先生のように重度の患者や難病患者を受け入れる医師は少ないのでしょうか。

一ノ瀬 そうですね。ですので,全プライマリ・ケア医に向けて「今日から移行期の患者を診てください」と言うのは現実的ではありません。

窪田 確かに,受け入れを検討していただける医師へ患者の病名を伝えた瞬間に手を引かれるケースはよく経験します。

一ノ瀬 その点は事前の話し合いが必要です。「Aという病態なので,Bの状態になるかもしれませんが,普段はCの治療だけで十分です」と簡単に伝えてもらうだけでも,受け入れ側の安心感は増すはずです。

平田 より多くのプライマリ・ケア医が患者を引き受けられるよう「希少疾患だけれどもケアは可能だ」とのメッセージを小児科医は地道に発信し続ける必要がありますね。

窪田 その通りです。成人移行支援の現場では,すでに水面下で多くの問題が生じているものの,小児科医と内科医の双方の努力によって,問題が表在化していないだけだと私は考えています。移行期の患者が需給の一致点以上に増えた場合に表在化するでしょう。小児科側も対応可能な範囲に限界があるため,お互いに歩み寄り,落としどころを探らなければなりません。

対象となる患者の特徴とは

窪田 トランスファー(転科)の視点から見て,単純に患者が成人診療科へ移行する場合でも,移行しやすい患者とそうでない患者が確実に存在します。それぞれの患者でどのような特徴があるのでしょうか。移行しやすい患者の特徴から教えてください。

平田 成人診療科と病名が同じで,移行先の医師も病態を想像しやすい患者です。例えばIgA腎症や糖尿病などです。治療法に多少の違いはあれど,病名に親和性があれば受け入れ側の医師が身構えることは少ないため,移行支援が容易です。

窪田 日本腎臓学会と日本小児腎臓病学会が連携して「腎疾患の移行期医療支援ガイド」を作成したことからも,成人移行支援への理解が進んでいると感じます。治療ガイドラインの連携は徐々に増えつつあります。

平田 加えて,ヘルスリテラシーの高い患者も移行が滞りなく行えます。先日も,先天性心疾患と先天性難聴を抱える高校生の患者が1人で来院しました。この方は,病院での手続きも全て1人で行えますし,診察時には筆談で質問もしていました。

窪田 なるほど。一方で,平田先生は成人移行支援がうまくいかない患者の背景についても調査されたようですね。

平田 はい。当院の外来を受診した患者データをもとに無作為介入試験を実施したところ,複数診療科にまたがる小児患者の移行支援が特にうまくいっていないことがわかりました。

窪田 その原因は何だと考えますか。

平田 主治医の不在だと感じています。小児科医は,いわば年齢を区切って小児に焦点を当てた総合内科医ですが,成人した途端に臓器別に診療科が分かれるため,患者の立場からすると,今まで1人だった主治医が突然増加し,身の回りのことを相談すべき相手がわからなくなってしまうのです。

一ノ瀬 成人診療科側からすれば「主治医を宣言しようがない」とも言えます。患者の生活全体をコーディネートする人材がいないことは課題ですね。

平田 おっしゃる通りです。小児科を受診していれば,小児科医がコーディネーターの役割を果たしますが,小児科を離れた際には,その役割を担う人材が突然いなくなります。

窪田 複数診療科にまたがる患者の場合,各診療科へのコーディネートは親が代替するしかないのでしょうか。

一ノ瀬 相談支援専門員が手伝うことはあるものの,親が担うケースがやはり多いです。ハブの役割を担う医師として総合診療医の存在も候補に挙げられますが,対応可能な医師はまだまだ少数です。この分野には職種として確立したケアマネジャーのようなコーディネーターが少ないのも実情ですね。

窪田 逆に,複数科にまたがらない患者であっても成人移行支援がうまくいかない場合はありますか。

平田 例えば心疾患を抱えるケースで考えると,①いつまでも親が一緒に診察室に入るケース,②ヘルスリテラシーが低いケースの2つが挙げられます。循環器内科に転科後,「怠薬が多い」「自分の疾患を自分の問題だと感じておらず,全て親任せ」などの理由から,小児科に「逆紹介」される患者も多いのです。すなわち,トランスファーはうまくいっても,トランジション(移行期支援)の面に問題がある場合が多い。この2つは,丁寧に分けて考える必要があります。

トランジション外来での患者教育と病院内外の連携

平田 これまで述べてきたように,医師同士は紹介状1枚でトランスファーができたように見えても,その裏には患者の満足度やヘルスリテラシーなどのトランジションの課題が隠れています。これが成人移行支援をさらに難しくする要因です。窪田先生の施設ではそうした問題を減らすためにトランジション外来を開設したようですね。

窪田 はい。2015年に開設した外来では,自分の病気を正しく理解して,種々の医療資源を活用できることを目標にしています。そのため,診療科の担当医師,母性内科医師,ソーシャルワーカー(SW),こころの診療部の医師,総合診療部の医師が1つのチームとして患者・家族にかかわり,双方の調整役としてトランジション外来看護師が位置します。

一ノ瀬 その外来では具体的に何を行っているのでしょう。

窪田 当外来では「マイサマリー」を課題に挙げ,自分で自分の病歴を1枚の紙に書けるようになってもらいます。

 紹介状だけでは,どうしても患者の状態を全て伝えきれないので,移行先の医師から聞かれた質問に,患者本人が正しく答えられる状況を作り出す必要があるためです。例えば,移行先の医師が紹介状を見て,第一選択薬ではない薬剤を使用していたことに疑問を持った場合,「なぜこの薬ではないのか?」との質問に,患者が「以前アレルギーを生じたことがあるので」などと答えられればそれで済みます。

一ノ瀬 外来設立により,どのような成果が出てきましたか。

窪田 開設から約3年半で343人に介入しました。年齢分布は図2に示した通り,15~19歳が一番多く,35歳以上の患者も無視できないほど存在していました。また当外来へ紹介する診療科を見てみると,神経科が最も多いことがわかりました(図3)。

図2 成育医療研究センターにおける年齢別のトランジション外来受診者数(2015年9月~19年2月,n=343)

図3 成育医療研究センターにおける診療科別のトランジション外来受診者数(2015年9月~19年2月,n=343)

 もちろん,当外来に紹介されずにスムーズに転科する患者も一定数存在しますので,当外来を受診した343人は移行がそもそも困難な患者です。この中の74人が成人診療科へ完全に移行できたので,試みとしては一定の評価をしています。

平田 トランジション外来内での役割分担はどうしているのでしょう。

窪田 看護師を中心とした運営で,月1回カンファレンスを開き,新規の依頼患者に関する方針の検討や,継続患者の進捗度合いの確認をしています。

平田 なぜ,医師が中心ではないのでしょう。

窪田 医学領域よりも先に看護領域で成人移行支援が注目されており,思春期看護の一環として取り組みが進んでいたことが一因です。

平田 なるほど。窪田先生が勤務するような小児専門病院では,成人診療科がないため,他院との連携が必要となりますよね。

窪田 はい。看護師やSWと協働し,他院と連携しています。その際に小児科医が気を付けなければならないのは移行先の病院選定です。小児科医はこれまで,簡単に高機能の総合病院を紹介しすぎていたと感じています。「本当にこの人は総合病院に行く必要があるのか」との疑問を常に持つことが重要です。

平田 同感です。成人であれば,血圧が高めのときはプライマリ・ケア医をまず受診すると思いますが,小児科で長年診療を受けていた患者の中には,血圧が高いとの理由だけで高度医療機関にかかろうとするケースがあります。

窪田 背景には,「全て最高レベルの医療を受けなければ」という親の思い込みもあります。プライマリ・ケア医がある程度オールマイティに診察をし,「もしものときに総合病院を紹介する」というすみ分けがなされてしかるべきです。

一ノ瀬 経験上,高度医療機関を希望する親に対して,数年にわたり介入すると,親の気持ちもだんだん落ち着いてくる印象です。在宅診療に移るときには,対応できる診療範囲をあらかじめ伝えておくことが大事でしょう。

窪田 適材適所の医療を選択するためにも,小児科医側はプライマリ・ケア医ならではの専門性の高さをもっと認識することも必要ですね。

自立支援協議会への参加で地域連携の輪を広げる

窪田 小児科から成人診療科への移行が進むと,地域医療とのかかわりはおのずと増え,地域の福祉サービスを受ける場面も増加します。とは言え,小児科医は移行期の患者に必要な福祉サービスの提供について毎回手探りで,小児診療を地域医療にどうつなげるかは大きな課題です。

平田 くしくも,地域包括ケアシステムの中に小児診療の枠組みが存在せず,地域連携の方法を模索し続けています。患者に適した公共サービスの提供の面でもプライマリ・ケア医の存在が鍵になると思います。

窪田 そうですね。福祉も含めた公共サービスを把握する能力は,小児科医よりもプライマリ・ケア医のほうが圧倒的に高いです。さらに言えば,プライマリ・ケア医と連携するSWの存在も大きいと感じています。プライマリ・ケア医にとって,成人移行支援ができる専門性は一つの売りになるはずです。

一ノ瀬 まさにそうです。プライマリ・ケア医は地域に根付いた診療を行うからこそ,福祉関係の他職種を紹介できることもメリットの一つです。ただ,小児科医とプライマリ・ケア医の接点がほとんどないのが現状でしょう。直接コンタクトを取ることにハードルが高いと思う方に対して私は,自立支援協議会への参加を促しています。

平田 自立支援協議会とは,どういった組織なのでしょう。

一ノ瀬 定期的に各自治体が福祉関連施設の代表者や医療機関に呼び掛けて,地域の障害福祉をテーマに議論する場です。自治体によって組織体制は異なると思いますが,中には子ども部会を設けている自治体もあり,小児在宅医療や発達障害を抱える患者について話し合うことがあります。自治体の福祉関係の職員や地元医師会の理事も参加することが多いので,多方面の方たちと関係性を構築できる点で有意義です。在宅医療に携わる医師に対して成人移行支援に関心を持ってもらうチャンスにもなります。

窪田 私も地域連携の輪を広げるよい機会だと思って,地元の会合に毎回参加しています。こうした場に参加すると,いかに小児科医が地域医療から隔絶しているのかが見えてきます。

一ノ瀬 それはどういう意味でしょう。

窪田 例えば,難病の子どもが地域の病院で生まれ,その病院で治療できない場合,治療可能な病院へ搬送するなどの小児科医同士のネットワークは完璧です。恐らく日本のどこの地域でもこうしたネットワークは完備されており,転院先に困ることはありません。しかし,この連携は小児科医の中だけで完結しており,成人診療科の医師とのコネクションはほとんどありません。さらに残念なのは,若手・中堅で開業した小児科医たちが地域の医師会に参加しないことです。このままでは,近い将来世代の断絶が起こり,成人移行支援が停滞する恐れもあります。

一ノ瀬 なるほど。そのためにも,自立支援協議会のような数少ない機会を上手に活用しなければなりませんね。

窪田 ええ。先細りは目に見えていても,現状,こうした会合に参加する医師に成人移行支援への参画をお願いするしかありません。もちろん,小児科医全員が参加する必要はないものの,少なくとも自分の担当患者が地域の中で医療的ケアを受けるのであれば,地域連携の実態を知るためにもこうした場での交流に小児科医も参加してほしいですね。

課題解決の糸口は親への介入

窪田 最後の話題として,親とのかかわり方について意見を聞きたいと思います。よく成人移行支援の現場では,「成人診療科の医師は親と話すのが苦手」という話を聞きます。成人診療科の立場から見て,親が診療に過干渉してくる場合,対応に困るものなのでしょうか。

一ノ瀬 必ずしもそうではなく,単に慣れていないだけだと思います。対応の仕方は高齢の認知症の方に付き添われる家族への対応と一部似ています。

平田 では,親以外のどのような要因が小児科医からの紹介患者の対応を困難にするのでしょうか。やはりヘルスリテラシーが低いからですか。

一ノ瀬 それだけではないと思います。小児に限らず,ヘルスリテラシーが正しく備わっている患者はあまりいません。恐らく成人診療科の医師の中には「子どもの時から長年病気と付き合っているのだから,当然自分の病気のことを理解しているだろう」という先入観があることも一つだと思います。

窪田 確かに私がトランジション外来で対応した患者の中には,有名大学の学生であるにもかかわらず,常に親と一緒に受診し,自分の病気のことを何も理解していない方がいました。頻繁に小児を診る私でさえも戸惑いを感じたので,経験の少ない成人診療科の医師はなおさら違和感を覚えるでしょう。

平田 つまり,患者への疾病教育が重要だと思い込んでいるのは小児科医だけで,成人診療科の先生方は親から自立していない点に困難を感じるということでしょうか。

一ノ瀬 その可能性は十分あります。「紹介先の病院と価値観が合わなければ他の病院へ」となるのが通常です。成人診療科の医師は患者に対してある程度ドライな部分もあると思います。

平田 その点,小児科医は「この子を助けられるのは自分しかいない」とウェットに考える方が多く,いつまでも成人移行を決断できない医師もいます。

 さらに言えば,長年小児科医と共に子どものサポートをしてきた親は,どうしても小児科医のほうに心が向きがちです。そのため成人移行に積極的ではない小児科医と一緒になって成人診療科の医師を「敵」と見なし,これまで受けてきた医療との小さなズレさえも責めてしまうことがあります。この循環では成人移行支援がうまくいくわけがありません。

窪田 先ほどの地域連携の話も含め,移行先の医師の診療スタイルを知っていれば,診療全体を見ることで多少の治療法の相違は許容できる部分も出てくるはずです。成人診療科と小児診療科の間に信頼関係を構築し問題解決を図るためにも,小児科側がもう少し積極的に成人診療科側へ働きかけていくべきです。

 一方で,小児科医の立場からみて小児診療と成人診療との違いはどこにあると平田先生はお考えですか。

平田 私は「子どもが難病を抱えて生まれたのは私のせいだ」と自責の念に駆られる親の存在が成人移行支援の推進を阻む隠れた大きな原因の一つだと思っています。

一ノ瀬 平田先生のおっしゃる通り,高齢者診療の場合は「私たちどうしたらいいでしょう」という家族の困りごとが多いものの,小児診療から移行した患者の場合は「この子を何とかしてほしい」という親の訴えが強いですね。

平田 ええ。その思いの強さ故に,子どもが成人しても外来に付き添ってしまいますし,従来の診療体制と少しでも変われば意見を言うのではないでしょうか。これは決して親に悪気があるわけではなく,その裏に隠された悲しみが大きいからであり,それが癒やされないと,子どもはいつまでも自立できません。エビデンスは何もありませんが,そこまで思いをはせ,この問題をどう解決するかを考えることが重要だと思っています。

窪田 同感です。これまで小児科医は,患者だけ,臓器だけを診ていればいいと思って,患者の親に対してしっかりと向き合っていなかったのではないでしょうか。心のどこかで病気以外の話をするのは煩わしいと思い,親の悲しみにまで目を向けることを避けてきた節があります。

平田 当然,親のケアは医師だけの仕事ではなく,SWや臨床心理士が担当しても構いません。しかし,この問題に本気で取り組まないと,子どもへの過干渉はさらに強まり,社会からより一層隔絶されてしまいます。難病を抱える子どもでも,幸せに暮らしていけるのだと親が思えるようになれば,解決の光が差すはずです。

窪田 親にも親の人生がありますので,その人生を全うしてほしいと心から願います。

 今後,成人移行支援を担うであろう内科医に伝えたいのは,親が子どもに対して自責の念を持ち続けていることを踏まえた上で対応してほしいということです。高齢者の診察時に家族が付き添うケースとは付き添い方の心中が全く異なるのです。その違いを理解していないと,必ずどこかでボタンの掛け違いが起こってしまいます。

平田 成人診療科の医師が過剰に小児診療を忖度する必要はありません。成人移行支援をきっかけに,小児診療に今までとは異なる視点が入ることで,よりよい小児診療を実現できる部分もあるはずです。これからの小児診療がまた一歩大きく変わるチャンスだと私は考えています。

一ノ瀬 小児期発症慢性疾患の成人期における経過や治療方法に関するエビデンスは少ないことも多いですが,成人診療を行う医師も小児科医と積極的に連携を取りながら,親とも必要に応じて話し合い,より柔軟に各課題に対応していきたいですね。

窪田 スムーズな成人移行支援の実現に向けて,まだまだ課題は山積みですが,少しでも多くの方に協力をいただければうれしい限りです。

MEMO NICUの満床問題

 2008年,30代の妊婦が激しい頭痛を訴えてかかりつけの産婦人科医院に救急車で運ばれた。かかりつけ医が頭蓋内出血の疑いがあると判断し緊急手術が可能な病院を探したが,7施設から「NICUの空床がない」との返答で搬送困難となった。約1時間後,改めて最初の病院に連絡したところ,当該病院で受け入れとなり,時間外にもかかわらず各診療科のスタッフが招集され,帝王切開で出産した。しかし,母親は脳内出血で3日後に死亡。当時は受け入れ病院に批判が集中したものの,当直医数も足らず,空床もない中で妊婦を受け入れた事情もあり,個々の医師の努力だけでは変えられない現実があった。こうした背景もあり,NICUの満床問題解決に向け,NICU患者の在宅移行が進められた。

(了)


くぼた・みつる氏
1986年北大医学部卒。日赤医療センター外科にて研修後,北大小児科勤務。米アラバマ大バーミングハム校免疫生物学センターポスドクフェロー,手稲渓仁会病院小児科,埼玉県立小児医療センター総合診療科などを経て,2015年より現職。

ひらた・よういちろう氏
2000年東大医学部卒。同大附属病院小児科にて研修後,太田総合病院附属太田西ノ内病院小児科,国立成育医療センター循環器科,埼玉県立小児医療センター循環器科を経て,12年より東大病院小児科助教。15年より現職。

いちのせ・ひでふみ氏
2005年九大医学部卒。飯塚病院にて初期研修後,同院小児科で後期研修。11年亀田総合病院内科小児科複合プログラム修了。同年頴田病院家庭医療センター勤務後,18年より現職。一般社団法人「こどものみかた」理事。