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第3334号 2019年8月12日


【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
総合診療専門医から広がる多様で将来性のあるキャリア

【今回の回答者】草場 鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長/北海道家庭医療学センター理事長)


 2018年春から日本専門医機構の運営する総合診療専門研修プログラムがスタートし,現在2年目です。全国で専攻医の皆さんが研修を開始し,多様な経験を積みながら,専門医としての実力を身につけるべく努力していることでしょう。

 しかし,総合診療領域を選択した専攻医数は2年連続で180人程度と全専攻医の約2%です。私のように地域で研修体制を整え,研修受け入れの準備をしてきた指導医にとっては残念な結果でした。

 選ばれなかった理由の1つに,総合診療専門医の研修を終えた後のキャリアが見えづらいことが指摘されます。そこで,日本プライマリ・ケア連合学会では総合診療専門医を選んだ後の多様で将来性のあるキャリアについて提言を作成し,2019年5月に開催された日本プライマリ・ケア連合学会学術大会で発表しました。本稿ではQ&Aのスタイルでその提言を皆さんにご紹介いたします。


■FAQ1

総合診療専門医の資格を取得した後にはどのようなキャリアがあるのでしょう。

 総合診療専門医は幅広い健康問題の診断や治療を行うための修練を積むので,都市部や郡部などの地域に関係なく,どこでも働くことができます。勤務先の施設形態も,診療所や小規模病院,さらには総合病院の総合診療科など,あらゆる環境に適応できることが想定されます。つまり,勤務先となる医療機関は全国に無数にあるといっても過言ではありません。また高齢化に伴う多疾患合併患者の増加や,病院の機能分化に伴う地域包括ケアシステムの推進など,総合診療医のニーズが今後高まっていくのは確実ですので,働く場には困らないはずです。他方,大学病院の総合診療部門では,診療のみならず総合診療の医学部教育を担当し,総合診療に関する研究を行っていくことも期待されています。

 しかしながら,「働く場所はたくさんあるものの,キャリアが見えない」という不安の声を聞くこともあります。

 総合診療専門医以外の多くの基本領域専門医(内科,外科,小児科など)は,専門研修後にサブスペシャルティ領域(循環器内科,消化器外科,新生児医療など)の修練を積むことが今では一般的となっています。そのような選択肢がある中で,総合診療領域のみは3年の専門研修を終えた後にさらなる修練を積む機会がありません。この点に漠然と不安を感じる方が少なくないようです。もちろん,総合診療専門医としての能力を磨き実践し続けるだけでも,幅広い健康問題に対応する中で住民の生活を支え,地域の健康を守る一翼を担えるというやりがいはありますが,医学生や研修医の皆さんが多様なキャリアに魅力を感じるのもまた事実でしょう。

Answer…地域や施設規模にかかわらず,活躍できる場所が全国どこにでも存在します。高齢化や病院の機能分化に伴う地域包括ケアシステムの推進の影響もあり,総合診療医のニーズは今後さらに高まります。

■FAQ2

総合診療専門医のサブスペシャルティにはどのような領域があり,複数取得は可能なのでしょうか?

 日本プライマリ・ケア連合学会ではに示したような3つのサブスペシャルティ領域「新・家庭医療専門医」「病院総合診療専門医」「他のサブスペ専門医」を提唱しています。

 総合診療の3つのサブスペシャルティ領域(クリックで拡大)

 新・家庭医療専門医は世界家庭医機構(WONCA)が定めたガイドラインに準拠する世界標準レベルの総合診療を提供しながら,診療組織の運営,総合診療領域の研究や教育にも貢献できる人材を想定しています。いわば地域プライマリ・ケアのリーダーとして活躍できる人材の育成です。

 病院総合診療専門医は病院にて高い総合診療能力を発揮しながら,外来・病棟・救急の現場で幅広く診療を行い,他科や他職種と連携しながら総合診療病棟を運営できる担い手をめざします。また,病院外の組織との間で退院支援や地域連携を担う機能,さらには診療の質改善や教育・研究を推進することを目的とします。

 3つ目の選択肢として,総合診療と関連の深い在宅医療や緩和医療などの専門領域で研修を積み,他領域のサブスペシャルティ専門医資格を取得するキャリアステップもあります。地域のニーズや専攻医の希望などを踏まえて,今後さらに選択できる専門分野の幅が広がることが期待されます。

 一方で,サブスペシャルティとは少し異なりますが,診療する地域や環境によって必要となる内視鏡検査や透析医療などの医療技術を集中的に修練し,関連学会から能力認証を得るシステムも選択肢としては考えられます。とは言え,国内ではまだ検討中です。海外には家庭医に対する能力認証の制度が充実している国もあります。

 現在は基本領域から直接サブスペシャルティ領域に進む方が多い状況ですが,こうした能力認証制度などが一般的になれば,キャリアのどの段階からも必要に応じてトレーニングを受けることが可能となり,資格の取得・維持と実践が連動しやすくなるでしょう。

 また,複数のサブスペシャルティの取得は可能であるものの,取得にはさらなる年月を必要とし,資格を維持するための臨床経験の継続など,更新要件がハードルとなります。現在の日本の医療体制では専門医資格のほとんどが診療報酬や施設基準と連携しているわけではありませんので,資格取得そのものを目的とする意義は乏しいです。あくまでも資格が示す診療領域において,一定の質の臨床能力があることを示すという点で資格を持つ意義があるととらえたほうが適切です。

Answer…日本プライマリ・ケア連合学会では,総合診療専門医に対して3つのサブスペシャルティ領域を提唱しています。複数のサブスペシャルティ取得を目標とする際は,取得前後のハードルを考慮に入れて検討すべきです。

■FAQ3

新・家庭医療専門医や病院総合診療専門医の研修内容の詳細は決まっているのでしょうか?

 新・家庭医療専門医は日本プライマリ・ケア連合学会が,病院総合診療専門医は日本病院総合診療医学会が中心となり,研修目標,研修施設,学習方略,評価方法など,多岐にわたる項目に関して研修制度の検討を行っています。両専門医とも,総合診療専門医を基本領域とした隣接する制度であり,両学会がしっかりと連携しながら制度内で整合性を取れるよう配慮しています。現在,現場を知る医療者からのアドバイスを受けながら,教育制度に精通した専門家が制度構築を進めていますのでご期待ください。

 本稿を執筆している段階で公表できる情報は限定的ですが,早ければ8月上旬には制度の概略が固まる予定です。関心のある方は両学会のウェブサイト(日本プライマリ・ケア連合学会日本病院総合診療医学会)をご覧ください。

Answer…現在,日本プライマリ・ケア連合学会,日本病院総合診療医学会がそれぞれ中心となって,研修内容を策定中です。研修内容は近日中にも公開予定ですのでぜひご覧ください。

■FAQ4

総合診療専門医資格を取得後,内科領域のサブスペシャルティ,例えば消化器病,糖尿病,老年病などの専門医資格を選ぶことはできないのでしょうか?

 現在のところ,内科領域のサブスペシャルティは,内科専門研修プログラムで内科専門医資格を取得後に研修を開始することが必要とされています。ただ,一定の要件を満たせば「連動研修」として2年次よりサブスペシャルティ領域の研修を並行して実施することも検討されているようです。

 一方で,総合診療専門医資格を取得すると,改めて内科専門研修プログラムに入り,その後にサブスペシャルティ領域を選ぶことが可能です。その際,総合診療専門研修プログラムに必須の内科研修12か月は,内科専門研修にも換算可能とされているので,実質的には2年間の研修で内科専門医を取得できます。

 もし,連動研修が認められることになれば,サブスペシャルティ領域の研修を総合診療専門研修プログラム修了直後に開始することができるかもしれません。

Answer…新たに2年間の内科専門研修プログラムを受けることで,内科専門医資格を取得し,サブスペシャルティ領域に進むことは可能です。今後,連動研修が認められる可能性もあるので,興味をお持ちの方は動向を注視してみてください。

■もう一言

 多くの医学生・研修医の皆さんにとって,多様で将来性のあるキャリアが広がり,日本全国で活躍が期待される総合診療専門医をめざしていただけることを心より期待しております。どうぞ,思い切って総合診療の扉をたたいて下さい!


くさば・てっしゅう氏
1999年京大医学部卒。日鋼記念病院にて初期研修後,北海道家庭医療学センター家庭医療学専門研修修了。2006年より北海道家庭医療学センター所長,08年に医療法人北海道家庭医療学センターを設立。19年に日本プライマリ・ケア連合学会理事長に就任。『家庭医療のエッセンス』(カイ書林)など著書多数。