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第3332号 2019年7月29日


【視点】

長生きするのに1日「1万歩」は必要か?

鎌田 真光(東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 保健社会行動学分野 助教)


 からだを動かすこと(身体活動)が健康の維持増進に重要であることについては既に多くのエビデンスが蓄積されている。では,どのくらいからだを動かすとよいのだろうか?

 例えば,歩数の目安として「1日1万歩」という数字が思い浮かぶ方もいるかもしれない。この「1万歩」という数字,切りが良く覚えやすいといったこともあり,日本に限らず世界中で健康づくりの目安として認知されてきた。今では,さまざまなウェアラブル機器や健康アプリのデフォルト設定として1日1万歩が目標値として利用されている。しかし,非活動的な人にとってはハードルが高い上に,確固たるエビデンスを基に直接的に導かれた数字というわけでもないため,近年,この「1万歩神話」の検証の必要性が叫ばれていた。

 そこで私たちが最近発表した研究1)では,“長生きするのに1日「1万歩」は必要か?”といった観点から,日常歩数と長寿(死亡リスク)の関係を検証した。研究の対象は全米に居住する高齢女性1万6741人であり,Women’s Health Studyというハーバード大(ブリガム・アンド・ウイメンズ病院)で進めているコホート研究の参加者である。小型の計測機器(加速度計)を1週間,腰に装着してもらうことで日常の身体活動量を客観的に測定しており,現在も健康状態や各種疾患の発症,死亡について追跡している。

 今回の分析では,平均4.3年間の追跡期間中,504人の死亡が確認され,歩数が多いほどその死亡リスクは低いことがわかった。興味深いのはその量反応関係である。最も歩数が少ない集団(1日2000歩台)と比べると,4000歩台であっても死亡リスクは40%ほど低く,1日約7500歩で死亡リスクは最低レベルに達した。つまり,1万歩に達する前に頭打ちとなり,7500歩と比べて1万歩以上の方がより長寿につながるといった関係は見られなかった。

 ただし,1日1万歩自体が「悪い」ことを示すものではない点は強調しておきたい。1万歩以上歩いている集団は,歩数が少ない集団と比べると,やはり死亡リスクは低く,長生きであった。今回の対象者は高齢の女性であったこともあり,1万歩を超える歩数が測定された参加者は数が少なかったため,1万歩以上の死亡リスクの信頼区間は広かった。

 なお,この研究では歩くペース(歩調)と死亡リスクの関係も分析しているが,歩数で調整すると有意な関係性はほとんど見られていない。今後,さまざまな性・年代,そして日本においても,より長期・大規模の追跡データでの検証が望まれる。

 日本・米国など各国の最新の身体活動ガイドラインは,「特定の基準値以下の身体活動に健康増進効果はない」とは考えていない。膨大な量のエビデンスをもとに,「各個人の状態に応じて,少しでもからだを動かす機会を増やそう」が基本メッセージであり,その上で,目安となる基準値を示している(例:23メッツ・時/週,150分/週以上の中高強度身体活動)。

 「全ての1歩に意味がある(Every step counts)」ことを念頭に,さまざまな施策を考えていくべきだろう。

参考文献
1)Lee IM, Shiroma EJ, Kamada M, et al. Association of step volume and intensity with all-cause mortality in older women. JAMA Intern Med. 2019. [PMID:31141585]
Epub ahead of print.
doi:10.1001/jamainternmed.2019.0899.


かまだ・まさみつ氏
東大教育学部卒,同大大学院教育学研究科修士課程修了,島根大大学院医学系研究科博士課程修了。身体教育医学研究所うんなん,国立健康・栄養研究所,米ハーバード大公衆衛生大学院を経て,2018年4月より現職。運動疫学および行動普及科学が専門。第一のミッションは「世界から運動不足をなくす」こと。