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第3323号 2019年5月27日


看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第173回〉
それぞれの春が始まる

井部 俊子
長野保健医療大学教授
聖路加国際大学名誉教授


前回よりつづく

 「このたびは,すてきな胡蝶蘭をいただき,ありがとうございました。本日,朝届きました。このような体験は,私にとって初めてであり,正直びっくりしたと同時にとても感動しました。(中略)井部先生からの贈り物でぱっと明るい日が差した気分になりました」という初々しいメールが届いた。

 私は今春,看護部長に就任した4人の友人に胡蝶蘭を贈った(私には,初めて看護部長になって“ふるえて”いた頃,当時東札幌病院の副院長・看護部長であった石垣靖子さんから届いた豪華な胡蝶蘭に胸ふるわせたという原体験がある)。

新任看護部長の春

 Aは,某大学病院の看護部長公募に応募した。履歴書を書き,応募動機を示し,どのような意志を持っているかを明らかにし,病院幹部との面接を経て,病院職員へのプレゼンテーションを行うなど,幾多の関門を通過して看護部長のポジションを獲得した。

 Bは,副看護部長として勤務していた病院で,ある日幹部との面接があった。複数の副看護部長の中のひとりとして,尋ねられたことに答えた。そして,看護部長に指名された。

 Cは,これまでいくつかの急性期病院の看護部長を歴任している。そしてこの春,大病院の勤務を辞めて,地域密着型の病院で看護師人生の仕上げをしようと決めた。

 Dは,東京の先端医療を担っていた病院の副看護部長として勤務していた。このたび“転勤”命令が下り,地方にある“古い昭和のかおりがする病院”の看護部長として単身赴任した。

 こうして,それぞれの春が始まり,元号が「平成」から「令和」となった。

 Aからは,4月11日に「所信表明演説」をしたという便りが届いた(看護部長に就任したら,できるだけ早い時期に,何に価値を置き,どのようなスタイルで管理をするかなど,いわゆる所信表明をすべきであるというのが私の後輩への助言である)。「便り」は次のようにつづられる。「日勤終了後に行ったのですが,150人以上が集まってくれ,研修等でもこんな人数は集まったことがないと言われた」ことや,「関心を持ってもらえたうれしさと同時に,期待に応えねばならないというプレッシャーを感じた」こと,そして「若干の勇気がいりましたが,やってよかったと思いました」に続けて,私のアドバイスが的確であったとした上で,私の「ドヤ顔が浮かびます」と結んでいる。

 Aの便りには続きがある。所信表明演説のあと,師長との面接を完了し,今週は専門看護師・認定看護師との面接を開始したこと,「自分を呼ぶ時は職位ではなく名前で呼んでください」と伝えたこと,そして「敵対心をむき出しにした人がいなくてちょっと物足りない……ということはなく,安堵している」こと,さらに「今度の部長は話を聞いてくれるとウワサされているようです」とつけ加えている。「今度の部長は」の「は」を強調し,暗に,前の部長はそうではなかったらしいということを伝える彼女のドヤ顔がみえる。

私の春

 私の生活にも変化が訪れた。4月から私は,北陸新幹線通勤を始めた。東京~長野間で,精神を輝かせるため基本的に「かがやき」に乗ることにしている。座席の背に納められている雑誌「トランヴェール」の巻頭エッセイ,沢木耕太郎の〔旅のつばくろ〕を読むのが目下の楽しみである。彼の文章の構成や表現技法を学ぶ。4月号は,「過去への回路」と題して,宮城の塩竈(しおがま)へ講演で旅したことを書いている。その地は彼が22歳でフリーランスのライターとして仕事を始めた地であり,棋士の中原誠を取材したことを回想して,仙石線の本塩釜の街を歩く。彼は講演の約束をして何か月も先を拘束されるのが嫌いだが,学校と図書館からの依頼は断りにくいのだと書いている。

 2019年4月,長野保健医療大学に開設された看護学部の学部長・教授として赴任した私も,看護学部開設式において所信表明を行った。次のように。

 長野保健医療大学は,人を慈しむ豊かな人間性と医療に関する高い知識や技能を備える「仁心妙術」の研鑽に励み,それらをすべからく人類愛に基づき世界(四海)に広める気概を持って社会に貢献する「徳風四海に洽(あまねく)」を礎とした教育理念としています。(中略)看護学部は,「豊かな人間性と広い見識を持って,地域住民の健康生活をサポートすることのできるケア提供者を育成する」ことを目的として,「看護の専門分野において,幅広い知識・技術・応用力を体系的に培う教育研究を行い,地域の多様なニーズに対応できる質の高い探究心を持つ看護師・保健師を育成いたします」(学則第5条)。

 私は看護学部長として以下の運営方針を考えています。

1)基本的には文科省に提出して認可された「施設,設備,教員組織等に関する設置計画」をベースとしてカリキュラムを進めます。
2)教職員は,それぞれの経験をもとに,それぞれの経験をブレンドして,創造することを促します。
3)これまでやりたいと思っていたけどできなかったこと,よきことを実現するために挑戦します。
4)全ての営みが教育環境であることを自覚し,学生を大人として尊重します。
5)そして教職員の皆さまと共に「チーム看護学部」さらに「チーム長野保健医療大学」をつくっていきたいと思います。チームワークがよいチームの要件は5つです。それらは,①心理的安全性,②相互信頼,③構造と明確さ,④仕事の意味,⑤社会への影響であるとされています。

 私は,本学の初代看護学部長として,皆さまと共に,本学の新たな歴史を刻み,大学の使命を果たすために貢献することを誓います。

 この時期,暮れなずむ長野の山並みの神々しさに息をのむ。

つづく

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