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第3317号 2019年4月8日


スマートなケア移行で行こう!
Let's start smart Transition of Care!

医療の分業化と細分化が進み,一人の患者に複数のケア提供者,療養の場がかかわることが一般的になっています。本連載では,ケア移行(Transition of Care)を安全かつ効率的に進めるための工夫を実践的に紹介します。

[第6回]夜間・休日の急変に備えた効果的な申し送り

今回の執筆者
三高 隼人(米国マウントサイナイ・ベスイスラエル病院内科)

監修 小坂鎮太郎,松村真司


前回よりつづく

CASE

 COPD急性増悪で入院となった80歳男性(詳細は第2回・3301号参照)。深夜に看護師から緊急コール。「COPD急性増悪で入院中のAさんが,酸素6 L/分でSpO2 84%,血圧90/60 mmHgです!」

 申し送りを受けていない当直医が訳もわからずベッドサイドに行くと,患者は努力呼吸で意識混濁状態。蘇生のためにすぐに処置を始めなければならず,電子カルテをゆっくり確認する時間はない。

 このような事態を防ぐためには当直医への申し送り(Handoff/Sign Out)が必要です。今回は,安全なケア移行のための申し送りについて考えます。

申し送りの役割とは

 緊急対応は,あらゆる患者にただABCDEアプローチで蘇生すればいいのではなく,患者背景によって考え方を大きく変えなければなりません。例えば,市中肺炎で入院した患者なら敗血症性ショック,急性心不全の患者なら心原性ショック,大腿骨頚部骨折術後の患者なら肺塞栓症による閉塞性ショックを疑って対応することが重要でしょう。一方,悪性腫瘍の終末期で緩和ケアを受けており,蘇生の希望がない場合,必要なのは輸液や昇圧薬ではなく,追加のオピオイドかもしれません。患者背景の伝達はケア移行時のキモなのです。

 外来からの入院時,入院中の夜間・休日,退院して外来へなど,ケア移行の機会は多く,医療チーム,特に医師には患者情報の確実な伝達が求められます。しかし,不十分な情報の伝達により患者の安全が脅かされることがあります。例えば,米国の退役軍人病院を対象にした多施設後ろ向き研究では,レジデントのローテーションの切り替わり時期が,院内死亡率上昇と有意に関連していました1)

 国際的な病院機能評価機構であるJCI(Joint Commission International)は2006年,標準化した申し送りの実践を急性期病院における患者安全の目標に設定し2),米国の卒後医学教育認可評議会(ACGME)は研修医の勤務時間上限の引き下げに伴い,医療安全のために申し送りのモニターを研修プログラムの要件に定めています3)

申し送りでケアの連続性を担保する

 仮に読者の皆さんの勤務時間帯が6~18時であった場合,担当する入院患者の半日分の時間を当直医がカバーすることになります。急変すれば主治医が診る「主治医オンコール制」を敷いている(から特別な申し送りは不要という)病院もありますが,働き方改革も相まって,急変時には基本的に当直医が対応する病院も増えています。もし,主治医からの十分な患者情報の伝達がなければ,夜間や休日には妥当な診断や治療を行いにくくなります。このような“ケアの不連続性”は,以下の有害事象と関連することが知られています4)

・院内合併症の増加
・回避可能なイベントの発生
・不必要な検査オーダーの増加
・診断的検査の遅れ
・医療エラーの増加

 つまり,適切な申し送りがなされず,患者と当直医に危ない橋を渡らせている状況は,“不都合な真実”と言えます。JCIは申し送り(Handoff)の定義を「医療ケアの提供にかかる主たる権限と責任を伝達するプロセス」 と定めています5)。申し送りは単に患者情報を伝えるだけの行為ではなく,プロフェッショナルとしての責任の伝達であると認識することが重要です。

申し送りの質向上の具体策

 効果的な申し送りには,書面による申し送り(Written Handoff)と口頭での申し送り(Verbal Handoff)の両方が不可欠で,送り手は事前に患者情報を整理したメモを用意し,直接もしくは電話での口頭伝達を行います。

 米国病院総合診療医学会(Society of Hospital Medicine;SHM)では,直接会っての申し送り(Face to Face Communication)を推奨しています6)。申し送りの際にPHSが鳴り対応するなど,情報伝達の質が低下しないよう,申し送りの時間と場所をシステムレベルで確保することも重要です。

 申し送り方法の標準化については「I-PASS」「SAFER」などさまざまな取り組みが提唱されていますが,今回はいくつかの研究7, 8)で,回避可能なイベントを30%減少させたエビデンスのある「I-PASS」を例にします(図1)。

図1 I-PASSに沿った申し送りの例 (クリックで拡大)

 また,電子カルテに連動するテンプレートを活用し,レジデントが入力する情報と電子カルテによって自動収集される登録情報(入院日,患者ID,キーパーソン,アレルギー,投薬内容,コードステータス)を組み合わせた申し送りをすることで,患者ケアが改善されたとの結果も出ています9, 10)

 申し送り内容でとりわけ重要なのは,「受け手へのTo Doリスト」と「患者に起こり得るイベントとその対応」を具体的に伝えることです。例えば,輸血や電解質補正の閾値となる具体的な数値(例:X時に血算再検,Hb<7 g/dLなら赤血球2単位2時間で輸血)や,利尿薬の指示(例:フロセミド40 mg静注,X時間で尿量Y mL以下なら追加で80 mg静注,それでも反応に乏しければフロセミド持続静注を開始)などです。困った時に「あると助かる」と実感できる申し送りが,効果的な申し送り文化の普及につながります。

効果的な申し送りを日本でどのように実現するか

 申し送りシステムを導入する場合,その目的や方法の教育,モニタリング,電子カルテとの連動が必要なため,診療科単位もしくは研修プログラム全体で取り組む必要があります。米国の研修病院では全患者に対して各勤務帯で申し送りを行いますが,日本でいきなり全患者の申し送りを行うのは難しいかもしれません。まずは申し送りを優先させるべきハイリスクな状況の①重症患者/不安定な患者,②転科/転棟した患者,③担当医が変更された患者などに限定するとよいでしょう。その上で,診療科単位で申し送りシートのフォーマットを作成し,期間限定で導入してみてください。

 図2に効果的な申し送りの阻害因子をまとめた魚の骨図を提示します11)。患者,患者情報提供者,医師(送り手・受け手),システムなどの環境といったさまざまな問題を想定し,解決しながら実現可能性を高めることが重要です。症例ごとのプロブレムや背景に合わせた申し送りができるよう,仮想症例で演習を積むのがよいでしょう。

図2 効果的な申し送りを阻害する因子(文献11より)(クリックで拡大)

CASEへの対応

 本症例をきっかけに過去の夜間・休日の急変症例を見直すと,ほとんどの症例で申し送りが行われていなかった。本症例のM&Mカンファレンスを行い,急変が予期される症例についてはI-PASS形式の申し送りを行う院内ルールを定めた。

POINT

●申し送りはケアの権限と責任の伝達である。
●適切な情報伝達には書面と口頭による申し送りと,専用の時間と場所をシステムレベルで確保する必要がある。
●効果的な申し送りのためのシステム導入や教育の方法を考える。

つづく

引用文献・URL
1)JAMA.2016 [PMID:27923090]
2)Jt Comm J Qual Patient Saf.2006[PMID:17120925]
3)N Engl J Med.2010 [PMID:20573917]
4)Acad Med.2009[PMID:19940588]
5)Jt Comm J Qual Patient Saf.2010[PMID:20180437]
6)J Hosp Med.2009[PMID:19753573]
7)Pediatrics.2012[PMID:22232313]
8)N Engl J Med.2014[PMID:25372088]
9)Surgery.2004[PMID:15232532]
10)J Am Coll Surg.2005[PMID:15804467]
11)BMJ Qual Improv Rep.2017[PMID:28469889]

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