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第3260号 2018年2月12日


【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
便秘の内科的治療

【今回の回答者】奥村 利勝(旭川医科大学内科学講座 消化器・血液腫瘍制御内科学分野教授)


 慢性便秘治療はまず,「患者のつらい症状をとる」というわかりやすい目的がある。さらには,慢性便秘は単に生活の質を低くするのみならず,結腸癌のリスクを約1.4倍,死亡率を約1.2倍に高めるとの報告もあり1, 2),結腸憩室炎のリスク因子でもある。また週2回以上の下剤使用者は下剤を使わない人に比べて約2.8倍の大腸癌リスクがあるとする報告1)もある。

 これまで便秘の治療は先人の経験を参考に行われてきたが,近年になって約30年ぶりに新たな機序の便秘治療薬が続々と登場し,2017年には日本消化器病学会関連研究会が「慢性便秘症診療ガイドライン」を公表した3)。便秘診療についての知識をup dateする必要がある。


■FAQ1

便秘を訴える患者さんに遭遇したら,どう鑑別診断すべきでしょうか?

 これはどの症状・症候に関しても言えることではあるが,その原因がなんであるかを診断することがまずは重要である。原因疾患の治療が便秘の治療に直結する。

 便秘の鑑別で最も重要なのは器質性疾患の除外である。「これまで便秘気味でなかったのに最近便秘になった」というのは,やはり器質的異常が原因であることを強く示唆する。直腸や結腸を物理的に狭窄・閉塞させる腫瘍性病変の有無は特に重要である。

 また,パーキンソン病などの自律神経障害を伴う神経疾患の存在も念頭に置くべきであろう。パーキンソン病では神経症状が明らかでない病初期から便秘のみが先行する場合も日常よく遭遇する。この場合,便秘の治療に抗パーキンソン病薬が有効なことが多い。便秘自体は抗パーキンソン病薬の吸収を妨げる可能性があり,疾患管理上も便秘の改善は重要である。

 さらに,糖尿病や甲状腺機能低下症などの代謝内分泌疾患にもしばしば便秘がみられる。糖尿病の病歴が進んで生じた自律神経障害によって腸管運動が低下することが便秘の原因と推定されるので,糖尿病と便秘がある全ての症例で「便秘の原因が糖尿病」とは言えない。しかし,高血糖そのものが自律神経機能にも影響を与えるので,血糖コントロールは重要な治療手段と考える。

 内服薬が便秘の原因になっている場合もある。特に向精神薬が慢性的に処方されている例では,処方の工夫が必要になろう。また,最近になって大きな環境変化があった場合(自宅生活から入院への移行など)は生活の変化による一時的な便秘も十分にあり得る。

 便秘があって,器質的な疾患が否定され,該当する薬剤歴がない場合,機能性の便秘と考える。

Answer…頻度からは機能性の便秘が多いのですが,大腸の器質的病変や神経疾患,代謝内分泌疾患,薬剤性の可能性も考えます。

■FAQ2

機能性の慢性便秘と考えられる患者さんの治療はどう進めますか?

 便秘治療は経験的判断に従って行われてきた感がある。本邦では浸透圧性下剤である酸化マグネシウムと刺激性下剤(センナやセンノシドなど)が主に用いられてきたし,現在もそうである。一方で欧米の便秘治療薬のエビデンスレベルと推奨度を示した論文4)では,本邦の日常診療でよく使われる刺激性下剤のエビデンスレベルは低いし,酸化マグネシウムに至っては掲載されていない。

 酸化マグネシウムの使用に当たり,高齢の腎機能低下例では定期的に血清マグネシウム値を測定し,高マグネシウム血症に注意が必要になる。また刺激性下剤センノシドなどのアントラキノン系下剤の作用機序は,腸管の筋層間神経叢を強力に刺激するとされているが,その詳細はよくわかっていない。作用が強力な故に,薬剤耐性,精神的依存性,習慣性などの問題点が多い。そのため,毎日連用することなく,必要なときにオンデマンド(頓用)で使うべきと考えられる。

 近年になって新たな便秘薬が登場し,2017年には「慢性便秘症診療ガイドライン」が発表された。最新の便秘治療薬のエビデンスに着目し,これからの便秘治療を改めて考えてみたい。本ガイドラインの治療薬に関する項目をに示した。刺激性下剤の推奨度は高くなく,浸透圧性下剤と上皮機能変容薬の推奨度およびエビデンスレベルが高い。エビデンスが全てではないが,便秘の薬物治療は再考する必要がある。

 慢性便秘症の治療内服薬に関するCQ(文献3より許諾を得て転載)

 基本戦略としては,通常は緩下剤(酸化マグネシウムもしくはルビプロストン)を毎日投与して,必要に応じて刺激性下剤(センナなど)のオンデマンドでの使用とすべきであろう。最近のエビデンスレベルの高い新規慢性便秘治療薬をうまく組み合わせた本邦の治療戦略を構築する必要がある。

 2012年に登場したルビプロストン(アミティーザ®,上皮機能変容薬)は,小腸に存在するクロライドチャネルを活性化し,小腸内への水分分泌が促されるために便を柔らかくすることで排便を促すという,新しい機序の分泌型便秘治療薬である。長期連用しても酸化マグネシウムによる高マグネシウム血症のような電解質異常を来すこともなく,腎機能低下例にも安心して使える。主な副作用は嘔気と下痢である。嘔気は,投与量の減量,服薬タイミングを食事直後にすることで軽減される。ルビプロストンは重篤な副作用も少なく安全性は高いが,デメリットとしては,PGE1を基に作られた化合物なので妊婦に対しては禁忌であることである。

 さらに,2017年には便秘型過敏性腸症候群の適応でリナクロチド(リンゼス®,上皮機能変容薬)が新薬として登場した。これは,腸管のグアニル酸シクラーゼC受容体を活性化。cGMPをセカンドメッセンジャーとしてクロライドチャネルであるCFTR(Cystic Fibrosis Transmembrane Regulator)に作用して,腸液の分泌を促進させるという機序を有する。cGMPが疼痛刺激を抑制することで腹痛の低減効果作用を有することから,便秘と内臓知覚過敏を改善することが想定される。したがって保険適用病名は「便秘型過敏性腸症候群」である。慢性便秘患者で腹部症状が強い患者が良い適応となる。電解質異常や併用禁忌薬はなく,主な副作用は下痢のみである。

Answer…通常は緩下剤(酸化マグネシウムもしくはルビプロストン)を毎日投与して,必要に応じて刺激性下剤(センナなど)のオンデマンドでの使用とすべきでしょう。

■FAQ3

これまでの便秘治療薬常用服用者には,これまで通りの対応でいいのでしょうか?

 これまで何十年も刺激性下剤や酸化マグネシウムを常用している患者に対しての確立した対応法はガイドライン等では示されていない。現実的には,現段階で満足のいく処方(刺激性下剤や酸化マグネシウム)を継続し,それらの薬剤を漸減もしくは刺激性下剤はオンデマンドに変更して,上皮機能変容薬を上乗せしながら,段階的に経過をみていくことが現実的ではないかと考える。

Answer…現在の薬剤を漸減もしくは刺激性下剤はオンデマンドに変更して,上皮機能変容薬を上乗せしながら段階的に移行します。

■もう一言

 2017年にオピオイド誘発性便秘症治療薬ナルデメジン(スインプロイク®)が発売された。モルヒネなどのオピオイドは癌疼痛の管理に用いられており,中枢のμオピオイド受容体を介して鎮痛作用を発揮する。しかし,消化管に存在する末梢のμオピオイド受容体を介して消化管運動および消化管神経活動を抑制することで,オピオイド誘発性便秘症(OIC)が高頻度に発現してしまう。このことから,オピオイドによる疼痛管理においては,OIC対策も重要なものとなっている。ナルデメジンは,消化管の末梢μオピオイド受容体に結合してオピオイド鎮痛薬と拮抗することにより,OICを改善する。消化管の末梢μオピオイド受容体には結合するものの,中枢移行性は低く,中枢μオピオイド受容体の作用は阻害しないので,鎮痛作用に影響せずにOICを改善する。消化管穿孔の危険性が高まる恐れがあるため,消化管閉塞,もしくはその疑いのある患者,既往歴があり再発の恐れの高い患者には投与しないことに注意する。

参考文献
1)Watanabe T, et al. Constipation, laxative use and risk of colorectal cancer : The Miyagi Cohort Study. Eur J Cancer. 2004 ; 40(14) : 2109-15.[PMID : 15341986]
2)Chang JY, et al. Impact of functional gastrointestinal disorders on survival in the community. Am J Gastroenterol. 2010 ; 105(4) : 822-32.[PMID : 20160713]
3)日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編.慢性便秘症診療ガイドライン2017.南江堂;2017.
4)Lindberg G, et al. World Gastroenterology Organisation global guideline : Constipation――a global perspective. J Clin Gastroenterol. 2011 ; 45(6) : 483-7.[PMID : 21666546]


おくむら・としかつ
1984年旭川医大医学部卒。92年米国Duke大留学,94年奥村医院(釧路市),95年旭川医大病院第3内科医員・助手・講師。2002年より旭川医大病院総合診療部教授を13年間勤め,16年より現職。