医学書院

検索
HOME週刊医学界新聞 > 第3258号 2018年01月29日



第3258号 2018年1月29日


目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症

がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。

[第20回]固形腫瘍と感染症④ 注意すべき4つの感染症

森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科副医長)


前回からつづく

 「固形腫瘍と感染症」の最後となる今回は,固形腫瘍で特に注意すべき感染症について解説します。脳腫瘍におけるニューモシスチス肺炎(Pneumocystis jirovecii pneumonia;PCP),大腸がんに関連する細菌感染症,ベバシズマブ(アバスチン®)による感染症リスク,膀胱がんに対するBCG膀胱内注入療法後のBCG感染症の4つについて症例を交えてお話しします(表1)。

表1 固形腫瘍において特に注意すべき4つの感染症(クリックで拡大)

脳腫瘍ではPCPに注意

症例1
 71歳女性。膠芽腫(グリオブラストーマ)に対して腫瘍摘出術後,放射線療法およびテモゾロミドによる治療を行っている。今回は来院1週間前からの微熱と労作時呼吸困難を伴う乾性咳嗽を主訴に受診。
 来院時意識清明,血圧138/84 mmHg,脈拍数88/分,呼吸数24/分,体温37.1℃, SpO2 93%(RA)。身体所見上,頭部の手術創に感染徴候なく,その他頭頸部,胸腹部,背部,四肢に異常所見なし。胸部単純X線写真で両側に対称性にびまん性のすりガラス影を認め,胸部CT検査でも末梢肺野に正常部分を残したびまん性すりガラス影あり。気管支鏡検査を施行し,グロコット染色で酵母様真菌を認めPCPの診断となった。

 PCPは血液腫瘍や造血幹細胞移植患者で圧倒的に多く見られる感染症です。第16回(3240号)でも紹介したように,ステロイドを使用すれば固形腫瘍でも発症します。ステロイドを使用せずとも注意しなければならない固形腫瘍が脳腫瘍なのです。脳腫瘍,中でも極めて悪性度の高いグリオブラストーマに対する治療として,経口のアルキル化剤であるテモゾロミドと放射線治療の併用療法があります。放射線治療単独での全生存期間中央値が12.1か月であるのに対しテモゾロミド併用療法では14.6か月と有意に改善1)し,その後の追跡調査でも5年生存率の有意な改善が証明されました2)。テモゾロミドによる好中球減少はごくわずかですが,リンパ球数の減少が問題となります。特にCD4陽性Tリンパ球数の低下が深刻でありPCP発症のリスクが増大します3)。従って,テモゾロミドを使用する際(放射線治療との併用時)にはPCPに対する予防投与が必要である4)ことを肝に銘じておきましょう。

大腸がんと感染症

 次に大腸がんに関連する細菌感染症5)についてです。ここでは2つの細菌を取り上げます。1つ目はStreptococcus gallolyticusという細菌です。以前呼ばれていたS. bovisと聞けばピンとくる方もいらっしゃるかもしれません。S. gallolyticusはD群レンサ球菌に分類されるグラム陽性球菌で,大腸がん患者では健常人と比べてはるかに高頻度に腸管内に常在していることが知られています6)。また,血液培養から検出された場合には感染性心内膜炎を引き起こしますので注意が必要です。

 もう1つの細菌はClostridium septicumという嫌気性菌で,致死率の非常に高い敗血症や壊死性筋膜炎を引き起こします7)S. gallolyticusC. septicumそのものが発がん性を持っているか否かはまだ結論が出ていませんが,これらの細菌感染症を見た場合には大腸がんの有無の確認が重要です。

ベバシズマブの注意点

 ベバシズマブ(アバスチン®)は血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)に対するモノクローナル抗体であり,血管新生や腫瘍の増殖,転移を抑制する働きがあります。転移性大腸がん,非小細胞肺がん,卵巣がんなどでよく使用されていますが,2つの重要な副作用とそれに付随する感染症を把握しておきましょう。1つ目は腸管穿孔による腹膜炎です。ただし,がん種により腸管穿孔のリスクは異なります8)。非小細胞肺がんではあまり問題となりませんが,転移性大腸がんと卵巣がんでは深刻な副作用となりますので注意が必要です。2つ目の副作用は創傷治癒の遅延による創部感染症です。血管新生を抑えるベバシズマブの性質上避けられないものですが,手術を行う場合にはベバシズマブの投与後6週間以上間隔を空ける必要があるとされています9)

BCG感染症に注意

症例2
 63歳男性。膀胱がんに対して経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)後,BCG膀胱内注入療法を施行中。合計6コースのうち3コース目が終了していた。3コース目終了の3日後から微熱,全身倦怠感,関節痛,筋肉痛が出現。市販の解熱鎮痛薬で対応していたが,7日後には悪寒を伴う39℃の発熱を認め経口摂取も低下したため外来受診。Review of System(ROS)では上記以外,頭痛,鼻汁,咽頭痛,咳嗽,喀痰,呼吸困難,嘔気・嘔吐,腹痛,下痢,排尿時痛,排尿困難,頻尿なし。
 来院時意識清明,血圧108/64 mmHg,脈拍数110/分,呼吸数20/分,体温38.7℃,SpO2 99%(RA)。身体所見上,肋骨弓下に肝臓を2横指触知。両手首,肘,膝関節痛はあるものの,熱感,腫脹,圧痛,発赤はない。その他,頭頸部,胸腹部,背部,四肢,神経学的異常所見なし。血液検査ではWBC 2500/μL(Eos 6%),Hb 10.1 g/dL,Plt 120×103/μL,T-bil 2.3 mg/dL,AST 56 IU/L/37℃,ALT 62 IU/L/37℃,Cr 0.74 mg/dL,BUN 15 mg/dL。胸部単純X線写真で肺野に明らかな異常所見を認めず。腹部超音波検査で肝臓に3~5 mm程度の小結節影が散在。

 高リスクの表在性膀胱がんや上皮内がんに対しては再発予防の観点からBCGを直接膀胱内に注入する治療が一般的になってきています。BCGとはウシ型弱毒結核菌のことでMycobacterium bovisの生ワクチンです。正確な機序はわかっていませんが,局所のさまざまな免疫反応を惹起し抗腫瘍効果を発揮しているとされます10)。問題は副作用です。M. bovisという抗酸菌を直接注入するわけですから,当然それに伴う感染症が危惧されますね。BCG感染症は局所の尿路感染症と全身性の感染症に分かれます11)表2)。

表2 膀胱がんに対するBCG膀胱内注入療法後のBCG感染症(文献11より一部改変)(クリックで拡大)

 まず注入後に炎症を起こしますので多くの症例で膀胱炎が見られます。自然に改善することもありますが,進行してその他の上部・下部尿路感染症を引き起こすこともあります。

 また注入の6~8週間後に血流に乗って全身性感染症を起こすと厄介です12)。敗血症,粟粒結核,骨髄浸潤などを引き起こす播種性感染症が最多ですが,骨関節や臓器,あるいは血管そのものに影響を及ぼすこともあります。

 今回のケースでは血液培養は陰性であり胸部CT検査でも粟粒結核は否定的でしたが,汎血球減少を認めたことから骨髄穿刺を行ったところ結核菌群PCR(Polymerase Chain Reaction)法が陽性となり後日M. bovisが培養されました。また肝生検では非乾酪性の肉芽腫に加えて抗酸菌の浸潤が見られ,肉芽腫性肝炎に合致する所見でした。

 治療についてはランダム化比較試験が存在せず,ケースシリーズがよりどころとなります11)。ポイントが3つありますのでぜひ覚えておきましょう。

1)抗結核薬の中でピラジナミドは耐性
2)局所の尿路感染症に対してはレボフロキサシンやイソニアジドの単剤投与
3)全身性感染症にはリファンピシン+イソニアジド+エタンブトール,あるいはリファンピシン+イソニアジド+レボフロキサシンなどの併用療法

 なお,治療期間について確たるデータはありませんが,全身性感染症に対しては3~6か月の投与が標準です。

 固形腫瘍はがんそのもので,「バリアの破綻」は起きるものの,好中球減少,液性免疫低下,細胞性免疫低下はほとんど見られないことから「くみしやすい」ことは確かです。でも,感染症が起きないわけではありません。知らなければ見過ごしてしまう重要な感染症があることをご理解いただけましたでしょうか。

 本連載もいよいよ終盤を迎えつつあります。次回からは血液腫瘍の疾患ごとに見られる免疫低下と感染症について解説していきます。

つづく

[参考文献]
1)N Engl J Med. 2005[PMID:15758009]
2)Lancet Oncol. 2009[PMID:19269895]
3)Clin Cancer Res. 2011[PMID:21737504]
4)Ann Hematol. 2013[PMID:23412562]
5)World J Gastroenterol. 2016[PMID:26811603]
6)N Engl J Med. 1977[PMID:408687]
7)World J Surg Oncol. 2009[PMID:19807912]
8)Lancet Oncol. 2009[PMID:19482548]
9)Eur J Cancer. 2012[PMID:22196033]
10)Clin Infect Dis. 2000[PMID:11010831]
11)Medicine(Baltimore). 2014[PMID:25398060]
12)Clin Infect Dis. 2003[PMID:12522745]

連載一覧