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第3253号 2017年12月18日


【寄稿】

多職種協働による患者中心のチーム医療を実践
包括診療医の役割とは

園田 幸生(済生会熊本病院包括診療部部長代行)


 済生会熊本病院(400床)は2017年4月,4人の包括診療医をスタッフとして,包括的なチーム医療を実践する部門「包括診療部」を設置した(2017年10月現在5人)。本稿では,当院の課題を踏まえながら,包括診療部の業務について紹介する。

入院患者の健康を管理する“病院内かかりつけ医”をめざす

 当院は重症度の高い患者が多く入院する急性期病院である。また三次救急指定病院として,救急車の受け入れ台数も全国的にトップクラスであり,多くの医療スタッフが懸命に働いている。定期入院の患者のみならず,緊急入院や緊急手術を受け入れることも多いため,病床稼働率は常に高い。在院日数は短く,入院・退院等の手続きに伴う業務量もおのずと増える。主治医や医療スタッフの身体的・精神的負担はかなり大きく,時間外労働の増加も労務上の大きな問題となっていた。

 受療患者の高齢者率が極めて高いため,併存疾患も多岐にわたり,入院中の診療は主疾患の治療のみならず診療科横断的な医療の提供が必要となるケースが多い。一方で,主治医は定期・緊急手術,救急患者対応,外来業務と多忙だ。必然的に病棟に滞在可能な時間は限られ,患者のみならず医療スタッフとも日勤帯で情報を共有する時間が少なくなる。医療安全管理やチーム医療実践の観点からも解決すべき課題となっていた。主治医は診療科ごと,患者ごとに各病棟に複数存在しているものの,多分に漏れず病棟の全患者の状態を把握している医師は存在していなかった。多職種協働によるチーム医療をめざすような病棟マネジメントを考える上で,大きな障壁があったと言える。

 こうした状況から,当院では診療科や所属を越えて専門診療科の病棟業務の支援を行う専任の診療医の存在が望まれるようになった。既に欧米では専門医は専門性の高い治療や手術を中心に行い,周術期管理を含めた入院管理は「ホスピタリスト」と呼ばれる病棟医が行うシステムが存在している。しかし日本では,専門診療科の主治医が手術等の処置,入院管理や急変時対応に至る一連の業務を行うことが一般的である。専門医業務と病棟医業務の完全な分離は極めて困難であると考えられ,欧米型のホスピタリストは日本ではなかなか理解されてこなかった経緯がある。そこで当院は,単に診療科主治医の権限を病棟医に委譲するのではなく,主治医と入院患者との関係性は従来通りとした上で,主治医と協力し包括的な患者中心の医療をめざすことを目的に「包括診療医」と称した病棟医を配置することにした()。

 包括診療医は,病棟内で多職種協働による患者中心のチーム医療を実践し,主治医を支援している

 入院患者は高齢者が多いため,入院中の健康管理業務を中心に行い,健康管理という観点から,入院中に発症する種々の症候への迅速な初期対応,併存疾患の管理,内服薬管理や処方といったさまざまな医師業務を総合医として行っている。診療科を問わず病棟内の全患者への回診や診察を毎日行っているため,包括診療医は全入院患者の身体状況の把握のみならず,患者やその家族に関する報告や相談などを受けることも容易である。入院病室を自宅に見立てて“往診”する,言わば“病院内かかりつけ医”のような存在である。

 さらには,包括診療医をリーダーとして,多職種によるチーム医療の実践や多職種カンファランスの開催が日常的となり,患者中心の安心安全な医療を提供することも可能となっている。もちろん包括診療医は常に主治医とコミュニケーションを取り合いながら,密接な信頼関係を築いている。そのため,互いの業務を尊重しながら二人三脚で患者を診ており,患者優先の質の高い多職種協働の医療が実践可能となっている。

診療の質と患者満足度の向上をスタッフが実感

 次に,包括診療部の設置による変化やメリットについて述べたい。2017年1月に包括診療医を四肢外傷センターに導入し,各種病棟業務を行ってきた。主治医が病棟不在時でも包括診療医が病棟内にいるため,急変時の初期対応,栄養・排便・睡眠といった生活機能への対処,さらには日常的に発生している医師への確認業務などが迅速に行われるようになり,結果として時間外に発生する業務が減少した。

 導入3か月後,同センターに従事する全職員(医師,看護師,管理栄養士,薬剤師,セラピスト:52人)に対して施行したアンケートでは,100%の職員が包括診療医導入でメリットがあったと回答。その内容として,診療の質と患者満足度の向上が実感として得られたと多くの職員が答えた。注目すべき結果は,79%の職員が時間外勤務等の勤務状況が良くなり,また89%の職員が「働きやすくなった」と回答したことであった。近年問題となっている医療専門職の時間外労働において,包括診療医(病棟医)のような多様性のある働き方の導入が,解決の糸口になるのかもしれない。

専門性を活かした多様な働き方を支援する

 包括診療部のスタッフはそれぞれ専門医を取得しているが,総合医へのキャリアチェンジを目的に集まった医師である。包括診療医はそれぞれ担当病棟を持ち,総合医的な立場で病棟マネジメントを行っている。組織横断的な業務を行う立場から,救急外来(総合外来)や周術期外来の診療業務の他,国際医療機能評価機関(Joint Commission International;JCI)認定などの病院事業,クリティカルパス事業,ロボット支援内視鏡手術イニシアチブ事業など,多部門にわたり積極的にかかわっている。スタッフには育児中の女性医師もいる。時短勤務でありながら,担当病棟ではチーム医療を支える上で欠かせない存在として活躍中だ。

 包括診療部では週に1回,事務職員と共に医療経営管理カンファランスを行い,病院経営の指標の見方,病院運営の課題,各事務部門の業務紹介,地域包括ケアについての勉強会を行っている。包括診療部は総合的医療のみならず,医師のマネジメントスキルを高め,病院経営管理や地域医療貢献ができる総合医養成をめざしている。

 2018年4月よりプログラム開始予定の「日本病院会病院総合医」とリンクして,病院総合医の認定取得を目標としている。病棟マネジメントスキルを持つ包括診療医の存在は,高度急性期病院だけでなく地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟等でも,地域包括ケア推進に向けてその必要性が今後注目されると考える。

 包括診療部では,包括的医療の実践に必要な技術や知識を体系的に学びたい医師,地域医療や高齢者医療に必要なスキルを学びたい医師,医療現場からしばらく離れ復職を考えている医師,今後地域医療に貢献したい医師など,キャリアチェンジをしたい医師を募集している。われわれ包括診療部は多様な視点から,今後の日本の医療を支える医師を養成したいと考えている。

●組織横断的な役割を果たす部門を作る(済生会熊本病院名誉院長・副島秀久)

 包括診療医の構想は,約12年前にさかのぼります。当時,全国紙に総合医(GP)の必要性について書いたのが始まりです。「日本は,国際的に見ても総合医の制度がないことが問題」と指摘しました。2009年に院長に就任し,総合医の必要性を幹部研修や事業報告会などで訴え続けました。日病にも,「病院総合医」は病院団体が責任を持って育てるべきではないかと提案してきました。

 2011年に当院が救命救急センターに指定されたのをきっかけに,救急部と総合診療部を設置し,総合診療体制を拡充しました。期待したのは組織横断的な役割を果たす部門でしたが,総合診療部はあくまで内科のカテゴリーであり,内科の枠を越える意識はスタッフ間でも組織内部でも十分に醸成できませんでした。この間,米国研修でホスピタリストの存在を知り,専門領域の隙間を埋める病院総合医が不可欠との思いを強くしたわけです。その後,園田医師との出会いから2017年に包括診療部がスタートしました。包括診療医は病棟の患者を全て把握し,患者の訴え,一般的な処方,検査指示などにもすぐに対応するため,患者はもちろん,他職種からも評判も良い。スタッフの超勤も減り,満足度は確実に上がっています。今後の発展に大いに期待を寄せています。


そのだ・ゆきお氏
1995年大分医大(現・大分大)医学部卒。2016年より現職。17年九大大学院医療経営・管理学専攻修了(公衆衛生学修士)。医学博士,日本外科学会指導医・専門医,日本消化器外科学会指導医・専門医,社会医学系専門医,日本プライマリ・ケア連合学会認定医。日本病院会認定病院総合医プログラム作成委員を務める。