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第3239号 2017年9月11日


身体所見×画像×エビデンスで迫る
呼吸器診療

肺病変は多種多彩。呼吸器診療では,「身体所見×画像×エビデンス」を駆使する能力が試されます。CASEをもとに,名医の思考回路から“思考の型”を追ってみましょう。

[第3回]片側性胸水の鑑別

皿谷 健(杏林大学呼吸器内科 講師)


前回からつづく

CASE 80歳男性がここ5日間の右胸痛と38℃台の発熱を主訴に独歩で来院。基礎疾患なし。胸部X線で肺野には異常はないが,右胸水を認めた。Vital signsは発熱以外の問題なし。


 胸水貯留は一般内科の外来でしばしば遭遇する病態です。さて,どのように診断していくのでしょうか?

 慢性経過で貯留した胸水は,さほど呼吸困難感が生じない傾向にあります。一方,急速な胸水貯留の場合は無気肺などによる換気血流ミスマッチも影響し,低酸素血症や呼吸困難を伴うことが多いです。一般的に両側胸水は心不全や低アルブミン血症を考慮しますが,片側胸水は肺炎随伴性胸水/膿胸,悪性胸水,結核性胸膜炎が鑑別疾患の代表として挙げられます(図1)。いずれも滲出性胸水です。

図1 片側性胸水貯留の鑑別診断(クリックで拡大)

身体所見や体位も重要な手掛かり

 胸水貯留の程度(水位)のアセスメントは座位での胸郭振盪,打診,auscultatory percussion test,声音聴診でも可能です。

 大量の胸水が貯留した患者は,健側肺を下にした側臥位の姿勢をとることが比較的多く,これは健側での換気血流を増やすためとされています。ただし,胸痛を伴う胸膜炎では,胸痛の軽減のために患側を下にした側臥位の姿勢をとることが多いとされています。筆者の印象では,胸痛(主に吸気時)の頻度は肺炎随伴性胸水/膿胸>結核性胸膜炎>>悪性胸水であることが多いです。身体所見や体位も重要な手掛かりなのですね。

胸水診断の神様,Lightに学ぶ

 滲出性胸水と漏出性胸水はのLightの基準で診断します1)。しかし,心不全における利尿薬の使用によって胸水の濃縮が起こり,臨床的には明らかな漏出性胸水を滲出性胸水と診断してしまうことがあります。こうしたエラーを防ぐために,滲出性胸水の診断では必ず血清と胸水のT-cho,Albを測定し,補助診断も使用する必要があります()。皆さんの周りではきちんと使用されているでしょうか?

 滲出性胸水 vs. 漏出性胸水の鑑別(文献1より)

 ちなみに,この胸水のLightの基準で知られるRichard W. Light教授はご存命であり,名著の『Pleural Diseases』(LWW)は第6版まで世界中で愛読されています。さらにさらに……“Lightの裏の基準”とわれわれが呼んでいるClass 1からClass 7までの胸水分類2)を一度は確認しておきましょう。Class 4以上は胸腔ドレナージが必要な状態であることを示唆し,予後不良を見分けるACCP(米国胸部医学会)の胸水分類(Category 1~4)3)とは一線を画した分類となっています。

 Light教授のお人柄はThe story behind Light's criteria(http://www.toraks.org.tr/uploadFiles/book/file/2422011163357-1718.pdf)で垣間見えます。物事をシンプルに考える重要性,協力者にも価値のあると思える仕事をする,自分の主張が受け入れられなくてもnever give upの精神を持つ,など重要な指針をわれわれに与えてくれます。

Split signを見たら膿胸を疑え!

 本症例の胸部CTを示します(図2)。このsplit signが見えたら,もうけものです。このsplit signは肥厚した臓側胸膜と壁側胸膜により被包化された胸水がラグビーボールのように見える状態です。肺炎随伴性胸水/膿胸を疑う症例に関するわれわれの検討では,split signを認めた場合,膿胸のハザード比は6.70 (95%CI,1.91-23.5,p=0.003)です。さらに,胸壁からの垂線が30 mm以上の場合,膿胸のハザード比は7.48(95%CI,1.76-31.8,p=0.006)となります4)

図2 胸部CT画像
肥厚した臓側胸膜(白矢印),壁側胸膜(緑色矢印)により被包化された胸水が見られる(split sign)。点線は胸壁からの垂線を示す。

 意外なことに末梢血のWBCやCRPなどの炎症マーカーでは肺炎随伴性胸水と膿胸の鑑別は困難であり,全身の炎症と胸腔内という局所の炎症は分けて考える必要がありそうです。胸膜肥厚では胸膜中皮腫5)や悪性リンパ腫6)も鑑別に挙げる必要がありますが,このsplit signは膿胸に特異的な所見です。

胸水を嗅ぐ・見る

 胸水穿刺をしたら,におい・色調は一番にチェックします。悪臭がある場合は,嫌気性菌による膿胸の可能性を考えます。本症例は胸水穿刺で無臭の白色調の胸水で,グラム染色で多数のグラム陽性球菌が描出され,最近の誤嚥のエピソードから,「誤嚥性肺炎を契機とした膿胸」の診断となりました。

 胸水の色調は通常,淡黄色ですが,黄白色または明らかな白色では膿胸を考慮します。膿胸でなければ,乳び胸,偽性乳び胸を考え,中性脂肪,カイロミクロン,T-choなどを必ずチェックします。

 赤色調であれば必ず胸水中のヘマトクリット(Ht)を測定する習慣をつけましょう。胸水Ht/血液Ht>50%となれば血胸や大動脈解離の診断になります。胸水がかなり濃い赤色調でも胸水Htは思ったより上昇しない(数%程度)という感覚を身につけましょう。A-C bypass術後や肺塞栓,癌性胸膜炎では胸水Htが数%となります。胸水中の炎症反応の程度は総細胞数や好中球,LDHなどがよく反映します。

 黒色調の胸水は一度見たら忘れられない色ですが,われわれのレビューでは鑑別は出血/溶血,感染症(Aspergillus niger,Rhizopus oryzae),悪性黒色種,活性炭の食道から胸腔内への漏出です7~9)。茶褐色~黒緑色では胆汁性胸水も鑑別に挙がり10),その原因として肝疾患(エキノコッカス,結核,アメーバ),肝周囲膿瘍/胆汁性腹膜炎,経皮的胆管ドレナージ/肝生検に伴うものが多く報告されています。われわれの検討では胸水中の胆汁酸の検出(グリココール酸),胸水T-Bil/血清T-Bil>1.0のどちらかを満たせば100%の感度で胆汁性胸水を容易に診断できることを示しています10)

 最後にもう少し,胸水所見の診断へのヒントとピットフォールを紹介します。

好酸球:胸水中の好酸球増多はアレルギー疾患や寄生虫の関与か? としばしば臨床医を悩ませます。しかし多くの症例でその診断的意義はなく,ただ単に胸腔内への空気や血液の混入による結果であることが多いので解釈には注意が必要です。

ADAとCEA:ADA高値(>40 U/L)は結核性胸膜炎を疑う根拠になり得ますが,悪性リンパ腫や膿胸でも上昇することがあります。胸水CEAの上昇(>5 ng/mL)は高い感度,特異度で悪性胸水を示唆しますが,低値でも悪性胸水は否定できません11)。最近では悪性胸水,結核性胸膜炎,肺炎随伴性胸水を血清LDH/胸水ADA比で分類するという興味深い報告もあります12)

pHと糖:pH<7.2や胸水中の糖の著明な低値(<40 mg/dL)は膿胸を示唆する所見ですが,関節リウマチによる胸膜炎の可能性も忘れないようにしましょう。

POINT

●胸水の滲出性/漏出性はLightの基準と補助診断で見分けよう。
●Split signは膿胸に特異的な所見。
●胸水の色調と疾患との関係を押さえよう。

(つづく)

【参考文献】
1)N Engl J Med. 2002[PMID:12075059]
2)Chest. 1995[PMID:7634854]
3)Chest. 2000[PMID:11035692]
4)PLoS One. 2015[PMID:26076488]
5)J Thorac Dis. 2013[PMID:23372960]
6)Pulm Res Respir Med Open J. 2015[doi:10.17140/PRRMOJ-2-112]
7)Chest. 2012[PMID:22315123]
8)Am J Med. 2013[PMID:23591042]
9)Am J Med. 2013[PMID:24262734]
10)Respir Investig. 2016[PMID:27566385]
11)Koide T, et al. Prognostic value of carcinoembryonic antigen in pleural effusion in patients with primary lung adenocarcinoma. Am J Respir Crit Care Med. 2015;191:A5102.
12)Lung. 2016[PMID:26678281]

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