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第3236号 2017年8月21日


身体所見×画像×エビデンスで迫る
呼吸器診療

肺病変は多種多彩。呼吸器診療では,「身体所見×画像×エビデンス」を駆使する能力が試されます。CASEをもとに,名医の思考回路から“思考の型”を追ってみましょう。

[第2回]肺炎を考える!

皿谷 健(杏林大学呼吸器内科 講師)


前回からつづく

CASE 50代男性,4日前からの湿性咳嗽と38℃台の高熱を主訴に受診。基礎疾患・内服薬なし。職業は会社員でデスクワークが主体。Vital signsは血圧120/70 mmHg,呼吸数22回/分,脈拍102回/分,体温38.4℃,SpO2 90%(室内気)。聴診上は右肺で呼吸音の減弱があるが,わずかにcoarse cracklesを聴取するのみ。胸部X線で右肺を主体にair bronchogramを伴う広範なコンソリデーションを認めたことから,大葉性肺炎の疑い(図1)。

図1 X線画像

 A-DROPでは1点(SpO2 90%以下)の中等症。qSOFAでは1点(呼吸数22回/分以上)で,敗血症を疑う2点以上は満たしていない。ただちに喀痰のグラム染色を行い,グラム陽性双球菌陽性および肺炎球菌尿中抗原陽性から肺炎球菌肺炎と診断。


呼吸を診て聴く“思考の型”

 本症例は4日前からの咳嗽を主訴とする急性発症であり,若干の頻呼吸を認めますが呼吸様式は正常です。正常の呼吸は吸気時には胸郭が拳上し,横隔膜の収縮に伴い腹部は突出します。しかし,呼吸仕事量の増大に伴う呼吸筋力の低下や横隔膜機能不全などにより,奇異性呼吸(paradoxical respiration)と呼ばれる胸郭と腹部の非協調運動が生じることがあります。急性呼吸不全の症例でこういったシーソーのように動く奇異性呼吸がある場合には,呼吸不全がさらに進行する可能性が高いです。また,横隔膜機能不全を来す基礎疾患(ALSや脊髄損傷,筋疾患など)も考えられます1)。ALSや脊髄損傷に伴う横隔膜機能不全2, 3)や特発性間質性肺炎の急性増悪4)および喘息発作極期の奇異性呼吸をわれわれは報告しています5)

 本症例は聴診所見が乏しいです。無気肺や胸水貯留でも正常の呼吸音が減弱するのみでラ音が目立たない場合があります(図2)。本症例とは異なりますが,基礎疾患にCOPDがあると呼吸音そのものが聴取しづらいことが多いですね。気管支炎/気管支肺炎ではcoarse cracklesが聴取されない場合も多く,わずかなrhonchiが疾患を疑うヒントになることもあります。

図2 ラ音により考える病態(クリックで拡大)

 なお,著明なcoarse cracklesを聴取した場合,気管内にも液体貯留を引き起こすような心不全,肺炎,肺胞出血をまず考慮します。coarse cracklesの原因は気道内の分泌物の破裂に伴う音だからです。Rhonchiは喀痰の気道内への詰まりにより生じることがありますが,咳払いで喀痰が消失すれば改善します。

 聴診所見はさまざまなラ音が混在し,時間とともに変化します。肺炎では,最初は吸気全般で聴取していたcoarse cracklesが数日後には吸気途中または終末だけで聴取されるようになります。呼吸相を意識したラ音の聴取は筆者作成のwebサイトを参考にしてください。

大葉性肺炎の東西横綱:肺炎球菌 vs.レジオネラ

 胸部X線やCTでair bronchogramを伴うコンソリデーションを認める大葉性肺炎の鑑別として,感染症では肺炎球菌肺炎,レジオネラ肺炎,クレブシエラ肺炎が挙げられます。極めてまれですが市中緑膿菌肺炎も存在します6)

 肺炎球菌肺炎と画像上,治療選択の上からも,最も鑑別を要する疾患にレジオネラ肺炎があります。当院での24症例と文献的レビューを合わせた本邦の62症例の解析では,レジオネラ肺炎では肺炎球菌肺炎と比して明らかに比較的徐脈7)が多く,症状の出現から来院までの日数が短いことがわかります()。

 レジオネラ肺炎と肺炎球菌肺炎の検査データ比較(論文投稿中)(クリックで拡大)

 レジオネラ肺炎といえば,比較的徐脈の他に低Na血症や肝酵素の上昇,低P血症などを伴うことが有名です。しかし実は,いずれもはっきりした原因がわからないものが多いです。

 例えば低Na血症の原因としてはSIADH(抗利尿ホルモン分泌異常症候群)が考えられてきましたが,それを示す確固たる根拠はなく,むしろ否定的な結果が多い印象です8~10)。さらに肺炎の重症度が低いほど血清Naは低い傾向があることを予想させるデータも出ており,興味深い点です。実際に当院のレジオネラ肺炎症例では,A-DROPの低いレジオネラ肺炎ほど血清Naが低い傾向にあり,入院時と退院時の血清Naは有意差を持って退院時が高い傾向にありました。本当に不思議な疾患ですね。

 またレジオネラ肺炎に伴う腎障害には種々の機序が指摘されていますが,われわれは横紋筋融解症による遠位尿細管へのミオグロビンの析出が原因であることを病理学的に証明しています11)

喀痰のグラム染色:貪食像の意義とは?

 本症例では,Geckler分類の5群に当たる良質な喀痰が見られ,このグラム染色で肺炎球菌を背景に多数認めたため,肺炎球菌肺炎と診断しました。しかし好中球による肺炎球菌の貪食像は認めていません。症例検討会で「喀痰中の細菌の貪食像ありから起炎菌と考え……」というセリフはよく耳にする言葉ですが,「貪食像=起炎菌」を示す確固たるエビデンスはないようです。

 では,貪食像の意義ってあるのでしょうか? われわれの答えはYesです。貪食像自体は菌により生じやすい/生じにくいがあるようです。われわれの検討では,特にHaemophilus influenzae,MSSA(メシチリン感受性黄色ブドウ球菌),Moraxella catarrhalisは貪食像を呈しやすいという結果になっています12)。肺炎球菌の場合,「背景に多数あること」が診断的意義を持つのです。良質な喀痰(Geckler 4群,5群)のグラム染色で貪食像によって感染症を診断できる感度は63.3%,特異度は44.7%と低く,これは貪食されやすい菌/されにくい菌が同時に解析されている影響と考えられます12)。こういった検討を今後も続け,データの集積が必要です。

抗菌薬使用後の合併症に要注意

 肺炎治療のための抗菌薬使用によりMRSA腸炎が起きたとする報告が日本では多数なされてきました。われわれの本邦症例のレビューでは,ただ単に下痢のある患者からMRSAが培養陽性となったとするものが多かったのですが,一部ではToxic shock syndromeを疑わせる症例や実際に小腸に偽膜形成を生じた症例もありました13)。実際にわれわれがMRSA腸炎を疑った症例はMRSAによるトキシンの産生が大量の水様性下痢の原因と診断しています13)

 「偽膜性腸炎はClostridium difficile以外も考慮せよ」と題した最近の総説では,薬剤,C. difficile以外の感染症,炎症性腸疾患など,種々の鑑別の重要性が挙げられています14)

POINT

●肺炎診断は,身体所見,画像所見,検査所見,vital signsを総動員せよ。
●聴診所見,喀痰のグラム染色は診断の有用なツールだが,過信してはいけない。
●急性期のマネジメントはもとより,治療が安定したあとの合併症も意識すべき。

つづく

参考文献
1)Phys Ther. 1995[PMID:7480128]
2)Pulm Res Respir Med Open J. 2016[doi:10.17140/PRRMOJ-SE-1-107]
3)Pulm Res Respir Med Open J. 2016[doi:10.17140/PRRMOJ-SE-1-110]
4)BMJ Case Rep. 2016[PMID:26786681]
5)Pulm Res Respir Med Open J. 2016[doi:10.17140/PRRMOJ-SE-1-105]
6)JMM Case Rep. 2014[doi:10.1099/jmmcr.0.000281]
7)Clin Microbiol Infect. 2000[PMID:11284920]
8)Br Med J. 1982[PMID:6800542]
9)BMC Infect Dis. 2013[PMID:24330484]
10)Br Med J. 1982[PMID:6802400]
11)J Clin Pathol. 2008[PMID:18552170]
12)Shimoda M, et al. A significance of engulfment of bacteria on gram stained sputum in patients with respiratory infections. Am J Respir Crit Care Med. 2015;191:A1784.
13)BMC Res Notes. 2014[PMID:24405901]
14)Cleve Clin J Med. 2016[PMID:27168512]

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