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第3225号 2017年5月29日


【寄稿】

MEDIS-DC看護実践用語標準マスター
医療福祉連携へのICT活用が進む今こそ,看護用語の標準化を

瀬戸 僚馬(東京医療保健大学医療保健学部医療情報学科准教授)


 70代のインターネット利用率が2014年には50%を超え,高齢者がICTを活用することは日常の姿になった(総務省「通信利用動向調査」)。ICTの発展と浸透を踏まえれば,地域包括ケアの前提となる医療福祉連携にこうした技術が積極的に活用されることは自明と言える。

 ICT活用において最も基本的なプロセスの一つは,用語やコードの標準化だ。わが国では2015年4月から原則として電子レセプトによる診療報酬請求が義務付けられたが,それが可能なのは,請求に用いる病名・手術・医薬品・処置等のコードが全国で統一されているからである。これらの情報は全国的なデータベース(NDB)に統合され,医療を可視化するための重要な社会資源として政策立案や学術研究に活用されるようになった。しかし,そこには看護に関する事項はほとんど含まれていない。

 そのような中,2016年3月28日に発出された厚労省通知により,一般財団法人医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)が開発している「看護実践用語標準マスター」(以下,標準マスター)が,厚労省標準規格として認められることになった。

 本稿では,標準マスター普及推進作業班主査の立場から,今なぜ看護用語・コードが標準化されるべきなのか,そして標準化された看護用語・コードをどう活用していくべきなのかを概説する。

看護実践用語標準マスターとは

 標準マスターは,看護業務に関することを電子的に記録するための用語集であり,「看護行為編」と「看護観察編」から構成されている。

 「看護行為編」は看護師が行う具体的なケア(看護行為)を表すもので,1~4までの階層構造になっている。看護計画や電子経過表などには,行為を示す第3階層の用語と,その修飾語となる第4階層の用語を用いるのが一般的だ(表1)。ただし,看護師が行うケアの中でも特に重要な観察については,その結果を表現することが必要であるため,「看護観察編」として独立した存在になっている。「看護観察編」は観察項目と結果表記で構成され,結果には,数値で表すもの,語群から選ぶもの,プラスマイナスで表現するものなどがある(表2)。

表1 看護実践用語標準マスター「看護行為編」の階層構造(クリックで拡大)
看護行為編は,第3階層で具体的な行為名称,第4階層でそれを補う語を示している。

表2 看護実践用語標準マスター「看護観察編」での結果の表現方法(クリックで拡大)
看護観察編は,観察名称とその結果のセットで構成されている。例えば便性状の場合,「普通便」など十種類以上の性状から選択する。嘔吐量の場合,「中等量」等と定性的に表現するか定量的に表現するかなども患者状態によって選択できる。
※紙面の都合上,一部簡略化している。

 医療情報システムで使用するためのものなのでいずれの項目にもコードが付与されており,ほとんどの電子カルテベンダーは標準マスター実装の経験を持っている。

 なお,標準マスターの著作権は厚労省にあり,MEDIS-DCが同省の委託を受けて開発し,無償提供している。運営組織としては看護領域の標準化委員会(委員長=国立国際医療研究センター・美代賢吾氏)が置かれ,委員会の下部組織として標準マスターメンテナンス作業班(主査=東大・水流聡子氏)と同普及推進作業班(主査=筆者)が置かれている。

 厚労省標準規格とは,その名の通り,厚労省が認めた保健医療情報分野の標準規格である。厚労省標準規格に「同種で類似した規格」は看護に限らず現在は存在しない。他方,厚労省通知では同規格を「現在のところ,医療機関等に対し,その実装を強制するものではない」と明示している。各病院が今後電子カルテを導入・更新する際,少なくとも現時点では他の看護用語を用いることも可能だ。

看護用語・コードの標準化が今なぜ急務なのか

 看護用語・コードの標準化が必要な最大の理由は,今や医療が一つの病院で完結しないところにある。これには,個々の患者が紹介や転院・転所で場を変えるという面もあるし,複数の病院間でのベンチマーキングが盛んに行われるようになったという面もある。看護サービスを一つの病院だけで考える時代が過去のものとなり,第三者が理解できる標準的な形でデータを蓄積していく必要性が生じているということだ。

 特に,医療福祉連携はどの病院にとっても重要課題だ。現在の医療法第三十条の七では,各病院に「地域における病床の機能の分化及び連携の推進に協力」する努力義務が課せられており,どの病院の看護部門でも継続看護の強化は避けて通れないテーマである。

 このような背景を踏まえ,厚労科学研究費補助金「病床機能の分化・連携や病床の効率的利用等のために必要となる実施可能な施策に関する研究」(研究代表者=奈良医大・今村知明氏)では,円滑な転院を支援するために必要最低限の情報項目および内容の整理に着手した。円滑な転院を行うための体制が十分に整備され,他院にとっても参考にする点が多いベストプラクティスの急性期病院の事例をもとに,転院場面で用いる情報提供書式の「ひな形」を提示するという取り組みだ。この「ひな形」で用いる項目は,標準マスターの用語を用いて表現されることになっている。

 また,データ分析を支える仕組みも急速に整ってきた。従来は「どのようなケアを受け,どのような成果があったか」を可視化する手段は限られていた。しかし,現在では日本クリニカルパス学会が提供しているBasic Outcome Master(BOM)を活用することで詳細かつ定量的な表現が可能になってきた。ケアの評価は患者の観察が前提であるため,その観察表現に標準マスターが用いられている。

 このような基盤が整備されると,看護の定量化はかなり行いやすくなる。これまでは看護業務量調査を行っても,病院間の比較が難しかった。それは,例えば入浴介助一つをとっても,「部分介助を含むのか」「リフト浴は別行為として分けるのか」などの課題があり,粒度をそろえることに限界があったためである。標準マスターを活用すれば,時間消費の大きな業務をある程度容易に把握できる。日常業務で蓄積されたデータを電子カルテシステムから抽出・分析することで,タイムスタディのように調査負荷が膨大な手法を用いる場面も減るだろう。

 社会環境や人間の生活,医療政策が変わり続ける中,全ての医療関係者が全面的に納得できるような看護の用語集を構築することは極めて困難だ。これは全てのマスターに共通するが,標準マスターも,常に見直しを行い改善し続けていく必要がある。標準マスターは,厚労省標準規格に至るまでの審査過程において,改善し続ける体制が整っていることについても十分な評価を受けたと自負している。看護記録・医療福祉連携・パスなど多様な形で標準マスターをぜひ実装し,活用を通じて生じたご意見等をお寄せいただければ幸いである。


せと・りょうま氏
国際医療福祉大大学院医療福祉学研究科修了,博士(医療福祉経営学)。2012年開催の第13回日本医療情報学会看護学術大会長,18年開催の日本医療マネジメント学会第18回東京支部学術集会長などを務める。17年からMEDIS-DC看護領域の標準化委員会看護実践用語標準マスター普及推進作業班主査に就任。