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第3190号 2016年9月12日


めざせ!病棟リライアンス
できるレジデントになるための㊙マニュアル

ヒトはいいけど要領はイマイチな研修医1年目のへっぽこ先生は,病棟業務がちょっと苦手(汗)。でもいつかは皆に「頼られる人(reliance=リライアンス)」になるため,日々奮闘中!!……なのですが,へっぽこ先生は今日も病棟で頭を抱えています。

[第4話]
伝えてあるかないかで大違い!
急変・せん妄・認知症進行・転倒・廃用症候群

安藤 大樹(岐阜市民病院総合内科・リウマチ膠原病センター)


前回よりつづく

 へっぽこ先生,眠そうな顔で朝の病棟業務中です。昨日肺炎で入院した80代の男性患者さんが,夜間にせん妄を起こして大騒ぎ! ファーストコールを受けたへっぽこ先生が,研修医本を片手に何とか対応しました。抑制帯を巻かれた患者さんは,使用した鎮静薬が効いているのか,呼び掛けへの反応はイマイチです。そこに患者さんのご家族が来院されました。「父はどうなったんだ! こんな話,聞いてないぞ!」

(へっぽこ先生) え,あ,その……,これはせん妄と言って……(あたふた)。
(セワシ先生) (そこに,偶然通りかかったセワシ先生が看護師から事情を聞き)説明不足で大変申し訳ありません。状況が変わっていて驚かれましたよね。後ほど担当者から説明がありますので,しばらくお待ちください。
(へっぽこ先生) (怒り気味に部屋に戻っていくご家族を見送りながら……)セワシ先生,ありがとうございました。焦って,何を話せばいいかわからなくなってしまって。こんな話,研修医の自分がするわけにもいきませんし……。
(セワシ先生) 確かに,最初に説明していない主治医の先生に問題があるかもしれないね。でも,へっぽこ先生も主治医グループの1人だよ。全く問題がないわけじゃないんじゃないかな?


 われわれにとっては“日常茶飯事”である入院ですが,患者さんやそのご家族にとっては,“人生の一大イベント”です。自分,あるいは身内がどうなってしまうのか,どんなことをされるのか,不安な気持ちでいっぱいだと思います。病院にいる安心感から,良くなることだけを信じている方も多いかもしれません。そんな中で悪いことが起こってしまったら……?

 入院中に起き得ることを全て伝えることはできませんが,「起こる可能性が高いこと」と「可能性は高くないものの,起こってしまった場合に重大な結果につながること」は,必ず伝えなければなりません(救急外来と一緒です)。これらを伝える癖をぜひ研修中につけてください。あなたの医師人生のどこかで,大きな助けになるハズです。

伝えるべきは“5D”

 何を伝えるかはケースバイケースですが,入院するからには,多くの場合“状態の悪くなるリスク”を抱えています。話すかどうかを症例ごとに決めていると,どうしても漏れが出てしまうので,話す内容もある程度ルーチン化しておくとよいと思います。まず今回は,入院患者の多くを占めるであろう「高齢者」を対象に考えてみましょう。次の“5D”なんてどうですか?

①急変:sudden change
 “D”と言っておきながらいきなり違う頭文字で恐縮ですが,Dが2つ入っていますのでお許しを(汗)。急性期病院を対象とした調査1)では,入院患者の予期せぬ心肺停止の確率は0.4~0.7%だったとのこと。つまり,約150~250人に1人の割合です。検査入院の方や若年者も含まれていることを考えると,高齢者や担癌患者,心疾患の既往がある方,易感染性患者などでは急変の可能性はさらに高いかもしれません。軽症での入院であったとしても,伝えておくべきでしょう。終末期医療の重要性が叫ばれている昨今,急変の可能性を伝えることで,ご本人やご家族が今後のことを考える機会になるといった利点もあります。

②せん妄:delirium/③認知症:dementia
 意識がぼーっとした状態で運ばれ,目を覚ますと知らない場所で点滴につながれていたり,いろいろなものが身体に貼られていたり,尿道には得体のしれない管がつながれていたりしたら……,パニックになって当然ですよね。実際,入院患者におけるせん妄の有病率は10~30%(高齢者では10~40%)とされており,入院時に伝えないほうが不自然なほど,出合う確率の高い疾患です2)。原因は多岐にわたりますが,少なくとも重症疾患・低Na血症・敗血症・心不全・低血糖患者,認知症の既往のある方,薬剤(特に睡眠薬,抗不安薬,抗うつ薬,抗てんかん薬,抗パーキンソン病薬,抗コリン薬,H2受容体拮抗薬,強心薬,副腎皮質ステロイド,抗悪性腫瘍薬など),アルコール多飲者には,最初の段階できちんと説明しておくことが必要です。当然,せん妄に伴う抑制の必要性についても伝えておきましょう。もしあなたの親御さんが夜間入院して,何も伝えられずに翌朝縛られていたら,多分怒りますよね。抑制を行うことに対して賛否はあるものの,現実的に行わざるを得ない状況も多く見られる以上,説明は欠かせません。

 紙面の都合で詳しくは触れませんが,認知症が出現・進行する可能性についても説明しておく必要があります。

④転倒:fall down
 全日本病院協会の報告によると,全入院患者に対する転倒・転落の発生率は0.17%と決して高くはありません3)。しかし,転倒のリスク因子()がある場合,発生率は急激に上がります。平成25年国民生活基礎調査によると,介護が必要となった原因として,骨折・転倒は脳血管疾患,認知症,高齢による衰弱に次いで,第4位となっています4)。1つでもリスク因子が該当する場合には,転倒の可能性について伝えておかなければなりません。また,65歳以上の方は思った以上に転んでいます! 入院時に必ず,過去一年間の転倒歴を聞きましょう。

 転倒のリスク因子(参考文献5より作成)

⑤廃用:disuse
 「寝たきり状態」は筋力低下の大きなリスク因子であり,一週間の臥床で約20%の筋肉量の低下を招くと言われています。高齢者の機能障害の約50%は入院中に発症するという報告6)もあり,この“D”も必須の説明項目です。入院時に「DEATH SHAFT」(詳細は成書参照)を利用して普段のADL/IADLを確認した上で,80歳以上,入院2週間以内のADL/IADL低下,担癌患者,脳卒中,認知機能障害,アルブミン<3.0 g/dLなどのリスク因子がある場合,特に注意が必要です7)

 最後に,私が普段している説明の例をまとめておきますね。設定は,誤嚥性肺炎で入院した,心房細動の既往のある85歳男性で,説明相手は息子さん夫婦です。例ですので不十分な点も多いですが,皆さんなりの型をつくる際の参考にしてもらえたらうれしいです。

 入院で気が動転されているときに申し訳ありません。お父さまはご高齢で,かつ比較的重症化しやすい誤嚥性肺炎での入院ですので,どうしても“悪くなったときのこと”をお伝えしておかなければなりません。○○さんに限ってお伝えしているわけではありませんのでご了承ください。現在既に治療を開始していますが,誤嚥性肺炎の場合は△△や××など,さまざまな状態悪化の可能性があります。また,もともと心房細動という病気をお持ちですので,□□といった合併症で状態が悪くなるかもしれません。場合によっては突然呼吸が停止したり,心臓が止まったりすることも考えられます。

 また,状態悪化とは別に,入院後の環境変化や病気の影響により,せん妄と呼ばれる意識状態の変化が起こることもあります。せん妄は,多い報告では40%程度起こると言われています。その他,ご高齢ですので転倒してしまう可能性も否定できません。さらには,入院が長期化すれば,認知症の進行や,廃用といって,筋力低下が進み,寝たきり状態になる可能性もあります。もちろん,このようなことが起こらないよう,われわれスタッフも万全の態勢を取ります。今の話は,治療がうまくいって退院されれば取り越し苦労になりますし,われわれもそれを最も望んでいます。ただ,残念ながら,いずれはまた同じようなことを考えなければいけないときが来ると思います。そのときのためにも,ぜひ一度ご家族でも話し合ってみてください。

セワシ先生の今月のひと言

患者さんもご家族も,良くなることを期待して入院してきます。それなのに,説明を受けていない状態の変化が起こったら,受け入れられなくて当然です。入院時に“5D”を説明しておくことは,患者さんやご家族の病気への理解を深めるだけでなく,あなたや病棟スタッフを守ることにもなりますよ。

つづく

【参考文献】
1)Crit Care Med. 2009[PMID:19050625]
2)JAMA. 1987[PMID:3625989]
3)全日本病院協会.診療アウトカム評価事業――転倒・転落率.2013.
4)厚労省.平成25年国民生活基礎調査の概況――統計表 第14表 要介護度別にみた介護が必要となった主な原因の構成割合.2014.
5)JAMA. 2010[PMID:20085954]
6)J Am Geriatr Soc. 2003[PMID:12657063]
7)J Am Geriatr Soc. 2011[PMID:21649616]

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