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第3184号 2016年7月25日


【interview】

人を支え,地域を支えるより良い看護へ向けて

坂本 すが氏(日本看護協会会長)に聞く


 2015年6月,日本看護協会(以下,協会)から『2025年に向けた看護の挑戦 看護の将来ビジョン』(MEMO)が発行となり,地域包括ケアシステムの中で「いのち・暮らし・尊厳をまもり支える看護」の追求が表明された。「人々の尊厳を維持し,健康で幸福でありたいという普遍的なニーズ」に看護はどのように応えていけば良いのだろうか。本紙では残り1年の任期となった協会長の坂本すが氏に,看護職の今後の発展を見据えて看護がどのように変わっていくべきかを聞いた(関連インタビュー)。


看護職は地域包括ケアの要

――看護の将来ビジョン発行から1年が経ちました。現場で働いている看護職からの反響はありましたか。

坂本 看護職の勉強会や,大学の講義で活用していると聞いています。「看護職は,医療と生活の質を支え,人々の尊厳を守る職業である」ことを看護職の皆さんはすでに感覚としてわかっていると思いますが,それがビジョンとして文章になり,理解が深まったことの意義は大きいです。

――暮らしに着目し,「生活の質」という言葉を入れたところが大きなポイントですね。

坂本 ええ。患者像がこれまでと変わってきているのが,「生活の質」という言葉を入れた理由の1つです。病院完結型の医療から,地域包括ケアへの移行という時代の要請に伴い,患者さんは医療機関と地域を行ったり来たりするようになりました。そのため看護職には生活の場をベースにしたケアが求められているのです。

――現在,地域包括ケアの推進へ向けて,協会として力を入れていることは何ですか。

坂本 地域のコミュニティ作りです。今まで取り組んできた保健所,医療機関,介護施設等の看護職による交流会や勉強会には一定の成果がありましたが,どうしても「医療提供をどうするか」の議論になりがちで,生活への視点が十分ではありませんでした。そこで協会は2015年度に,医師,看護職,介護職に加えて,生活者である住民代表や患者会を交えた「看護がつなぐ地域包括ケアフォーラム」を熊本県と静岡県で開きました。地域の生活者・患者さんの意見が入ったことで,「生活の質を上げるためにどうすべきか」という議論がなされました。今後,こうした取り組みを広げていきます。

――16年度は子どもと子育て世代を対象にした地域包括ケアも,協会の重点事業に新たに加えられています。

坂本 高齢者と同様,子どもも社会の皆で支えていく必要があります。これまで地域包括ケアは高齢者を対象に考えられてきましたが,実は子どもの虐待,育児中の母親の孤独など,子どもと子育て世代をめぐる課題も地域で対処すべき事案です。

 子どもに注目するもう1つの背景には,低出生体重児が地域に戻れないという問題があります。日本は医療のレベルが高い一方で,地域で支える仕組みが足りていないので,病院からなかなか出られない。この状況は,地域に戻れない高齢者の構造と全く同じです。私たち看護職は子どもの地域包括ケア構築にもかかわるべきです。

――今年度は何を進めていく予定でしょうか。

坂本 「妊娠期からの家族支援・子育て支援」などをテーマに,都道府県看護協会でモデル事業を行います。子どもと子育て世代への包括ケアの推進に向け,保健師・助産師・看護師の多職種連携による協働を促す機会となればと思っています。また,NICU/GCU退院児とその家族への在宅支援に向けた協働もこれから進めていきます。

――看護職の地域での存在意義はますます高まりますね。

坂本 日本の医療提供体制を保ちつつ2025年以降を切り抜けていくには,地域でその体制を支えなければなりません。専門知識・技術を持つ人と協働して,コミュニティの全員が関係する地域包括ケアの仕組みにすでに移り変わりつつあります。

 看護職は24時間,患者さんのそばでケアをする専門職として,確かな技術やアセスメント力に加えて,多職種で最適なケアを提供するための判断力や調整力といった能力も養わなければなりません。自分たちが持っている能力を最大限発揮し,地域包括ケアの要となってほしいと思います。

看護スキルの「見える化」にクリニカルラダーを活用する

――16年5月20日に発表された「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」では,病院,介護施設,訪問看護での活用例が示されました。

坂本 多職種との連携のためには,お互いがどれだけのスキル(能力)を持っているのかを明らかにし,持つ知識・技術の評価を共通化しなくてはなりません。それは病院と訪問看護のように,違う職場で働く看護師間の連携でも同様です。持っているスキルが異なるので,スキルの「見える化」の必要があります。このクリニカルラダーは,看護師同士の連携で役立つものなのです。

――本クリニカルラダーについて,現場の意見はいかがでしたか。

坂本 好意的なコメントが多かったです。公表前のパブリックコメントでは,看護実践能力の強化や評価指標にクリニカルラダーを使いたいという意見や,病院に限らずどの施設でも活用しやすそうだという意見がありました。

 日本の看護の質向上の一環として,看護実践能力を客観視し適切な人材配置をする必要性が高まっています。看護師のキャリア開発の基盤となる標準化されたクリニカルラダーがほしいと,多くの看護師が感じていたのでしょう。

 自施設で活用したいという声はパブリックコメントの実に89%を占めました。多くの施設で標準化されたクリニカルラダーを導入すれば,病院から地域,地域から病院と,看護師が職場を変えるときにも役立てることができます。クリニカルラダーを使って,今の職場で発揮しているスキルのレベルがわかれば,病院,介護施設,訪問看護など他の職場ではどのような仕事ができそうか,クリニカルラダーの指標を合わせてみてほしいです。

――今まではスキルの評価基準がなく,「どの配属先で,何年経験してきたか」といった属性から看護師のスキルを推測するしかありませんでした。

坂本 配属先や経験年数が直接スキルと結び付くわけではありませんから,今までは具体的に何ができる看護師なのかはわかりづらかったと思います。クリニカルラダーを作ったことで,以前の職場で培ってきたスキルを客観的に伝えることができ,看護師自身のキャリア形成にプラスに作用すると考えています。

――客観的な視点を持つことで,自身や組織の状況をより正確にとらえられるようになりそうですね。

坂本 病院や病棟の課題の解決策がなかなか見えなかったり,伸び悩んだりしたときに,周囲と「比較」する物差しとしてクリニカルラダーは役立つでしょう。視野を広げて,他の病院や病棟との比較ができる看護師と,自分の職場の考え方しかできない看護師では方向性を見抜く力が違います。

地域を支える人材育成のため看護師基礎教育4年制が必要

――看護師基礎教育についてはさまざまな意見がありますが,協会としては基礎教育4年制,大学教育への移行を進める考えなのでしょうか。

坂本 はい。次の時代に向けて,教育制度も一番良い方法を議論していかなければなりません。海外に目を向ければ,韓国や他のアジア諸国も大学教育4年制に変わってきています。世界標準を考え,日本もまずは4年制,そして大学教育としていくべきでしょう。

――今まで日本の看護教育は3年制が中心でした。なぜ今よりも長い教育期間が必要なのでしょうか。

坂本 高齢化や在院日数の短縮により,複数の疾患を持って在宅療養する患者さんが増えています。これからは,そういった患者さんに対応できる看護職が必要です。在宅の場に沿った技術や判断力,調整力を身につける必要があり,現行の教育時間数ではまったく足りません。

 カリキュラムでは求められる能力に応じて領域数を増やしましたが,総教育時間数は増加していません。1専門領域当たりの時間数は減少し,特に実習時間は1989年と比較して約2分の1になっています。専門的な教育だけでなく,「判断力」のベースとなる教育にも力を入れるためにも,教育時間数を増やさなければなりません。

――判断力を鍛えるためには,増えた1年間で,どのような学習をすべきでしょうか。

坂本 他者と議論し,さまざまな考え方に触れる機会を増やすべきです。地域の生活者・患者さんは,一人ひとり求めているものが違います。専門性の高い看護を行う土台として,ニーズを見逃さない力を養わなければなりません。

自分の人生に「YES」と言える仕事を

――看護という仕事についてどうお考えですか。

坂本 これまでを振り返ると,看護職はなんて良い仕事なのだろうと思いますね。困っている人,病んでいる人,悩んでいる人を支えるこの仕事を選んで本当に良かったなと実感しています。

 人間は生まれて,成長し,いろいろな人とかかわり,そして亡くなっていくものです。かかわってきた人々の人生の各ステージで,「支えること」ができる看護の仕事は,私にとって至福です。看護を通じて人を支えたことは,自分に跳ね返ってきて私自身を成長させてくれました。今,私は自分の人生を肯定することができます。看護は自分の人生を振り返ったときに,自分に「YES」と言える,最高の仕事だと思います。

――地域包括ケア時代のこれからを支える看護職にメッセージをお願いします。

坂本 人を支え,自分もまた支えてもらうことがたくさんあります。看護は人が「生きる」現場に触れる機会の最も多い職業です。今を必死に生きて,やるべきことを必死にやってください。大変なこともあるでしょうが,多くの本を読み,仲間と話し合い,共に困難を乗り越えてほしいと思います。

――ありがとうございました。

MEMO 『2025年に向けた看護の挑戦 看護の将来ビジョン』

 2025年を見据えた保健・医療・福祉の課題,制度の転換を踏まえ,「これからの看護職はどうあるべきか」を示したビジョン。医療の視点だけではなく,生活の視点も持つ専門職である点に,看護の価値を置いている。地域包括ケアシステム構築への参画,暮らしの場における看護機能の強化,「生活」と保健・医療・福祉をつなぐ質の高い看護人材の育成などを掲げ,「生活の質」を高めるために多職種をつなぎ,人々の尊厳を守るという活動の方向性が協会によって定められている。

(了)


さかもと・すが氏
1972年和歌山県立高等看護学院保健助産学部卒。和歌山医大病院,関東逓信病院(現NTT東日本関東病院)に勤務し,97年より同院看護部長。2006年より東京医療保健大看護学科長・教授,同助産学専攻科長。08年6月,日本看護協会副会長,11年6月より現職。