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第3139号 2015年8月31日


看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第128回〉
文体のレッスン

井部俊子
聖路加国際大学学長


前回よりつづく

 このたび,縁あって一般社団法人共同通信社に20回の連載原稿を書くという経験をした。連載のテーマは「看護師(ナース)がいます」とした。

 大まかな構成は保健師助産師看護師法(保助看法)を参照することにした。つまり,第一章総則,第二章免許,第三章試験,第四章業務,第五章罰則という枠組みを決めて,一般の方に看護職のことを知ってもらい,うまく活用していただきたいと考えたのである。

 一回の原稿文字数は11文字×90行(990字)であった。一回目の原稿は2015年2月に書き始め,最終回を書いたのは7月7日であった。共同通信社は地方紙に記事を配信するが,採用するかしないかは各新聞社の選択によるようである。「山梨で読みました」とか「新潟日報に載っていた」とかいう断片的な知らせを聞いていた。

ジャーナリズムの世界で「書く」ということ

 今回の経験は,私にとって文章を書くという営みの中で大きな収穫をもたらした。日頃,専門領域の中で「書く」ことと,ジャーナリズムの世界で「書く」こととの作法の違いがあるということを学んだ。私の原稿は毎回編集担当者に手直しされた。当初は少しぶぜんとしたが,自分の文章がどのように解体されるのかに興味津々となった。

 私は第一回の原稿をこのように書き出した。

 これから看護師(ナース)のことを書こうと思います。日本ではおよそ147万人(2010年)の看護師が就業しています。この数は前年と比べて,約3.7万人増えています。就業場所として最も多いのは「病院」(62.0%)です。次が「診療所」(21.0%)です。この二つを足すと83%となります。つまり,看護師の大半は医療機関で仕事をしているということになります。けれども看護師はいろいろな所で活躍しているのです。約3万人(2.1%)が「訪問看護ステーション」にいます。さらに「介護老人保健施設」に約4万人(2.8%),「介護老人福祉施設」に約3.2万人(2.2%)います。「保健所」(0.6%),「市町村」(0.4%),「助産所」(0.1%),「社会福祉施設」(1.4%),「居宅サービス等」(2.9%),「工場・事業所」(0.8%),「学校・研究機関」(1.1%)など,看護師の職場は拡大しています。在宅医療の決め手は訪問看護だといわれ続けていますので,「訪問看護師」をいかに増やすかが真剣に検討されています。

 この原稿は手直しされてこのような記事となる。

 これから看護師(ナース)のことを書こうと思います。日本では2010年時点で約147万人の看護師が就業しています。前年に比べて約3万7千人増えています。就業場所で最も多いのは「病院」(62%),次が「診療所」(21%)です。つまり看護師の約8割は医療機関で仕事をしているということです。活躍の場はそれだけではありません。「訪問看護ステーション」に3万人,「介護老人保健施設」に4万人,「介護老人福祉施設」に3.2万人,そのほか保健所,市町村役場,助産所,社会福祉施設,居宅サービス等,工場・事業所,学校・研究機関など,看護師の職場は拡大しています。在宅医療の決め手は訪問看護だと言われ続けていますので,訪問看護師をいかに増やすかが真剣に検討されています。

「看護」をいかに平易に書くか

 第16回は「療養上の世話と診療の補助業務」と題して,保助看法第37条を引用して書いた。それがこのように変身した。

 看護職を規定する保助看法の第37条は“特定行為の制限”として,看護職がしてはいけない行為を挙げています。一言でいうと,医師や歯科医師がしないと衛生上危害を生ずる恐れのある行為です。例えば,医師や歯科医師の指示なしに診療機械を使う,医薬品を渡すことなどがそれに当たります。とはいうものの,三つの除外規定があります。一つ目は主治医の指示があった場合,二つ目は緊急に手当てをしなければならない場合です。三つ目は助産師に限った規定で,へその緒を切る,かん腸をするなど助産師の業務として当然しなければならない行為です。医師の指示を受けて看護師がする行為は“診療の補助”と呼ばれています。(中略)こうした看護師の業務には“療養上の世話”と“診療の補助”が混在しています。看護師は患者に対して行なう全ての行為を判断しているのです。患者に質問されたら,看護師は“先生に聞いてください”と言わず,自らの判断をもっと述べるとよいと思うのです。

 最終回はこのような記事となった。

 (前略)私は看護師を活用することのメリットを強調したいと思います。病気になったとき,まず注目してほしいのは「外来看護師」です。患者は自分の病気を治す「医療チーム」の一員です。その最初の窓口となるのが外来看護師なのです。(中略)外来では,医師は診療室にこもり,外の状況が見えにくくなっているため,看護師が全体の調整機能を担っています。全体をよく見渡すことのできる外来看護師は,体調のよくない患者の診察の順番を早めたり,患者と医師との相性を考えて担当医師を決めたりと,専門家としての判断をしているのです。私は皆さんに,外来で待つ間,看護師と話す機会をつくることをお勧めします。その際,看護師の名前を呼ぶようにしましょう。名前で呼ばれる方が,心理的距離は近くなります。医師は名前を覚えてもらえるのに,看護師は名前で呼ばれることが少ないのは残念です。(後略)

 新聞の読者を対象にした,「看護」をまるごと紹介しようという野心的な表向きの目的とともに,私にとっては「文体」のレッスンという得難い経験となった5か月間であった。

つづく

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