医学界新聞

連載

2015.05.25


看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第125回〉
世界を学ぶ

井部俊子
聖路加国際大学学長


前回よりつづく

 本学における今年の入学式後の保護者懇談会では「海外研修」が注目のひとつであった。どのようなことをするのか,費用はどのくらいかかるのか,ウチの子はやっていけるだろうかなど,さまざまな懸念が示された。

 昨今,グローバル化の名のもとに,多くの大学では在学中に海外での研修をプログラムしている。本学の大学案内は,国際教育(Globalization)の頁で次のように説明する。「さまざまな分野で国際化が進む時代,異なる文化や言語に触れ学ぶ機会を得ることは,国際社会を生きる上で大きな糧になります。本学は,国際的視野から社会に貢献できる人材の育成に取り組んでいます」。続いて,「看護という共通語を通して国際的に貢献できる人材を育成するため,学生の視野を世界へと広げる多様な機会を図るほか,国際学会に参加する学生を支援し,キャンパス内においても留学生とともに自国の看護について意見交換するチャンスを設けています」とうたっている。本学では,在学中に一度は海外研修に参加することを支援するため,奨学金制度(学生国際奨学金)を設けている。

 ミシェル・オバマから現代の若者へのメッセージ

 ミシェル・オバマ(第44代アメリカ合衆国大統領夫人)の北京大学でのスピーチ(2014年3月22日)は,現代を生きる若者たちへのメッセージとしてわかりやすい。(『ENGLISH JOURNAL』誌2015年5月号99-109頁「つながりと多様性への温かいまなざし」)。

 彼女のスピーチのいくつかを紹介したい。

 「夫と私が海外を訪問するときには,宮殿や議会を訪れて国家元首とお会いするだけではありません。こちらのような学校にも伺って,皆さんのような学生の方々ともお会いします。なぜなら私たちは,国家間の関係について重要なのは,単に政府間や指導者間の関係だけではなく,人々の間の,とりわけ若い人々の間の関係である,と信じているからです。従って,私たちは,海外留学プログラムを,学生の教育機会であるだけでなく,アメリカの外交政策の非常に重要な一部であると考えています」

 「はっきり申し上げておきたいのは,海外留学は,自分自身の将来を向上させるよりも,ずっと大きな意味があるのです。それぞれの母国や私たち皆が共有している世界の,将来を形づくるものでもあるのです。現代を特徴づける難題に関して言うなら――それが気候変動であれ,経済機会であれ,核兵器の拡散であれ――(世界に)共通する難題であるからです。それらに一国だけで立ち向かえる国はありません。前進する唯一の方法は,協力することなのです」

 「だからこそ,あなた方のような若い人々が互いの国で暮らし学ぶことが,非常に重要です。そうすることで,協力する習慣が養われるからです。互いの文化に身を浸し,互いの歴史を学び,私たちを隔てることがあまりにも多い固定観念や誤解を乗り越えることによって,協力の習慣は養われるのです」

 「市民外交という新たな時代。(中略)一般市民が世界と触れ合う,ということです」

 「アメリカの若者にはこう言っています。家庭や学校,図書館で,インターネットに接続しているのなら,あなた方は世界のどこへでも瞬時に行くことができ,あらゆる大陸にいる人々に会うことができる,と」

 「皆さんには(世界に)提供できるものがたくさんあります。将来,皆さんが協力して成し遂げるあらゆることを目にするのを,待ち切れない思いです。ご清聴ありがとうございました。シェイシェイ」

 ミシェル・オバマは,1964年1月17日,イリノイ州生まれ。プリンストン大学およびハーバード・ロースクールを卒業後,シカゴの法律事務所に勤務。92年,同僚弁護士のバラク・オバマと結婚,2人の娘に恵まれる。2009年,夫の大統領就任に伴い,アフリカ系アメリカ人初のファーストレディとなる。大統領夫人としての活動でも高い評価を得ており,2012年の夫の大統領再選にも貢献したとされる。

看護師が海外研修を行う理由

 保護者懇談会では,なぜ海外へ行かなければならないのか,よき看護師になるのに海外研修は必要なのか,大学の軸がブレているのではないかという指摘もあった。ミシェル・オバマは,「異文化を肌で感じてこそ,固定観念や誤解を乗り越え,互いの歴史を学ぶことができる」と,他者を真に理解することの大切さを強調している。海外研修は,「つながりと多様性への温かいまなざし」を培う貴重な経験となることを確信した。

つづく

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