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第3101号 2014年11月17日


Medical Library 書評・新刊案内


こころを診る技術
精神科面接と初診時対応の基本

宮岡 等 著

《評 者》伊藤 絵美(洗足ストレスコーピング・サポートオフィス代表)

認知行動療法を実践する全ての臨床家に読んでほしい

 宮岡等先生著『こころを診る技術』の書評を依頼され,ちょうど本書を読みたいと考えていたところなので軽い気持ちで引き受けたが,コンパクトながら多面的な内容が凝縮された本書を一気に読了したところ,若干の戸惑いを覚えた。「なぜ私が依頼されたのか?」「どの立場の人間として,私はこの書評を書けばいいのか」。というのも,本書は副題が「精神科面接と初診時対応の基本」とあるように,明らかに精神科の臨床医に向けて書かれたものであるからである。評者は精神科医ではない。認知行動療法を専門とする民間カウンセリング機関を開業する臨床心理士である。本書には,昨今の「認知行動療法ブーム」に対する批判も複数書かれていた。

 ところが戸惑いながらあとがきを読んだところ,本書で最も感銘を受けることになる以下の文章に出会った。「最初は『どのようにすれば面接をうまく進めることができるか』についての工夫を中心に,本書を書こうと思っていた。しかし,書いているうちに,『どのような患者観をもっているか』『どのような患者-医者関係がよいと考えているのか』に関するきちんとした考えのないところに面接法は生まれないという,ごく当たり前のことを強く感じるようになった」(p. 206)。

 これは精神科医の診療のみならず,評者のような心理士の行う心理面接にも適用し得る重要な問いだと思う。治療法の選択以前の,その治療者の在り方を問う重要な問いである。「理念」と言い換えてもよいかもしれない。そして著者自身の理念は本文で提示された「shared decision making(SDM)」(意思決定の共有)という概念に集約されている。「SDMでは,医師と患者が話し合いながら治療方針を決定するため,患者の個人的な希望まで含まれる」(p. 116)とある。認知行動療法では,良好な「協同的問題解決チーム」として治療関係を構築するという理念があるが,SDMはそれとほぼ重なるものであると評者は理解した。そして本書はSDMを精神科の医療現場で実現するために,実際にどのような知識と技術が必要なのか,ということを具体的に示した教科書なのだと思い至った。

 それにしても本書の内容は,このように書くのはあまりにもせんえつ過ぎるが,それでも評者にとっては「あまりにも当然のこと」がほとんどだった。医学的な情報はさておき,治療の始め方と進め方,患者にどう説明するか,家族への対応,初診での情報の集め方,診察室の構造,時間の使い方,記録の取り方,などなど。それをわざわざこのように教科書化しなければならない現状に対する著者の深い危惧と,それを乗り越えなければという強い思いを感じた。そこではたと思い当たった。本書で批判された認知行動療法に対するいくつかの批判についてだが,それらの「認知行動療法」は,評者が本書について「あまりにも当然のこと」と思った「当然のこと」が行われていない,まずい「認知行動療法」なのではないかと。となると,むしろ本書は精神科の医師のみならず,認知行動療法を実践しようとする全ての臨床家に読んでもらいたい本である,ということになる。それが評者の結論である。

B6・頁232 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN 978-4-260-02020-6

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