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第3095号 2014年10月6日


【対談】

“2年目”の君へ
教えることこそ,一番の学び!
佐田 竜一氏(亀田総合病院総合内科部長代理/内科合同プログラム担当)
筒泉 貴彦氏(練馬光が丘病院総合診療科/内科レジデントプログラムディレクター)


 臨床研修中には,身につけなければならない知識やスキルが山積みです。それらをひたすら学んでいればよかった研修医1年目とは違い,2年目になると,後輩への“教育”がミッションに加わります。「自分が教えるなんてまだ早いよ」「教育って意識したことないなぁ」――そんな方も多いかもしれませんが,実は“教えること”に積極的に取り組むことで,さまざまなメリットがあるのです。今回は,そうした教育の重要性に早くから気付き,“教え方を教える”ことに情熱を傾け続ける2人の指導医による「教え方入門」をお届けします。


“教えること”に意識的な医師は,まだまだ少ない

筒泉 私が教育の重要性に開眼したのは,初期研修時に平岡栄治先生(現・東京ベイ・浦安市川医療センター総合内科)に師事して,米国式の医学教育の薫陶を受けたことがきっかけなんです。従来の“背中を見て覚えろ”ではない,きちんと言語化された教育のやり方があるのだと知り,平岡先生が学んだハワイ大の臨床研修プログラムに自分も留学,その過程を実体験するとともに,教育のエキスパートから方法論を学ぶ機会も得ました。今は,そうして得たことを日本でどう生かすか,試行錯誤しているところです。

佐田 私の場合は,後期研修先だった天理よろづ相談所病院がいわば日本における“卒後臨床教育のメッカ”で,そこで教育の重要性や楽しさに目覚めました。後期研修時代には「関西若手医師フェデレーション」という団体で他院との教育文化の共有を試みたり,今も卒後10年目前後の医師で作った「Galaxy」という団体で医学生向けの“出前授業”を企画したりと,所属施設の内外を問わず,自分や周囲の“教える力”を高める取り組みを続けています。  でも,活動していて思うのは,“教えること”について意識的な医師が,やはり日本にはまだ少ない,ということなんです。

筒泉 確かに,ACGME(卒後研修認定協議会)によって研修医教育の質が管理されている米国と比べると,教育への関心は高くはないですね。“生まれついての教え上手”だったり“教え好き”の医師が,施設・地域限定的に教育レベルを大幅に上げていたりするのですが,そうした才覚や関心のある人がいなければ,教育することの優先順位は,なかなか上がりにくい。

佐田 そうですよね。初めて指導的立場に立った2年目研修医でも,教えることが苦手,あるいはその重要性を認識していない人をよく見かけます。「どうしようか……」と一緒に困っているだけだったり,逆に自分の考えを押し付けているだけだったり。でも,研修医こそ“教える”ということにもっと積極的になってほしいです。教えることというのは,教わる側だけでなく,教える側にとっても大きく成長するチャンスなのですから。

教育力の向上=臨床力の向上

佐田 教えるということはまず,自分の知識の整理,深化に結びつきます。知識量なら誰にも負けないと思っていても,臨床現場で後輩に何か聞かれたとき,その知識をうまく整理して答え,理解してもらうのは意外と難しい。これは知識が体系立っていなかったり,そもそも理解が十分ではなかったりするからです。

筒泉 裏を返せば,自分の習熟度を高めるためには,「人に教える」ことが非常に有効,ということですね。

佐田 まさにそのとおりです。学習者の理解度は「RIMEモデル」と呼ばれる4段階で表現されますが,Reporter(報告できる),Interpreter(解釈できる),Manager(知識を行動に移せる), とレベルが上がり,一番上がEducator(教育できる)。つまり学習者が理解度を高めた先には,「教える」行為がつながるはずなのです。

 さらに,わかりやすく教えようとする努力は,コミュニケーションスキルの向上を促します。コミュニケーション能力が上がれば,患者さんとの良好な治療関係を作るのにも役立つでしょうし,一緒に働く他職種ともスムーズな関係を築け,マネジメントもしやすくなると思うのです。

筒泉 教育能力を向上させることで,臨床に必要な能力も総合的に向上させられる,というわけですね。

まずは“ともに学ぶ”意識で

佐田 いざ教える側に立ったとき,まず意識してほしいのは,教育は「指導」ではない,ということです。

 私自身,「指導医」と呼ばれることに違和感を覚えていて,心掛けているのは,自分が行くべきと思う方向へ,一方的に“指差し導く”のではなく,あくまで相手の習熟度に合わせてめざすべき方向を一緒に探していくこと。それこそが学び手を“教え育む”ことになる,と考えています。

 言わば,ただ教えることのみに着目する“Teacher”と,学習者と対話しながら学習者の能力に合わせて気付きを与えられる“Educator”の違いだと思います。

 簡単な例を言えば,何か聞かれたときに,「○○だと思うから,××しておいて」とすぐ正解を提供するのではなく「あなたはどう思うの?」と問い返せること,だと思います。そうすることでお互いの思考が整理できますし,ともに学ぶ,一緒に探すという立ち位置を明確にできます。

 そうして相手の考えを聞いた上で,自分に知識があれば「そこは確かに正しいけれど,一般的には△△もあるかも」と,その後にも応用できるかたちでアドバイスを行う。もし自分にも自信がないことならば「夕方までに正確なところを調べておくね」と断って,後でメールなどで情報を送るのも,もちろんよいと思います。

筒泉 私はそういうとき,ちょっと威厳を保ちたくて。緊急のことでなければ「いい質問だね! 自分でもちょっと調べてみて」と言って,自室に急いで帰って勉強し,数時間後,あたかも知っていたかのように振る舞ったりもします(笑)。でも,知識も経験もまだまだ足りない段階では,完璧な姿を見せようと取り繕いすぎないほうがいいですね。できること,できないことをきちんと把握しておくことは自分の成長の糧になりますし,うまくいかない姿を正直に見せることが,時にはよい教育になる場合もあります。

 当院の朝のカンファレンスでは,研修医だけでなく上級医にも発表の義務を課していて,普段は偉そうに座ってコメントをしている人が,発表では意外と緊張してミスもしますし,そこを研修医に突っ込まれたりする。あえてそういう機会を作ることで,「この人でもこんな失敗をするんだ」「私も気をつけよう」と,心に刻んでもらえたら,という狙いがあります。

“ちょっとお兄さん”目線で

筒泉 ただ,一緒に学ぶということを意識しすぎて,完全に同じ目線になってもいけないですね。米国ではよく,研修医1年目(インターン:Intern)から2年目(レジデント:Resident)に進むとき,食事会や講義の場が設けられるんですが,そこで忠告されるのが,「“レジターン(Resitern)”になるな」ということ。

佐田 レジターン,ですか。

筒泉 インターンとレジデントを合わせた造語で,レジデントとして本来するべき仕事を把握しきれていないため,インターンのときと同じように振る舞ってしまう医師のことを言います。そうではなく,これからは人を使う立場になること,その代わりに教育をする責任が生じることを理解して,少し上のほうから,時には助け,時には突き放し,教え教えられるような,絶妙なバランスを作り上げなさい,と教えられるんです。

佐田 なるほど。天理よろづ相談所病院にも,亀田総合病院にも,言葉にせずともそういう雰囲気がありました。天理では毎年春から夏にかけて,2年目研修医が「採血のコツ」「看護師に指示を出すタイミング」といった基礎的なことから,感染症,救急での胸痛など一般的な病態学,症候学まで多岐にわたるテーマを1年目研修医にレクチャーする慣習がありましたし,現職の総合内科でも,外来研修前の初期・後期研修医に,より高年次の後期研修医がセミナーを開催しています。

 屋根瓦式の教育方式で,研修医たちが自分たちの学習サイクルを回していく。先輩研修医が後輩に愛着を持って接しつつ,その成長を病院や指導医任せにせず,自分自身もその一端を担っている自覚を持つ。そのためにはまず,病院や指導側が環境を整えていくことが重要ではないでしょうか。

筒泉 そうですね。ちょっと“お兄さん・お姉さん”目線で,下の人の成長を,自分事としてとらえることができる。そういう意識を育てる環境作りが各病院で求められているのかもしれません。

能動的な学びを引き出すには?

筒泉 教育する側がされる側に何を与えるべきか,わかりやすく示した標語として,「FAIR」というものがあります。F=Feedback(評価),A=Activity(積極性),I=Individualization(個別化),R=Relevance(妥当性)を意味し,例えば個々人の資質を考慮した目標やビジョンの設定(I),そのためにすべきことと理由の明示(R),目標の達成度合いのポジティブフィードバック(F)など,学習者が成長する上でおのおのの項目がとても重要ですが,中でも一番根本的かつ難しいのは,Activityを与えることではないか,と思うのです。

佐田 同感です。「どんどん教えてほしい」という意識はあるものの,あくまで口を開けて“餌”を待っているだけで,自分から聞こう,探そう,という意欲が若干足りない研修医が増えている気がしています。

筒泉 いわゆる“spoon feeding”ですね。

佐田 ええ。教える側としては「こんなことを学びたい」と言ってくれればできるだけ叶えてあげたいし,いつでも時間を作るつもりで待ち構えているんですけどね。

 そうしたpassive learningから,active learningに変えるための方策については私自身も試行錯誤中ですが,まずは“Do not blame, do not shame(非難しない,辱めない)”の意識を徹底させて,質問や相談をすることへのハードルを下げる。その次に,あえて“待つ”ことかなと思います。

 例えば,医師に最も必要とされるclinical judgmentの能力が試されるような場面があったら,すぐには助け舟を出さず,夕方まで,翌日までなど,患者さんの安全が保たれる範囲内で研修医がどういう選択をするか,じっと待つんです。そして,必ず医学的根拠を添えて,選択の結果を提示させる。

筒泉 忙しい臨床現場ではつい手や口を出してしまいがちですが,そこをぐっと我慢して待って,学びを引き出す。とても有効な手段だと思います。

 私も,研修医のプレゼンテーション中など,知識が定着しているか怪しいなと思ったら「それ,もう一度ちゃんと教えてくれる?」と聞くんです。案の定言葉に詰まってしまうのですが,そこであっさり教えるのでなく,「明日,教えてもらえたらうれしいよね」と皆で盛り立て,翌朝“5 minutes lecture”として発表してもらう。ただし恥をかかせないよう,内容は事前に必ずチェックしますし,発表後には「本当に勉強になったね」と,ポジティブな評価を忘れません。すると研修医自身にも成功体験が生まれて,次第に自分から学ぶことが苦ではなくなっていくと考えています。

佐田 知識のインプットに追われがちな中でも,ちょっと工夫をして,数分でも自主的に学べる時間を日ごろから取り入れられるとよいですよね。私も,自分のレクチャーの合間に研修医自身がレクチャーの一部を担当する時間を設けたりして,できるだけ彼らが「教えること」を体験し,能動的な学びにつなげられるようにしていましたね。

トライ&エラーの精神で,教育の楽しさを知って

佐田 でも実際のところ,教育はトライ&エラー。私もたくさん失敗しています。医師3年目から5年目ぐらいまでは,後輩に向かって「で?」と一言問いかけるだけでした。相手を追い詰めるかのように「で?」「で?」と問い続けて,何も出なくなったところで「俺はこう思うんだけど」と話し始めるようにしていたんですが,後々「先生の高圧的な態度には,本当に苦々しい思いでした」と言われたりして,今思うと本当に恥ずかしいです。

 指導医の人たちだって常に悩み,失敗しながら教育をしているはずです。ですから構えすぎず,教えることで自分の臨床力が鍛えられる,とポジティブにとらえて,教えることに積極的に臨んでほしいなと思います。最初はおそるおそるでも,次第に刺激や楽しさを感じたり,情熱を傾けたりできるようになって,間違いなく自分自身も伸びていくはずです。

筒泉 優秀な臨床医が1人いても,治療できる患者さんの数って限られていますが,優れた教育者が多くの優れた医師を育てることで,よりたくさんの患者さんを救うことができる。きちんと教えられることの好影響というのは計り知れないですし,何より自分が教えて人がどんどん育っていくのを見るのは,楽しいものです。

 教育は卒後10年経たないとできないとか,本を書かないとできないようなものではなくて,2年目から,ともすれば1年目からでもやってほしいことですし,できることだと思います。あまり臆病になりすぎず,傲慢になりすぎず,“少し上から”のバランスを意識して,ぜひチャレンジしてみてほしいですね。

(了)


佐田竜一氏
2003年阪市大医学部卒業後,佐久総合病院にて初期,後期研修。08年より天理よろづ相談所病院総合診療教育部後期研修を経て,10年より同院医員。13年9月より亀田総合病院に赴任,腫瘍内科部長代理,総合診療・感染症科部長代理を経て14年4月より現職。「教えることは,学習者を伸ばし,かつ自分を鍛錬する重要な行為です。Clinician-educatorの能力を磨くべく,Galaxyという出張講義活動をしています。興味のある方はsadametal@gmail.com(メールを送る際,@は小文字にしてご記入ください)までご連絡を!」

筒泉貴彦氏
2004年神戸大医学部卒,同大医学部附属病院にて初期研修。06年淀川キリスト教病院循環器内科フェロー,08年神戸大医学部附属病院総合診療部フェロー。09年より米国ハワイ大内科レジデントプログラムに留学。帰国後,12年より現職。「日米の医療を経験して感じたのは,さまざまな違いもある一方,医療という点で本質は一緒だということ。日本には他国の追随を許さないよい点がたくさんあります。足りないところを他国から学び,日本の医療を盛り上げていきましょう!」