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第3029号 2013年6月3日


Medical Library 書評・新刊案内


PT・OTのための
これで安心 コミュニケーション実践ガイド

山口 美和 著

《評 者》中山 孝(東京工科大教授・理学療法学/学科長)

時代が求めているテキスト

 「見事なコミュニケーション・テキストを書いてくれて,本当にありがとう」と,著者の山口美和氏に素直に伝えたい。私は著者と同じ専門学校に勤務していた時代,共に学生教育に悪戦苦闘した同僚教員として,著者がこの素晴らしい本を世に送り出したことへの称賛を惜しまない。

 本書は「コミュニケーション臨床応用学」と呼べるほど,首尾一貫した理念と体系に基づいて記述されている。理学療法・作業療法領域では,往々にして用語の定義があいまいな書籍が多いが,本書は登場する用語をまず明確に定義し,次に論点を展開して解説しているため,読者にとって非常に理解しやすく,著者のメッセージがダイレクトに伝わってくる。普段の何気ない会話の背景に存在する確固たる「コミュニケーション理論」が根底にあることを読者に気付かせてくれる。このような観点から眺めると,本書は科学的理論に裏打ちされた実践書といえる。

 一方で,本書には入学した学生が成長と共に遭遇すると予測されるコミュニケーション場面や具体例がふんだんに盛り込まれているため,臨場感にあふれ,読み進むにつれ読者をくぎ付けにする豊富な展開には目を見張るものがある。本書はいわゆる“How to本”とは異なり,コミュニケーションがTPO(時,場所,状況)によりダイナミックに変化し得ることを強調しながら,解決すべきは当事者にあることを論理的に説いている。そして著者は,コミュニケーションは「理論を並べ立て,その筋書き通りに事を運べばすべてめでたしである」という単純な解決法を提示するのではなく,実践・経験を通して自ら学ぶことが重要であると訴えている。さらに,自分だけで解決できないときには援助を求めることが決して間違いではなく,“自己肯定感”を高めるために必要なことであるとも述べている。本書に貫かれている著者の「学生への応援メッセージ」を随所で読み取ることができる。

 テキストとしての構成も魅力的である。“節”ごとに要約を設けて強調したいエッセンスをリフレインしていること,ポイントがチェック式になっていること,“Work”という名の読者が与えられた課題を実際に解いていくことなど,本書には学習者の技能が定着することを意識した知恵と工夫が施されているのも特筆すべき点である。さらに本書では,コミュニケーションの場に応じた優先順位が明確に示され,わかりやすくまとめられている。長い年月にわたり臨床指導者として,また教育者として,つぶさに学生の成長を支援してきた著者の力量がここに結実した。

 本書には,著者の「コミュニケーション」に対する幅広い知識と,これまでに携わってきた臨床・教育・研究場面での生きた経験を基にした深い洞察が凝縮されている。そして,学生への愛情,あらゆる人に対する温かいまなざしと博愛の精神に満ちた著者の人間性に触れることができる。正しい日本語の語法と場に応じた言葉遣いの達人が,コミュニケーションの重要性を伝えるために満を持して本書を世に送り出した。学生はもとより,複雑な人間関係,個別性の高い臨床現場の中で働く理学療法士・作業療法士のみならず,あらゆる関係者にぜひ一読していただきたい珠玉の1冊である。

B5・頁232 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01569-1


 その機能と臨床 第4版

信原 克哉 著

《評 者》工藤 慎太郎(国際医学技術専門学校・理学療法学)

肩の理学療法にかかわるすべての理学療法士のために

 2001年4月に第3版が出版されてから11年が過ぎ,医学書院から信原克哉先生の『肩 その機能と臨床』の第4版が出版された。1979年に初版が出版されて以降,30年余りが過ぎても,なお改訂版が求められていること,さらに第3版では英文版が出版され,英国医学会の優秀図書賞を受賞されていることから,その内容の奥深さは語るに及ばない。まさに「珠玉の名著 四たび!」である。

 第4版では,前版以降の10年余りの肩の外科にかかわる数多くの研究,特に投球障害や理学療法に関する研究を引用しながら,臨床・研究に新たな視点を与えてくれる。そこで,投球障害のリハビリテーションに従事する理学療法士の視点から僭越ながら論評させていただく。

 投球障害に対するリハビリテーションでは,選手の投球時の疼痛や不安定感などの症状の発現機序を明確にして,その症状の消失とパフォーマンスの改善をめざして,理学療法がプログラムされる。しかし,大きな可動性を持った球関節とその複合体を制御する多くの靭帯や筋の織りなす複雑な病態,さらには投球という約1.5秒の短い時間に行われる高速の全身運動を運動学・運動力学的に理解することは困難を極める。動作から機能障害や病態の仮説を立てることは,理学療法士のアイデンティティーである。そのため,投球障害に対するリハビリテーションにおいて,投球動作を分析し,病態との関係をとらえるのは,運動療法の第1歩である。しかし,観察による動作分析の習熟は,臨床において最初にぶつかる大きな壁となることが多く,投球動作においても同様である。この壁を乗り越えるには,投球動作の運動学・運動力学的な理解はもちろんだが,そういった分析を細かな病態のかかわりの中でとらえていくことが必要になる。

 本書には,バイオメカニクスの視点から投球障害を分析することの重要性を訴えながら,外科医として肩の治療を行ってきた著者ならではの投球動作の分析の歴史的背景から最新の知見,投球障害のさまざまな病態との関係が述べられている。

 読者には自身がこれまで担当した選手を思い返しながら「第9章 肩とスポーツ」を読んでいただきたい。そして,読み終えた後,今,難渋している選手のことを思い出してほしい。きっと何らかのブレイクスルーが得られることと思う。そして,このような内容は他の章にも随所に散りばめられている。

 評者自身も臨床2年目で,初めて信原先生の講演を聴いたときに,肩の治療を深く考えるきっかけになった。第4版は全ページ,フルカラーとなり,ページをめくるたびに現れる美しいイラストと,その重厚感は,当時の講演を思い返すのに十分すぎる迫力である。目の前で信原先生が,自分の考察に「それはショート(短絡的)だ」と言われている気がする。明日からの臨床に向き合うのが楽しみになった。

 肩の理学療法にかかわるすべての理学療法士が,本書の内容を理解して患者と向き合ったとき,その空間が笑顔であふれていることが想像できる,そんな一冊である。

A4・頁544 定価18,900円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01676-6


《脳とソシアル》
脳とアート
感覚と表現の脳科学

岩田 誠,河村 満 編

《評 者》宇高 不可思(住友病院副院長・神経内科学)

人とは,自由意志とは何か

 人は社会の中で生きており,それを担う脳は社会的存在でもある。脳の研究も個体の“生物脳”としての研究から“社会脳”の研究へと主流が移ってきた。岩田誠先生,河村満先生の編集になる医学書院の“脳とソシアル”シリーズは,このような潮流の中で“社会脳”をテーマとして扱った労作である。すでに刊行された3冊はいずれも医学の分野を超えた広範な領域の専門家によって執筆されており,一読するたびにその構成の巧みさと内容の面白さに感嘆したものである。第1弾の主題は“社会活動と脳”,第2弾は,“発達と脳”,第3弾は“ノンバーバル・コミュニケーションと脳”であった。

 今回新たに刊行された第4弾の主題は“脳とアート”である。“感覚と表現の脳科学”という副題に加え,帯には“脳はときどき嘘をつく”と意味ありげな言葉が書かれているが,読んでからのお楽しみとしよう。

 I章の序論“脳にとって芸術とは何か”において,芸術の起源,創造性の基礎,作業記憶の拡張,模倣と教育,芸術と宗教について,などが述べられ,続くII章とIII章の内容は,中心溝を境に後方より感覚情報が入力され,前方より運動情報が出力されるという脳の基本的構造に対応した,“感じる脳”と“表現する脳”に大別されている。II章の“感じる脳”では,脳と感性,色彩認知,絶対音感,香りの脳科学,味覚の脳科学と,視覚,聴覚,嗅覚,味覚に関する最新の研究成果が述べられ,最後に,これら五感を超越した,“バーチャルリアリティー”の脳科学が論じられている。III章の“表現する脳”では,アート教育,絵画と音楽の脳科学,遊びの脳科学についての章とともに,アートの決め手が脳のネットワークではないかとの論考や,芸術における時間の表現という難しい問題についての考察がされている。

 どの項目も読んでみると,文系と理系の視点は見事に融合され,“目から鱗”の感がある。私たちが何気なく暮らしている世界が人の脳という奇跡の賜物の複雑な働きによることを垣間見させてくれる。そして,人とは何か,自由意志とは何かという根源的な問題にまで想いをはせるのである。

 医学の効用は広範であり臨床分野にとどまらない。医療従事者はややもすれば日常の臨床業務に沈淪しがちであるが,最新の脳科学の目覚ましい成果にも目を向け視野を広げてみるべきことを痛感する。その意味で本書,ならびに本シリーズを,医師のみならず,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士など脳疾患の診療にかかわる専門家の方々,さらには,脳と心の有り様に興味を持つすべての人々にお勧めしたい。

A5・頁272 定価3,780円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01481-6


感染性腸炎 A to Z 第2版

大川 清孝,清水 誠治 編
中村 志郎,井谷 智尚,青木 哲哉 編集協力

《評 者》飯田 三雄(公立学校共済組合九州中央病院長)

感染性腸炎に関するすべての情報を包含した優れた実践書

 本書は,感染性腸炎に関するあらゆる知識・情報が特徴的な内視鏡像と共に解説されたアトラス的実践書である。4年前に発刊された初版が好評であったことから今回改訂版の出版に至ったわけであるが,初版で掲載された項目の改訂にとどまらず,疾患の項目数と症例数が大幅に増え,さらに充実した内容となっている。

 本書の編集を担当した大川清孝,清水誠治の両氏は,消化管,特に下部消化管疾患の診療ではわが国を代表するエキスパートである。両氏が主宰する「感染性腸炎の内視鏡像を勉強する会」という研究会で十分な時間をかけて検討された1例1例の症例が本書の骨子となっている。今回の改訂版では,この研究会で検討されなかった珍しい症例や疾患についても研究会メンバー以外の専門家によって執筆されており,まさに“A to Z”という表題にふさわしい感染性腸炎の実践書としてできあがっている。

 原因不明の難治性炎症性腸疾患(IBD)である潰瘍性大腸炎とCrohn病が近年急増しており,その診断過程においてしばしば感染性腸炎との鑑別が問題となる。特に,副腎皮質ホルモン,免疫調整剤,抗TNF-α抗体などの薬物治療が主体となる重症例や難治例では,感染性腸炎の除外診断は必須である。感染性腸炎をIBDと誤診すれば,誤った治療を選択することにつながり,病状の悪化を招くことになる。鑑別診断に際しては,糞便や生検組織の培養結果とともに内視鏡・生検所見が鍵を握る。すなわち,各種感染性腸炎に特徴的な内視鏡所見を知っているか否かが正しい診断への第一歩になると言っても過言ではない。このような観点からも,本書発刊の意義は極めて大きいと考える。

 本書は,感染性腸炎の総論に始まり,細菌感染症,ウイルス性感染症,クラミジア感染症,寄生虫感染症と原因別の各論が続いている。各論の大項目はさらに原因微生物ごとに36個の細項目に分けられ,それぞれ疫学,病原体,症状,診断,画像所見,治療についての要点の記述の後に症例提示がなされている。提示症例数は初版に24例を追加した64例に達するが,1症例ごとに見開き2ページの構成で,左ページに症例のプロフィール,右ページに内視鏡写真を含む画像が掲載されている。さらに,各症例には「本症例のポイント」と題した囲み記事の簡潔な説明があり,鑑別診断の要点を理解するのに役立つ。提示された多数の内視鏡像はいずれも美麗かつシャープな写真ばかりで,画像だけを見ていても何となく楽しい気分になる。すなわち,初版の序で編者らが述べているように,「本書は内視鏡からみた感染性腸炎の本」であると同時に一般的な感染性腸炎の知識も網羅した“A to Z”の名に恥じない内容となっている。

 最近の学会でしばしば主題のテーマとして取り上げられている「潰瘍性大腸炎に合併するサイトメガロウイルスなどの感染性腸炎の診断と取り扱い」についても,独立した項目で解説されている。また,わが国では極めてまれなウイップル病やイソスポーラ症の症例も提示されている。このように,本書は既知・最新の情報からまれな疾患まで感染性腸炎に関するすべての情報を包含した優れた実践書であり,初学者からベテランまでのすべての消化器内視鏡医にぜひお薦めしたい1冊と考える。

B5・頁296 定価8,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01642-1


血栓形成と凝固・線溶
治療に生かせる基礎医学

浦野 哲盟,後藤 信哉 著

《評 者》内山 真一郎(女子医大主任教授・神経内科学講座)

第一線で活躍する臨床医に

 本書は,血栓止血学の大家であり,凝固・線溶研究のエキスパートである浦野哲盟教授と,循環器内科のエースであり血小板研究のトップリーダーである後藤信哉教授の共同作業により執筆された名著である。

 血栓症は世界の死因の3割を占める人類最大の疾患であり,その予防と治療は人類に課せられた最大の課題であるといえる。本書の特徴は,血栓形成と血栓溶解の複雑で精緻なメカニズムが簡潔で明快に解説され,代表的な血栓性疾患と血液凝固検査のエッセンスがコンパクトにまとめられており,その後に臨床医が最も知りたい抗血栓療法と血栓溶解療法の実際が血栓止血学の理論に基づいて整然と述べられていることである。

 全体のスタイルが統一されているので読みやすく,コラム一覧には貴重なテークホームメッセージが散りばめられており,読者にとってはありがたいコーナーである。最後の章は「身体はどのように凝固・線溶系を調節しているか」というタイトルが付けられており,察するに浦野教授が血液生理学者として読者に最も伝えたかったメッセージが込められているようで,著者の思い入れが感じられた。また,血栓症治療の各章は,第一線でEBMの構築に日々活躍されている後藤教授が担当されており,最新のエビデンスが紹介されている。

 これまでに出版された血栓止血学の著書は難解で分厚く,簡単に手に取りにくい印象を与えがちなものが多かった。一方,抗血栓薬の解説本は逆に血栓止血学に裏打ちされた理論的根拠が十分に解説されておらず,浅薄な印象を与えるものが多かった。従来のそれらの著書に比べると,本書はコンパクトで気楽に手に取れるサイズであり,手ごろなページ数にまとめられているが,血栓止血学の予備知識を得た上で,血栓症治療の実際に着手できるように編集されているので,知識の整理や日常診療に極めて有用であり,医学生,看護学生,研修医,コメディカル,一般診療医と幅広い読者に自信を持ってお勧めできる良書である。

 著者が序文で述べているように,抗血栓薬の開発の進歩は著しく,従来のアスピリン,ヘパリン,ワルファリンの時代から大きなパラダイムシフトが起こりつつある。最新の医療を患者に提供する立場にあり,第一線で活躍されている臨床医の先生方には,特に有用な著書であるといえる。

A5変型・頁232 定価5,250円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp

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