医学界新聞

連載

2013.04.22

なかなか教えてもらえない
看護研究発表の「キホン」と「コツ」!

【第7回】
聞いてもらうための口演発表
「伝わるプレゼンテーション」への近道とは

新美 三由紀(佐久総合病院看護部)


3020号よりつづく

 この連載では,みなさんに「研究発表してみたいな」とか「もっと研究発表してもいいかな」と少しでも思ってもらえるように,研究発表のキホンとコツをギュッと凝縮してすぐに使えるノウハウを解説します。


 私には,プレゼンテーション(以下,プレゼン)の“師”と仰ぐ方が3人います。2人は講義や研究発表のようなプレゼンの師で,もう1人はナラティブ(語り)のようなプレゼンの師です。

 「伝わるプレゼン」への近道は,自分が「思わず聞いてしまう」プレゼンを行う“師”を見つけ,そうなりたいと思い,そして倣う(まねる)ことです。しかし,それだけでは紙面が余ってしまいますから,今回は私が倣った,あるいは“師”から教えてもらったポイントをお教えしましょう。

聞かせる口演発表の5つのポイント

 “師”に学んだ研究発表のポイントは5つです。意識すれば,簡単に直せる順に挙げてみました。

1)姿勢
2)表情
3)視線
4)声のトーン・スピード
5)語尾

 講義や講演,会議や面接等でも共通するところはありますが,異なる点もあります。ここでは研究発表に限って解説します。

1)姿勢:背筋を伸ばして聴衆を見ましょう

 看護師の研究発表で,発表態度が悪い人はほとんど見かけませんが,うつむいてばかりやスクリーンに向かってプレゼンしている人は見かけますね。研究発表の“お客さん”は目の前の聴衆ですから,発表前・中・後のせめて3回は,意識的に背筋を伸ばして聴衆を見ましょう。

2)表情:“怖い”顔をしないで

 人は緊張すると顔がこわばり,表情がなくなります。私たちはおもしろいプレゼンを聞くと,自然とその人の顔を見ますよね。でも,そのときにこわばった“怖い”顔をしていたらどうでしょう。せっかくよい内容だったとしても,印象は悪くなってしまいます。

 看護師の皆さんは顔のこわばりを緩める方法を既に知っているのではないでしょうか。例えば,患者さんの笑顔を思い出してください。それでもダメなら,軽く「い~っ」って言ってみましょう。その表情のまま壇上に立ち,プレゼンが終わるまでキープしましょう。きっと見ている人からは「余裕だったね」と言われるのではないでしょうか。本当は緊張していてもいい,微笑は他人にも自分にも余裕があるように思わせるテクニックなのですから。

3)視線:3人の味方を見つけよう

 プレゼンをするときは,ウンウンとうなずいて聞いてくれる人を会場で3人見つけましょう。できれば,会場の前後左右,離れた場所で見つけるとよいです。プレゼンの最中,三角形を描くように3人を順番に見て,話しかけるようにプレゼンするのです。

 人は,自分を肯定してくれる味方を見つけると,気持ちよく,滑らかに,リラックスして話すことができます。話しかけるように話せば,棒読みもなくなりますし,自然に相手が理解できるはっきりした話し方となり,会場とのコミュニケーションが生まれます。

 また,離れた場所の3人を順に見ていれば,結果的に会場全体を見ることになります。発表者に会場全体を見るゆとりがある(ように思わせる)と,他の聴衆も反応を返すようになり,正の連鎖が生まれます。

 私はこのコツを師に教わってから,ずっと実践しています。最初はなかなか3人も見つけられなかったのですが,2人でもいい,知っている人でもいい……と気楽に思うようにしたらできるようになりました。また,この効用は素晴らしく,緊張しているときも,会場の味方が「ここから見てるよ,安心して!」と私を落ち着かせてくれますし,会場が大きくなったとき,暗くなったときも,うなずきだけは不思議と演台から見えるのです。

4)声:トーンとスピードを意識的に落としましょう

 あなたはプレゼンのとき,「アルプスの少女ハイジ」に登場するロッテンマイヤーさんのように,知らず知らずのうちに高音・早口になっていませんか。

 私もそうですが,特に女性は緊張したり感情が高ぶると高い声で早口になってしまうようです。高い声がずっと続くと,聞いているほうは疲れます。会場を盛り上げたい発表会や講演会の場合,意識的に声の強弱やスピードに変化をつけるのは良いのですが,研究発表は得られたデータと結論を正確に伝えることが目的なので,ある程度冷静に伝えたいものです。そのためには,意識的に声のトーンを下げ,ゆっくり淡々と話す必要があります。低音で若干抑揚を少なくすると落ち着いた印象を持たれ,聞き取りやすく感じます。また,最後の結論で意識的に声のトーンを上げると,聴衆には結論の部分が印象に残りやすくなります。なかなか難しいかもしれませんが,普段のミーティングや申し送りのときから,こっそり練習してみましょう。

 なお,これはあくまで「5-10分程度の研究発表の場合」であり,普段から日常的に申し送りをしている看護師に対するアドバイスです。講演や講義等では,あえて抑揚を付けたり,時にはジェスチャーも交えて表現豊かにプレゼンすることが必要になることもあります。

5)語尾:文章は短く,語尾ははっきりと

 自分ではあまり気付かなくても,他人が話すのを聞くと気になるのが語尾や場つなぎ音(不要な間投詞)です。語尾がすべてを決めるという人もいるくらいです。最近の若い女性は語尾や助詞を,「ですぅ~」「ですがぁ~」「でぇ~」のように伸ばす傾向があり,耳障りという厳しいコメントを聞くこともあります。

 一方,うまく話せたかなと思った自分のプレゼンでも,録音を聞くと耳障りな言葉を使っていることに気付くことがあるのではないでしょうか。例えば,「と思いますが……」「なのですが……」のように語尾が消えていくもの。「でしょうか?」のような疑問形の語尾が続くもの。そして最も多いのが「え~と……」「あの……」といった場つなぎ音です。これらを完全に直すのはとても大変です。

 私はかつて,勉強のためにと自分の講演の録画を見たことがありますが,かえって逆効果でした。気付いたから直せるものでもなく,語尾や場つなぎ音が気になって逆に話せなくなってしまったのです。小さなひと言すら気になり始めました。そうなると,内容よりも「話し方」というテクニックにとらわれ,一番大切な「何を伝えたいか」がおろそかになりました。私たちはアナウンサーではないので,上手なプレゼンを極める必要はありません。最も大切な,「聴衆に伝える」ことを実現するために一番効果的だったのは,実は「一文を短くする」ことでした。

 一文を短くすると,一気に話せますから,最後まできちんとはっきり言い切る癖ができました。接続詞でダラダラと文章をつなげたプレゼン原稿を書かなくなり,文と文の間では息継ぎをしたり,次の文を思い出したりできますから,当然助詞や語尾を伸ばすことも減ります。一瞬忘れて空白ができたとしても,それは意識的に作った「間」のように感じられます。また聴く立場からも,短い文章のほうが理解しやすいのは明らかです。副産物として,「キレのある賢い話し方」も手に入れられるでしょう。

 そもそも看護研究を含む臨床研究とは,人を対象として,人の健康と福祉を理解し,人の健康と福祉を改善させることを目的に計画し,「他の人にも有用である普遍的な知識」を得ることです。残念ながら,研究発表には数分しかもらえないのですが,「研究結果は人に伝えてこそ意味がある」ということを意識して,プレゼンに臨んでください。

口演発表で陥りやすい点とワンポイントアドバイス

(1)緊張して,どうしても聴衆を見ることができない。
(2)壇上に立つ前から,足はガクガク,手もブルブル,声も震える。
(3)どうしても高い声・速いスピードで話してしまう。
(4)患者の声をそのまま伝えたいので,なかなか文章を短くできない。
(5)やめようと思っていても,どうしても場つなぎ音(不要な間投詞)を言ってしまう。


チェックが付いたときの対処
(1)先輩や同僚に,会場の右側と左側に分かれて座ってもらい,発表開始前,途中,最後の3回,大きくうなずきながら笑いかけてもらいましょう。そこを見ればよいのです!
(2)足は聴衆から見えないから大丈夫。手はポインタを持つとさらに震えるので,ポインタを使わないプレゼンを準備しましょう。声は本人が思うほど,他人にはわかりませんから,安心してください。
(3)文章と文章の間をしっかりあけて話してみてください。また,「対象と方法です」「結果です」「結論です」のような短いフレーズを発表原稿に入れ,この3つだけはこのまま,かみしめるようにゆっくり話してみてください。他の部分も多少ゆっくり話せるようになると思います。
(4)本当に患者さんが,そんなに長い文章で話したのか,もう一度見直しましょう。通常の会話では,それほど長い文章は話していないはずです。曖昧な語尾の文をくっつけて一文にしていませんか?
(5)場つなぎ音は緊張が原因ではありません。むしろ,話す内容が固まっていないまま話し始めていたり,普段使わない言葉で話そうとしたり,あれもこれも話さなくてはという思い込み,沈黙への恐怖などが原因と言われています。文章を短く切り,話したい内容を強く意識すると減るそうです。急には直せないので気楽に臨みましょう。

つづく

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