「最近,体重が減ってしまって……」(前野哲博,服部一哉)
連載
2012.07.09
外来診療
次の一手
【第4回】「最近,体重が減ってしまって……」
前野哲博(筑波大学附属病院 総合診療科教授)=監修
服部一哉(筑波大学附属病院 総合診療科)=執筆
(2981号よりつづく)
本連載では,「情報を集めながら考える」外来特有の思考ロジックを体験してもらうため,病歴のオープニングに当たる短い情報のみを提示します。限られた情報からどこまで診断に迫れるか,そして最も効率的な「次の一手」は何か,ぜひ皆さんも考えてみてください。
【症例】Bさん 30歳女性,少しやせ気味Bさん「ここ最近,体重が減ってしまって……。」
バイタルサイン:体温37.0℃,血圧140/66 mmHg,脈拍110回/分(整),呼吸数12回/分,身長160 cm,体重45 kg。 ⇒次の一手は? |
■読み取る
この病歴から言えることは?
体重減少を主訴に受診した30歳女性。患者が体重減少を訴えた場合,「どの程度の体重減少」が,「どのくらいの期間」でみられたのかをまず具体的に確認したい。体重をいつも測っているとは限らないので,衣服のサイズの変化から体重減少に気付くこともあるのは知っておきたい。
体重減少の原因として最も多く,また見逃せないのは悪性腫瘍である。ただし,症例は若年者であり,悪性腫瘍は可能性が低いだろう。しかし,悪性リンパ腫は若年者にもみられることがあるので,鑑別診断には必ず挙げておきたい。また,極端なやせがあれば摂食障害も鑑別に挙がる。バイタルサインでは頻脈があり,これにも注目したい。
■考える
鑑別診断:「本命」と「対抗」に何を挙げる?
「本命」は甲状腺機能亢進症。若年女性であり,頻脈を伴っていることから甲状腺機能はみておきたい。「対抗」には摂食障害を挙げる。若年女性の場合,体重減少を主訴としないこともあるが,無理なダイエットなどはないかを確認する。このためには問診が最も有用である。
そして,悪性腫瘍を「大穴」としたい。体重減少を来しやすい悪性腫瘍の臓器として,消化管,肺,膵が代表的であるが,この症例では年齢から可能性は低いと思われる。
■作戦
ズバッと診断に迫るために,次の一手は?
「食事の量は変わっていませんか?」
食事量が変わらない,あるいは増えているのに意図せず体重減少がみられる場合は,若年者であれば代謝内分泌疾患,特に甲状腺機能亢進症や糖尿病を第一に考える。食事摂取量が低下しているならば,体重が減るのはその結果であり,"食欲の低下の原因"="体重減少の原因"と考えて原因を探しにいかなければならないだろう。原因は多岐にわたり,悪性腫瘍は代表的であるが,消化性潰瘍,炎症性腸疾患などの消化器疾患も鑑別したいので,下痢や腹痛がないかを確認しよう。器質的原因のみならず,精神状態の評価(抑うつはないか,ボディイメージの障害,やせ願望はないか),物質乱用(薬物,アルコール)も忘れずに評価したいところである。
その後
患者に食事の量について尋ねたところ,食欲低下はなく,むしろ食事量は増えているとのことだった。診察では甲状腺腫大を認め,血液検査の結果,TSHが著明に低値,FT4高値,TRAb陽性であった。バセドウ病と診断し,抗甲状腺薬による治療を開始した。
■POINT
意図せぬ体重減少では,食事がとれているのかをまず確認!
(つづく)
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