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第2837号 2009年7月6日


レジデントのための
Evidence Based Clinical Practice

【7回】血小板減少がみられた患者へのアプローチ

谷口俊文
(ワシントン大学感染症フェロー)


前回よりつづく

 救急外来でみられる血小板減少と入院中の患者でみる血小板減少では,鑑別が異なります。ここでは主に,入院患者での血小板減少症を中心に症例を見ていくこととします。

■Case

 72歳の女性。深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis:DVT)のためヘパリンの持続点滴にて治療中。入院第4日目には肺炎を併発し院内肺炎のためにバンコマイシンとセフェピムにて治療が開始された。300万あった血小板数が徐々に低下し,第7日目には8万/μLまで低下していた。白血球数は12000/μLでヘモグロビンは10.6g/dL。その他,腎機能,肝機能などは正常範囲内である。

Clinical Discussion

 入院時に正常値を示していた血小板数が徐々に低下してきた。このような血小板減少に対するアプローチはどのようにすべきか。また,どのような緊急性があるのだろうか。血液疾患の鑑別診断も重要だが,ここでは,普段から何気なく投与している「薬剤」が原因となるかもしれない血小板減少に焦点をあてる。

マネジメントの基本

 まずは血小板減少をみたときの基本的なワークアップからみていこう。図を参照していただきたい。基本は血算と血液塗抹標本を確認するところから始まる。これにより血小板の産生が落ちているのか,破壊が亢進しているのかの目安をつける。

 血小板減少の基本的なワークアップ

 産生が落ちている場合には骨髄生検が必要な症例が多い。破壊が亢進している場合は免疫性か非免疫性かに区別される。
・免疫性……1次性:特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura:ITP)など。2次性:感染症(HIV,C型肝炎など),膠原病(SLEなど),リンパ球増殖性疾患(CLL,リンパ腫),薬剤性など。
・非免疫性……播種性血管内凝固症候群(Disseminated Intravascular Coagulation:DIC),溶血性尿毒症症候群(Hemolytic-Uremic Syndrome:HUS),血栓性血小板減少性紫斑病(Thrombotic Thrombocytopenic Purpura:TTP),発作性夜間血色素尿症(Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria:PNH)など。

 そのほかには血小板の分布・貯留異常(splenic sequestrationなど脾機能亢進でみられる),低体温などの原因もあるが詳細は各自参照していただきたい。

ヘパリン起因性血小板減少症(Heparin-Induced Thrombocytopenia:HIT)

 DVTの予防にヘパリンの皮下注射があまり使用されない日本ではその正確な頻度は不明であるが,ヘパリンロックなども含めてヘパリンの投与中の患者に血小板減少をみたらまずはHITを考える。診断が遅れ適切な対応を取れないと重大な合併症を来すからである。

 HITはI型とII型に分類される。I型はヘパリンの直接的な影響により投与開始後1-4日後に血小板減少がみられるが,10万/μL以下になることはあまりなく,そのまま継続してヘパリンを投与し続けて観察する。問題はII型で,こちらはヘパリンとPlatelet Factor-4(PF4)に対する抗体が産生されることで血小板減少が起こる。診断はこのPF4に対する抗体(抗ヘパリンPF4複合体抗体)のELISA法による検出である。疑いが強い場合には繰り返す必要もある(血小板凝集能測定による診断もある)。II型HITはヘパリン開始後5-10日程度で発症するが,以前にヘパリン投与を受けたことがあり,この抗体を持っている患者は,もっと早く発症することがある。血小板数は2万/μL以下になることはまれだが,II型HITの最大の問題は動静脈血栓症である。

 HITの血栓症の発生率は30-50%と言われており,ヘパリンを中止して血小板数が元に戻っても血栓症の発生率は高い。それゆえ,II型HITのマネジメントはこの血栓症の予防が中心となる。まずはヘパリンの中止,その次に抗凝固。低分子ヘパリンもHITを来すのでII型HITの治療には使用できない。アルガトロバンの2μg/kg/分を持続静注にて治療開始する。本邦では使用できないが,海外ではビバリルジン(Bivalirudin)やレピルジン(Lepirudin)などのヒルジンを使用することもある。ワルファリンを最初から使用することは皮膚壊死を起こすので禁忌だが,アルガトロバンでの治療開始後,血小板数が元に戻るか,15万/μL以上になったらワルファリンを併用する形で開始する(少なくとも5日間は併用する)。血栓症がなかった場合は少なくとも4週間は抗凝固する。血栓症が見つかった場合には3-6か月間抗凝固を行う。抗凝固の期間に関しては多少のデータはあるが明確なエビデンスはない。

その他の薬剤起因性血小板減少症(Drug-Induced Thrombocytopenia)

 ヘパリン以外にも血小板減少を起こす薬剤はたくさんある。表は代表的な薬剤をまとめたものである。Georgeらは血小板減少を起こす薬剤をまとめ(Ann Intern Med. 1998;129(11):886-890.[PMID:9867731]),その後もアップデートしている。血小板減少を起こすと思われる薬剤をまとめたウェブサイトは参照する価値はあるだろう。

 血小板減少を起こす代表的な薬剤(文献(2)を改変)
薬剤分類 薬剤と血小板減少の関係が5回以上レポートされている その他の薬剤
ヘパリン製剤 未分画ヘパリン,低分子ヘパリン  
キナアルカロイド キニン,キニジン  
抗リウマチ薬 金製剤 D-ペニシラミン
抗菌薬 リネゾリド,リファンピシン,サルファ製剤,バンコマイシン  
鎮静薬・抗痙攣薬 カルバマゼピン,フェニトイン,バルプロ酸 ジアゼパム
抗ヒスタミン剤 シメチジン  
鎮痛薬 アセトアミノフェン,ジクロフェナク,ナプロキセン  
利尿薬 クロロチアジド ヒドロクロロチアジド
化学療法薬剤と免疫抑制剤 フルダラビン,オキサリプラチン  

 ほとんどの場合,原因となる薬剤の投与を中止することにより血小板も回復傾向を示す。臨床ではITPなどの鑑別も重要だが,こうした身近な薬剤などが血小板減少の原因になることを忘れてはならない。

診療のポイント

・血小板減少をみたらまずは血算,血液塗抹標本を確認。
・患者に投与されている薬剤を再確認し,血小板減少の原因になっていないか考える。
・ヘパリン起因性血小板減少症ならばすぐにヘパリン製剤を中止し,アルガトロバンにて抗凝固を開始,DVTのスクリーニングを行う。

この症例に対するアプローチ

 まずは血液塗抹標本を見たところ,ほぼ正常であった。血算も若干の貧血があるものの,大きな変化はなく,薬剤性の血小板減少症が疑われた。抗ヘパリンPF4複合体抗体を確認したところ,陰性であった。抗菌薬のバンコマイシンが疑われたため,バンコマイシンを中止。その後,血小板数は徐々に増加し,元の血小板数まで戻った。そのためバンコマイシン起因性血小板減少症と診断した。

 これが抗ヘパリンPF4抗体が陽性ならばヘパリンを中止し,アルガトロバンをすぐに開始する。もしこの患者にDVTがなければ,DVTのスクリーニング検査を行う(抗凝固の期間を決め,他の合併症を調べるため)。この症例では既にDVTの治療中であったので,最低3か月間の治療を行う(DVTの原因次第ではそれ以上にもなる)。血小板数が15万/μL以上となるのと同時にワルファリンを開始して,INRのターゲットを2-3として治療する。

Further Reading

 入院中の患者を管理する際に知っておくべき血小板減少の原因に関しては,以下2つの代表的な論文を読んでおくのがよいだろう。

(1)Arepally GM, Ortel TL. Clinical practice. Heparin-induced thrombocytopenia. N Engl J Med. 2006;355(8):809-817. [PMID: 16928996]
(2)Aster RH, Bougie DW. Drug-induced immune thrombocytopenia. N Engl J Med. 2007;357(6):580-587. [PMID: 17687133]

つづく

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