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第2831号 2009年5月25日


腫瘍外科医・あしの院長の
地域とともに歩む医療

〔 第8回 〕
在宅ホスピスケア(2)

蘆野吉和(十和田市立中央病院長)

腫瘍外科医として看護・介護と連携しながら20年にわたり在宅ホスピスを手がけてきた異色の病院長が綴る,
「がん医療」「緩和ケア」「医療を軸に地域をつくる試み」


前回よりつづく

 在宅ホスピスケアでは,地域の医療チームと介護チームによる適切な医療支援と介護支援が必要となりますが,医療チームによる医療支援では,身体的苦痛をできるだけ緩和することが最重要課題となります。

 現時点で緩和できる症状は,痛み,腹水や腸閉塞による腹部膨満感や嘔気・嘔吐,呼吸困難,腫瘍熱による発熱などですが,少なくともこれらの症状が緩和されれば療養の場がどこであっても比較的楽に生きることができるようです。そして,自宅で症状緩和治療を行うことは,実はそれほど難しいことではありません。これまで自宅で行ってきた症状緩和治療は,頻度の高い順に,疼痛治療,輸液や注射薬の投与(中心静脈経由あるいは持続皮下注入),腹水排液,創処置,胸水排液,酸素投与などで,使用する薬剤は鎮痛剤(NSAIDs,オピオイド),鎮痛補助薬,ステロイド,オクトレオチド,ハロペリドールなど数種類です。

在宅における治療法の多くは現場の試行錯誤から生まれた

 約20年前に在宅ホスピスケアを始めたころは,在宅での治療法についての解説書などはまったくなかったので,治療法の多くは現場で試行錯誤しながら工夫を重ねてきました。工夫の要点は,簡便であること,治療により日常活動ができるだけ制限されないこと,介護者(家族)が容易に管理できること,トラブルが少ないことなどです。具体的な工夫の例を挙げると,モルヒネなどの注射薬はできるだけ携帯用自動輸液ポンプ,インフューザーポンプなどを使い,中心静脈輸液では1988年より携帯用自動輸液ポンプを,1990年より皮下埋め込み式ポートを利用,腹水排液は腹腔内にチューブを留置して持続排液にし,数日かけて排液を続けることなどです。今では常識となっていますが,当時としては新鮮なアイデアでした。

現場から学んだ症状緩和治療

 症状緩和治療においても在宅の現場から多くのことを学びました。一般に,自宅だと苦痛は軽度になります。住み慣れた環境と家族の存在は有効な症状緩和治療の一つです。痛みも同様に比較的容易にコントロールできますが,レスキュー薬の配備常備と経口薬が飲めなくなったときの迅速な対応が重要です。輸液を行わないことや輸液量を少なくすることが終末期の呼吸困難や喘鳴および浮腫の軽減につながることも在宅の現場から学びました。

 また,苦痛をとるために必要な薬剤はそれほど多くないこともわかりました。病院ではさまざまな薬剤を簡単に使用できることが,むしろ症状緩和治療を複雑にしている可能性があります。そして,症状緩和治療における在宅でのさまざまな工夫や経験を一般病棟での緩和治療に導入することで,病院の緩和治療の質が向上することがわかりました。

 さらに,有能な訪問看護師の存在が在宅ホスピスケアにおける症状緩和治療のキーポイントであることも確認できました。医師の適切な事前指示があれば,訪問看護師はその指示に従い,現場においてその能力を十分発揮できるものと私は考えています。したがって,今後の在宅ホスピスケアの普及において,訪問看護師の教育は最重要課題の一つと位置付けています。また,病院でも同様に,看護師の緩和ケア教育が緩和ケア普及の鍵であると確信しています。

 現在,残念ながら,病院での症状緩和治療が適切に行われていないために,自宅に戻れない人が多いのが現状ですが,「がん対策基本法」では,終末期緩和ケアを病院だけでなく地域全体で行う体制づくりをめざしています。このためにも,病院での症状緩和はできるだけ短期間で行うこと,自宅でも実施できる簡便な方法で治療を行うことが大切です。そして,この症状緩和治療の知識と技能を地域全体で共有できるよう情報を発信することが,各病院の緩和ケアチームの今後の大きな役割になるものと考えます。

つづく

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