格差社会の不健康(6)
連載
2008.08.11
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第133回
格差社会の不健康(6)
李 啓充 医師/作家(在ボストン)ここまでいくつか代表的なデータを示してきたが,「社会経済的格差が健康の不平等を引き起こす」ことを示すエビデンスは文字どおり枚挙に暇がなく,いまや,「格差症候群」が国や時代の違いを超えた普遍的現象であることに疑念を差し挟む余地はない。疑念の余地がないどころか,最近は,「ではどうしたら社会経済的格差に基づく健康の不平等を防ぐことができるのか」ということが,WHOや西欧諸国では,「政策」目標として掲げられるまでになっている。
例えば,WHOは,「格差症候群(status syndrome)」の名付け親,マイケル・マーモットを長として,2006年に「健康の社会的決定要因に関する委員会」を組織したし,西欧諸国の中でも,英国は,特に熱心に格差症候群対策に力を入れている。もっとも,英国が他の西欧諸国よりも熱心に取り組んでいる理由は,決して他国よりも博愛精神が強いことにあるのではなく,前回も述べたように,サッチャー政権以後格差が急拡大,他国に比べて「問題が大きい」からに他ならない(前回も示したように,日本は,格差対策に躍起になっている英国よりも格差の度合いがはるかに大きいだけでなく,最近は,サッチャー時代に匹敵するようなスピードで格差が進行しているだけに,その無策ぶりが際立つ)。
「アチェソン報告」と税制改革
さて,この英国で,格差症候群対策の基本となっているのが,ブレア政権の下で設置された「健康の不平等に関する特別委員会」報告である。この報告は,同委員会の議長を務めたドナルド・アチェソン医師の名を取り,「アチェソン報告」と通称されるが,健康の不平等を改善・防止するための,39項目からなる政策を提言している。同報告の根幹をなす精神をひと言で言うならば,「健康の不平等を減ずるためには,社会全体の不平等を減じなければならない」というこ...
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