ダイセンジガケダラナヨサ
連載
2007.10.08
名郷直樹の研修センター長日記 |
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ダイセンジガケダラナヨサ
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(前回2747号)
●月×日
やり直せるうちは何度でも,といいつつ,またか。まただ。相変わらずの繰り返しである。いったい何度出直せば気がすむのか。まったく同じ繰り返しなんてありえない,どこかが変わってちゃんと進んでいるのだという人もいるけど。確かにそうかもしれないが,進んでいる気がしない。年取っているだけ。それでいいといえばいいんだけど。年を取るのはすてきなことだと。46歳,なんて中途半端なんだ。四十にして惑わず。そんなわけはない。いまだ青春時代,道に迷っているばかり,である。
書いていて,余計にいらいらする。何一つ書きたいことではないからだ。特に具体的なことに関しては。具体的なことは,何一つ書きたくない時がある。今日はそんな時。高校時代の同級生が言った。苦しみはいつも具体的だが,喜びはいつも抽象的なのだ。だから,今日は具体的なことは何も書かない。
ダイセンジガケダラナヨサ
ダイセンジガケダラナヨサ
ダイセンジガケダラナヨサ
私は無神論者で,特定の宗教に信仰を持っていない。でも祈ることはある。さみしい時のおまじない。いつだってこう3回唱えれば,少しはすっきりする。くだらないことには沈黙あるのみ。がたがた言うのはやめよう。それこそくだらない。大事なものでさえ,いつかはさよならするのだ。くだらないものには,その場でさよなら。それでいいじゃないか。もうひとつの呪文を唱えてみる。
サルアモエトタノシラアニナハ
サルアモエトタノシラアニナハ
サルアモエトタノシラアニナハ
唐突だけど,生きるというのは,約束の中で生きるということだ。ほうっておくと殺し合いになる。しかしそんな甘いもんじゃない。殺し合いにならないように約束を決めたって,そのうちに殺し合いの約束が決められたりする。テロとの戦い,なんていうけど,どっちがテロか,なかなか判断は難しい。だいたい一神教を主張する宗教が2つ以上あるんだから。そんなの一度信じるのをやめてみたらどうか。そんなことを言いたくなる。
でも日々の暮らしだって,一神教の影が忍び寄る。そんな約束の毎日。環境問題なんて,誰が言い出したのか。ごみの分別なんて,いったい誰が考え出した約束か。まったくふざけている。人類が滅びれば,全部解決するじゃないか。それなのに人類の滅亡を防ぐために環境問題があるという人もいる。こんなわけのわからないことを言って平気な人たちばかりというのは,たぶん優れたものほど滅びるようにできているのだ。
優れたものほど滅ぶのだ。ダーウィンは間違っていた。適者生存,というが,生き残ったものを適者と考えたということだ。死滅したもののことなど誰にもわからない。生き延びたのはいいが,これこそ一番くだらないことではないのか。間違いは一回でいい,何度繰り返すつもりなのか。
生きるというのはまったくくだらないことだ。これがたいしたことだとすると,とても耐えられない。くだらないというしかない。人生は生きるに値しない。生まれてこなければよかった。そんなくだらないことを考えるのも,やっぱり生きるということが,いかにくだらないかの証である。
「人生は苦しんで生きる値打ちがある」
かつてそんなふうに言った詩人がいた。自分もそう思っていた。でもそんなこと言っているから争いが起こるのだ。いっそのこと次のように言ってくれれば,その方がすっきりする。
「出産とはただの生理現象であり,屁と同じである。人は屁のように生まれてくるのである」
屁のように生まれ,屁のように消え行くのだ。最高である。
喜びも,悲しみも,すべて生理現象なのだ。そう思うと,なんだか少しすっきりする。今のこの怒りも,生理現象に過ぎないのだから。そしてこの怒りを抑えようとするものも,また生理現象に過ぎないのだ。日記を書く,これも当然生理現象だ。人の悪口を言う,これも生理現象。生きたいと言う,死にたいと言う,これもそうだ。
すべて生理現象,そんなふうに言うと,人間と動物も一緒だ,そういうことになるかもしれない。しかしそんなことを言いたいわけじゃない。人間的なこととは何か,そんなことから疑ってみなければ,何も始まらない。
がんばってから死にたいね,なんていう歌が流れる。誰だ,こんな歌を作るのは。やはり争えと,闘えということか。でも,がんばるということは生理現象ではない気がする。とりあえずの今日の結論。人間が生きるということをすべて生理現象と考えるのは,人間的である。
(次回につづく)
本連載はフィクションであり,実在する人物,団体,施設とは関係がありません。 |
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名郷直樹の研修センター長日記(終了)
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