医学界新聞

連載

2007.04.09

 

【連載】

はじめての救急研修
One Minute Teaching!

田中 拓
箕輪 良行桝井 良裕
(聖マリアンナ医科大学・救急医学)

[Case13]   「痙攣=頭」ではない!


前回よりつづく

この連載は…救急ローテーション中の研修医・河田君(25歳)の質問に救急科指導医・栗井先生(35歳)が答える「One Minute Teaching」を通じて,救急外来,ERで重症疾患を見落とさないためのポイントを学びます。


Key word
QT延長,torsades de pointes,痙攣性失神

Case
 4月。今週から河田君も後輩と一緒に当直を行っている。「先生,ルートが取れないんですが……」「先生,ワゴッたって何ですか?」自分も1年前はこんな感じだったっけ,偉くなったもんだ,と鼻の穴を膨らませた。次の患者は59歳女性,主訴は痙攣。河田君は痙攣で直接受診してくるなんて? と考えながら呼び入れた。

 患者は夫の押す車椅子に乗って入室。やや表情が暗く,倦怠感が強い。夫の話では,2-3日前から体調が悪く,食事が摂れなかった。就寝前,急に全身をこわばらせ意識を失ったが,徐々に治まり意識も戻ってきたため来院した。胸痛,嘔気・嘔吐,頭痛ともになし。うつ病の既往があり,2年前から定期内服している。外傷歴,痙攣の既往はない。意識清明,血圧90/50,脈拍94,体温37°C,SpO2 98%。眼瞼結膜貧血,眼球結膜黄疸なし。呼吸音・清,心音:正常だが脈に部分的不整あり。腹部は平坦・軟で,下肢に浮腫なし。河田君は慎重な評価が必要だ,と考えながら栗井先生に相談した。

■Guidance

河田 夫も見ていますし,痙攣は事実だと思います。持続時間は1-2分,転倒や打撲はなさそうです。現在は痙攣も止まり,意識も清明です。

栗井 痙攣で最も注意すべき状態は何だと思う?

河田 痙攣重積です。全身性の強直間代性痙攣が5分以上続く場合を重積と呼ぶようですが,今回は相当しません。

栗井 そうだね。体の痙攣は治まっても意識障害が遷延する場合は,痙攣が持続していると考えて対応する必要があるね。痙攣重積は原因によるけど死亡率が10-40%と言われていて,すぐに止めなければならない。次に救急医に求められるのは一次性痙攣(Primary seizures)なのか二次性痙攣(Secondary seizures)なのかを鑑別することだね(Check Point1)。

〈そのとき,再び患者が車椅子の上で全身を硬直させ意識を失った。〉

河田 すぐにストレッチャーに移して。気道確保,酸素! バック・バルブ・マスクと呼吸器を用意して。ルート確保します! ジアゼパムをください!

〈河田君がルートを取り終わる頃に痙攣は治まった。血圧は160/90,SpO2 98%で,至急実施された頭部CTでは脳出血や腫瘍性を疑わせる所見は認めなかった(Check Point2)ため,点滴,酸素,モニターを装着,重症診療ベッドへ移動しての診察となった。〉

河田 いちばん怖いのは脳血管疾患だと思いましたが,CTでは指摘できる病変はありませんでした。

栗井 痙攣の鑑別は多岐にわたるから臓器ごとに病態との関連に見落としがないか整理して検討しよう。system reviewという方法だ。まず神経系は共同偏視,瞳孔不同,頸部硬直なし。あとは何が考えられる?

河田 身体所見では打撲痕や腫脹,発赤などの外傷,感染症を疑わせる所見は認めませんが,意識レベルも低下していて脳炎・髄膜炎,またCTだけでわからない頭蓋内疾患は最後まで否定できないと思います。顔面にも痙攣との関連を疑える所見はなく,頸部でもリンパ節の腫脹も,甲状腺の腫大や異常な頸静脈の怒張も認めません。

栗井 次に胸部だけどモニターを見て。ちょっと急いだほうがいいかもね。

河田 VPCが多発していますね。まずは12誘導心電図を取ってみます。

Disposition
 心電図を見ると洞調律,脈拍100,形の異なるVPCが多発し,QTc間隔は0.48と延長を認めた(Check Point3)。

 心電図検査を終了した直後にモニターに変化が現れ,torsades de pointesを呈した。それと同時に患者は再び意識を失った。直ちにcardioversionがなされ,洞調律に回復した後,すぐに循環器科にコンサルトとなった。

 体調を崩し,食事が摂取できない状態で抗うつ薬を飲み続けたためQT延長をきたし,不整脈を誘発,一時的に脳の低酸素状態となり痙攣性失神(convulsive syncope)を発症したと考えられた。

Check Point 1

二次性痙攣 痙攣に占めるてんかんの割合は0.6%程度。そのほかの二次性痙攣の原因は多様で,脳出血,くも膜下出血,脳腫瘍,一過性脳虚血発作などの脳血管疾患,甲状腺機能亢進症,低血糖,低ナトリウム血症,尿毒症などの代謝性疾患,さまざまな原因での脳低酸素状態,睡眠障害,転換性障害や詐病も原因として考慮する。

Check Point 2

頭部CT 痙攣における頭部CTの実施についてはアメリカ救急医学会(ACEP)をはじめとした学会から推奨が出ている。初回の発作では,新しい神経局所所見,意識障害の遷延,発熱,最近の外傷,持続する頭痛,癌の病歴,抗凝固療法中,AIDSの疑いまたは40歳以上,部分発作から発症した痙攣の患者ら,ではCTを撮るよう推奨もしくは選択肢として示されている。

Check Point 3

QT延長 QT延長は先天性と後天性のものがあり,発症年齢もさまざま。QT間隔は心拍数,年齢,性別にも影響されるため,計測にはBazettの補整式(QTc)を用いる。すなわちQTc=QT/で,0.45以上を異常と考えるが,簡便法としてQT間隔がR-R間隔の1/2を超えている場合にQT延長を疑う。後天性の原因として薬物(抗不整脈薬((IA群,III群)),抗うつ薬,抗菌薬,抗真菌薬など)や電解質異常(低カリウム血症,低マグネシウム血症,低カルシウム血症)がある。

Attention!
●患者評価ではsystem reviewの活用を!
●痙攣=頭ではありません!

(次回につづく)

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