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第3391号 2020年10月12日


Medical Library 書評・新刊案内


皮膚病理診断リファレンス

安齋 眞一 著

《評者》鶴田 大輔(大阪市大大学院教授・皮膚病態学)

皮膚病理診断のための究極のリファレンスブック

 日本皮膚病理組織学会理事長である安齋眞一氏の著書最新刊が発売された。ずっしりと重く,持つだけで賢くなれそうな1冊である。

 安齋氏の著書は常にエキサイティングである。皮膚病理診断学は極めて膨大な学問分野であるので,その書籍は辞書的な1冊とならざるを得ない。しかし,安齋氏はこれまでストーリー性に富んだ斬新な書籍を手掛けてきた。例えば,制作責任者を務められた『実践! 皮膚病理道場』シリーズ(医学書院)は,書籍では初めてのバーチャルスライドを用いた皮膚病理診断学を試み,大成功を収めている。また,皮膚軟部腫瘍や皮膚付属器腫瘍というプロフェッショナルでなければ診断できない領域のアトラスも見事に作った。

 今回,彼が挑戦したのは,初学者から名人まで,これ1冊を顕微鏡の横に置いておけば,確定診断に至ることができる皮膚病理診断のためのマニュアル本の作成である。本書は,安齋氏の単著であり,序文には,通読は想定しておらず,「顕微鏡のそばに置いてかわいがっていただけたら」とある。

 本文を見てみると,まず,「炎症性疾患および類縁疾患の病理診断の考え方」に掲載されている炎症性疾患のパターン診断の表が極めてわかりやすい。これに従えば一直線に診断に至ることができるだろう。安齋氏は,炎症性疾患の診断過程として,まず病理のみをみて診断し,その上で臨床情報を加味して確定診断に至ると書いている。この表はそのようなアプローチにおいて極めて有用であろう。

 また,炎症性疾患の各項では,「病期による所見の違い」という項目も立てられている。これにより経時的変化の把握に弱い病理診断学の弱点を補うことができる。

 「腫瘍性疾患および類症」では,冒頭に「皮膚腫瘍の病理診断の考え方」が書かれている。良性・悪性腫瘍の鑑別の要点,免疫組織化学で用いられる抗体に関するまとめの表や,表皮や付属器上皮細胞の分化所見などをまとめた表が掲載されており,すぐに使えて有用である。

 腫瘍性疾患の各項では,全ての腫瘍にわたって,弱拡大から強拡大まで多数の明瞭な写真が掲載されている。弱拡大でパターンを把握して,強拡大で疾患を鑑別し,確定診断に至ることができるだろう。

 個別の疾患では,「臨床病理相関」の項目が立てられている。これにより,病理→臨床→病理診断確定というプロセスを踏むことができる。「病理診断の決め手」の項目も複数の鑑別診断がある場合にはうれしい。

 しかし,何といっても白眉であるのは,「コメント」の項であろう。目からウロコの落ちるコメントが満載である。

 本書の最後に掲載されている「診断の手がかり」と「用語集」も写真入りできれいにまとめられており有用である。

 本書『皮膚病理診断リファレンス』は他の追随を許さない,究極のリファレンスといえよう。

A4・頁530 定価:本体18,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04140-9


臨床研究の教科書
研究デザインとデータ処理のポイント 第2版

川村 孝 著

《評者》福岡 敏雄(倉敷中央病院副院長)

「やさしく,丁寧に,読みやすく」が貫かれた教科書

 この『臨床研究の教科書』は,臨床研究にかかわるどんな人にも必ず役立つところがある,どんな人にも読む価値がある,そんな不思議な本である。

 臨床研究の流れが,しっかり丁寧に順を追って網羅的に書かれている。「統計解析」に飛びつきがちな初心者は第1部で研究の計画の大切さを,さまざまなデータで統計解析を行ってきた中級者は第3部で統計解析の実践的な意義付けを,研究を計画し実行したことがある実践者は第2部でもっと上手に研究チームを動かすスキルを,これから臨床研究論文を書こうとしている執筆者には第4部でその注意点と秘訣を,それぞれ学ぶことができる。

 第5部では,リサーチクエスチョンから,研究の運営,その結果と反省点,そして発表まで,実際の研究を題材に細かく赤裸々に書かれている。現場で気付いた疑問から研究につなげ出版に至る流れが記されている。ランダム化比較試験だけではなく,臨床予測モデルや記述研究などもあるし,研究が予定通りにいかなかったときの「転んでもただでは起きない」事例もある。

 この本を貫いているのは,丁寧さと読みやすさである。基本概念を誤解なく伝える言い回しや事例も豊富に紹介されている。例えば,観察研究で行う擬似ランダム化試験として傾向スコアを用いた解析法が,不確実さの対応としての感度分析が紹介されている。それぞれIgA腎症やウシ海綿状脳症などの事例を用いて説明されている。経験ある人は丁寧さを冗長さと取るかもしれない。だが教える立場になったらその価値に気付くだろう。本書では統計解析や疫学用語にほぼ全て日本語と英語が併記されている。初心者向けの配慮でもあるだろうが,英語に慣れてしまった上級者が,正しい用語で説明する時に大いに助けられるはずだ。

 本当の初心者から上級者・専門家まで幅広く,やさしく丁寧に根気強く,そして細かな用語に至るまで正しく指導する,そんな著者の姿勢を感じた。脚注の的を射たコンパクトな説明も理解を助ける。また第2版ではAdvanced Knowledgeと題されたコラムが書き加えられている。

 医療や保健の現場ではさまざまな疑問を抱く。そこで少しデータをまとめてみたくなる。それが臨床研究の第一歩である。患者のために住民のために社会のために,自らがもっと役立つように,研究したくなる。そんな視点から研究を始める人,そんな人を支える人にぜひ読んでほしい本である。

B5・頁286 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04237-6


がん薬物療法のひきだし
腫瘍薬学の基本から応用まで

松尾 宏一,緒方 憲太郎,林 稔展 編

《評者》高野 利実(がん研有明病院乳腺内科部長)

チーム医療の中心となって活躍するための「ひきだし」

 病院薬剤師が主人公のドラマ「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(フジテレビ系,2020年)が話題になっている。患者さんに寄り添い,薬剤師として悩みながら,知識と経験に基づいて行動していく主人公。これまで,いろんな病院で,優秀で熱心で魅力的な薬剤師に支えられてきた私としては,○○さんや△△さんなどの姿を重ねながら,このドラマを楽しんでいる。現実離れした描写や,高圧的過ぎる医師の姿には批判もあるようだが,薬剤師の想いや仕事ぶりはうまく伝わっているように思う。チーム医療に欠かせない存在としての薬剤師がこのようにクローズアップされるというのは,チーム医療に救われている腫瘍内科医としても,とても喜ばしいことである。医師の指示のもと,薬剤の管理だけを行うのではなく,患者さんのために,チーム医療の中心となって活躍することが,これからの薬剤師に求められる役割であり,それこそが,このドラマの重要なメッセージであろう。

 がん薬物療法の分野では,進歩のスピードが加速しており,薬剤師が身につけておくべき知識も膨大なものになっている。今の時代は,知識を全て身につけているというよりは,知識のひきだし(エビデンスを検索する能力)こそが求められているともいえる。いずれにしても,これらの知識を背景に,患者さんや他の医療従事者と対話し,より適切ながん薬物療法をめざしていく必要がある。そんなときに手元にあると役立つのが,『がん薬物療法のひきだし――腫瘍薬学の基本から応用まで』である。

 本書は,がん薬物療法に最前線で取り組む薬剤師が創り上げた教科書である。網羅的で重層的な,それでいて,わかりやすく,かゆいところに手が届くような内容になっている。「ひきだし」というタイトルも絶妙で,全体の構成から,各章(各ひきだし)の構成まで,いろいろな工夫がなされている。「はじめのひきだし」と「スキルアップのひきだし」も,知識の整理に役立つことだろう。

 ひきだしは5段あり,「1段目 総論」「2段目 抗がん薬各論」「3段目 がん薬物療法」「4段目 副作用対策」「5段目 緩和ケア」となっている。本書を開く場面はいろいろであろうが,特定の薬剤について知りたいのであれば2段目を開け,特定のがん種の薬物療法について知りたいのであれば3段目を開け,特定の副作用について知りたいのであれば4段目を開けると,得たい情報に行きつける。網羅的に知識を整理したいのであれば,上から順番に通読するというのもありだろう。

 「自分で自分の立ち位置決めちまったらそっから進めなくなるぞ?」というのは,「アンサング・シンデレラ」で先輩薬剤師から主人公に掛けられる言葉だが,薬剤師も医師も,よりよき医療をめざして,切磋琢磨していきたいものである。

B5・頁474 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04180-5


すぐ・よく・わかる
急性腹症のトリセツ

髙木 篤,真弓 俊彦,山中 克郎,岩田 充永 編著

《評者》志水 太郎(獨協医大主任教授・総合診療医学)

和製Cope本――若手向け腹痛本の新しいスタンダード

 Copeをはじめ,あまたある腹痛の書籍における本書の位置付けは何か。「すぐ・よく・わかる」「急性腹症」のタイトルにあるように,腹痛の名著Cope“Early Diagnosis of Acute Abdomen”を今時に「超訳」された本(「はじめに」より),といえば,本書の伝えたいメッセージは明確ではないだろうか。Copeは病歴・身体診察の腹痛の標準テキストとして長らく有名であり,評者も学生時代愛読したが,その輝きは10数年たった今でも衰えず,腹痛の本で何を読むべきか,という質問に対して推薦3冊のうちに必ず入る本である。研修医教育などのリファレンスは結局Cope先生の本に戻ることが多い。

 その一方,Copeが比較的難解であるという欠点(?)は本書でも指摘される通りである。が,本書はその欠点を補いつつ,さらに日本の現場感覚を反映した,まさに日本の読者のための和製Copeといえる作りの本である。

 本書は実用性が高く,またその中に臨床の魂が注入されていると評者は感じる。その理由は,第1~3章から順にWhy,What,Howで記載された明快な章割りで誰が見てもわかりやすく,現場でも求めるページを迅速に開くことができる実用的な作りであり,さらに腹部触診やCT読影の際に体腔内を直観的に頭の中で映像化・想起しやすい具体的なシェーマが多いこと(こういう本がなかなかない!),そしてHowにあたる第3章では,小項目のタイトルを読むだけでも腹痛のピットフォールが網羅できるような直言的メッセージにあふれ,速読で全体像を俯瞰することができるという実用性を意識した作りだからである。特にHowの第3章は必読である。

 これからの医師に必要なのは「どこまで知っているか」よりは,「どう考えればよいか」である。知識をどこまでも広げることは,検索方法さえ心得れば万人が同じスタートラインに立てる。しかし,どう考え,どう行動できるかは医師個人の生き方,考え方と実地経験の結晶化であり,ここに医師のプロとしてのexpertiseやartがある。本書の著者である腹痛診療の達人の先生方のエッセンスを学ぶ上で,このHowの章は本書において特に外せない。そして,その前を担う第1,2章においても,このエッセンスはいきわたっていると感じる。

 本書のさらなる魅力として,執筆者の先生方のお人柄を表すかのような作りも垣間見える。例えば,各項目の合間に内挿される臨床短歌などはウィットに富み,現場を知る人間にとってはほほえましいものが多い(してません 絶対絶対してません してませんけど妊反陽性p.155など)。

 執筆者の先生方はまさに日本の総合救急,外科救急,消化器を代表する各先生方であり,まさにドリームチームによる強い絆(4人の先生方が大学の同級生・また職場の同窓でいらしたことにも驚きました)で作り上げた後輩への腹痛学習の総結集,ともいえるだろう。

B5・頁192 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03945-1

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