Withコロナ時代に考えたいリーダーの在り方
対談・座談会 熊谷 俊人,佐々木 淳
2020.10.05
【対談】
Withコロナ時代に考えたいリーダーの在り方
熊谷 俊人氏(千葉市長)
佐々木 淳氏(医療法人社団悠翔会 理事長)
新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)に対する警戒が続く中,多くのリーダーがコロナ禍を乗り越えるべく奮闘している。千葉市長の熊谷俊人氏と医療法人社団悠翔会理事長の佐々木淳氏は,前者は自治体のトップとして,後者は千葉市の拠点を含めた全15クリニックを展開する在宅医療法人のトップとして,コロナ禍の自治体運営と医療法人運営の舵取りを行っている。2人の若きリーダーによる対談は新型コロナへの対応の振り返りに始まり,コロナ禍におけるリーダーシップから,リスクコミュニケーション,Withコロナ時代の地域医療や医療介護経営の在り方にまで展開した。
佐々木 熊谷市長は42歳という若さにもかかわらず,コロナ禍においても冷静に自治体運営をされています。
熊谷 31歳で市長に就任した私も12年目を迎え,これまでに何度か危機事案を経験しました。その蓄積があったため,押さえるべきポイントをある程度理解した状態で新型コロナに向き合うことができたと考えています。
コロナ禍を乗り越えるためのリーダーシップを考える
佐々木 千葉市の新型コロナへの対応を振り返ってみていかがですか。
熊谷 中国の武漢で新型コロナの流行が始まった1月時点で,千葉市ではパンデミックが起こり得ると想定していました。そこで保健所の職員を大幅に増員した上でPCR検査装置を拡充し,新型コロナの第1波の際には十分な検査体制で臨むことができました。千葉市では,医師が必要と判断した方がPCR検査を受けられる状態を第1波の時から現在まで維持しています。
佐々木 当法人でも1月時点で国内での新型コロナ流行の可能性を念頭において感染対策を開始しました。2月以降は企画していた地域の勉強会などを全て中止しました。3月から職員の時差通勤や在宅勤務を取り入れ,また診療チームを細かく分けることで1人が感染しても残りのメンバーが診療を行える体制を整え,4月初旬には院内で対策ガイドラインを作成しました。当法人には医療職を含むスタッフが約250人,在宅で診ている患者さんが約5000人いる中で,第1波における感染者は1人も確認されませんでした。
熊谷 素晴らしい成果ですね。
佐々木 ありがとうございます。コロナ禍のような有事への対応には適切なリーダーシップの発揮が不可欠だと思います。有事における自治体のトップには,どのようなリーダーシップが求められるのでしょうか。
熊谷 大きく4つ挙げられます。1つ目は,常に自治体と市民との間に立って両者の意思疎通の媒介となること。自治体の考えの中で市民に伝わりにくい部分があれば修正し,自治体と市民とが円滑なコミュニケーションを図れるようにしています。また市民に対しても,自治体の取り組みに疑問を持っていれば,その誤解を解くようにしています。2つ目は先の景色を読んでおくこと。続く事態を想定して先んじた準備の指示を出し,自治体にも市民の側にも心の準備を促すことが必要でしょう。3つ目はリソースの最適な配分を考えること。2009年の新型インフルエンザや2019年の台風を教訓に,危機管理や災害対応に際しては予算や人員,権限を最も問題に直面する部署に集中させています。4つ目は情報の取捨選択能力。さまざまな専門家が発言をする中で正しい情報を選び取ることが求められます。
佐々木 現在,大量の情報が氾濫し社会に混乱を与える「インフォデミック」が指摘されています。自治体トップによる積極的かつ正確な情報公開の重要性には大きな注目が集まっています。
「信なくば立たず」,有事のリスクコミュニケーションの意義
佐々木 千葉市では,2月に起きた教員の新型コロナ感染やそれを受けた一斉休校の方針についてすぐ熊谷市長のTwitterアカウントで情報を公開して,対応方針を明確に示しました(図)。このように起きている事実やそれに対する自治体の解釈を示しどう対応するのかを可視化することで,市民は自治体に信頼を寄せられるのだと思います。
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図 安倍首相(当時)が3月2日から春休みまで全国の一斉休校を要請したことを受け,3月3日からの一斉休校の方針(千葉市方式)を示した熊谷氏のTwitter投稿(クリックで拡大) |
熊谷 積極的な情報公開によって市民からの信頼を維持できたことは私自身も評価している点です。全国で初めて教員の感染が判明した際には,私たちの口から千葉市の考えを説明する必要があると感じ,市独自の記者会見を行いました。幹部を集めてさまざまなケースを想定して方針を決め,万全の準備を整えて記者会見に臨みました。
佐々木 説明のベースになるのは情報の把握だと思います。千葉市では情報収集にどう取り組んでいるのですか。
熊谷 保健福祉局幹部の公衆衛生専門の医師を中心に他幹部とも話し合いを重ね,疫学的な観点での情報把握と即時の検討を行っています。
佐々木 なるほど。千葉市が情報を把握して事例検討を行った上で動いていると市民が感じれば,感染発生の不安感を取り除くだけではなく,自治体の対応に安心感を持つ市民も増えます。
熊谷 有事には危機を司る組織や人に対する信頼感が重要視されます。この信頼を得るため全力で取り組むのです。
佐々木 おっしゃる通りですね。事後であっても,大規模な院内クラスターが3月以降に発生した台東区の永寿総合病院のように後から丁寧に状況説明1)をすることで,評価は大きく変わります。
熊谷 不都合な情報も含めて,市民には「状況を理解するために必要な情報は全て発信して説明している」と理解してもらうことが必要です。
佐々木 それが自治体に対する信頼感に結びつくのですね。
熊谷 その通りです。「信なくば立たず」。有事における行政には市民との信頼関係を土台にしたリスクコミュニケーションが求められます。
佐々木 千...
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