医学界新聞

寄稿 大須賀 悠子

2020.09.07



【視点】

在宅療養支援診療所における院内薬剤師の役割

大須賀 悠子(医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック在宅医療部)


 桜新町アーバンクリニック(以下,当院)は東京都世田谷区にある強化型在宅療養支援診療所であり,外来機能,訪問看護ステーション,看護小規模多機能型居宅介護,居宅介護支援事業所を有し,包括的に地域医療を提供している。

 2009年に当院に新設された在宅医療部へ院内薬剤師として筆者が参画したのは2013年のことである。当院は院外処方を行う他の診療所と同様に,保険薬局で扱うことのできる薬剤は地域薬局の薬剤師に調剤および服薬指導を全てお願いしているため,院内調剤や診療所からの訪問薬剤管理指導は行っていない。そのため医師,看護師に続き三つ目の職種として参入したものの,参画当初は決められた仕事がなく,その時々で他職種と相談しながら薬剤師が介入することで患者,地域にどう貢献できるのかを模索してきた。

 現在は,①基幹病院からの在宅医療導入依頼における薬剤調整の担当,②院内で日々発生する薬剤に関する疑問などへの対応,③製薬会社や医薬品卸との渉外担当,④保険薬局では扱えない薬剤の発注管理などの請負を主に行う。その中でも特に注力する業務は,薬学的なアセスメントに基づく処方提案を医師の訪問診療に同行して行うこと,また,地域の保険薬局や基幹病院との薬剤に関する連携調整を担うことである。本稿ではこれらの取り組みについて詳述したい。

 世田谷区は人口が90万人を超えており保険薬局の数も把握しきれないほど多いのが特徴である。診療所―地域薬局間の連携業務を院内薬剤師が担う中で感じたことは,薬局薬剤師がかかわることのできる場面は多岐にわたるものの,他職種から認識されていなかったり,必要な連携の会議に声が掛からなかったりと,地域に多数存在する優秀な薬剤師の活躍の場が限られていることだった。また,在宅医療での薬物治療も複雑化してきており,特に退院前カンファレンス時,初回往診時,急性増悪時,経口摂取ができなくなった際の内服以外の薬剤への処方変更時などは,薬剤の知識だけではなくその地域の医療資源やマンパワーなどを理解した上での処方提案が必要になる。患家を訪問する薬剤師が必要な情報を得ることで,患者の状況にあったアプローチができるのはもちろんのこと,チーム医療の質向上にもつながり,特に地域薬剤師の底力が他職種に伝わる場面が多く生まれると感じた。そのため薬剤師に必要な処方箋を出す側の医師が把握している情報を院内薬剤師が媒介し提供する取り組みなどを開始し,効果を得てきた。加えて,地域間における情報共有の場の設定,地域在宅薬剤師ネットワークの確立,薬剤師以外の職種から薬剤師というリソースがどこに存在しているのかを把握できる資源マップ作成の取り組みなども地域力の向上に効果があったと感じている。これらの取り組みを始めて1年が経過した2014年に調査した当院のデータにおいて,全患者数における在宅患者訪問薬剤管理指導導入の割合が17%から69%に増えていたことからも,在宅患者が必要な薬を服薬するために薬剤師の力が役に立つことを示唆しているように考えられる。

 近年,在宅療養支援診療所に勤務する薬剤師も少しずつ増えてきており,それぞれの地域に求められる形でさまざまな取り組みを展開している。またその仲間たちで在宅療養支援診療所薬剤師連絡会を立ち上げ,それぞれの経験を共有し合い,より貢献できる形を模索する活動も始まった。地域で彼らの存在をうまく活用し,地域力向上に役立てていただきたい。


おおすが・ゆうこ氏
東邦大薬学部卒。石心会狭山病院(当時)薬剤室勤務ののち保険薬局に勤務。株式会社メディヴァのプロジェクトの一環として桜新町アーバンクリニック在宅医療部に出向。在宅療養支援診療所における薬剤師業務の開拓と実践に携わり,現在は同院の院内薬剤師として専任勤務。在宅療養支援診療所薬剤師連絡会主宰。

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