医学界新聞


COVID-19を契機に医療・介護連携の加速を

寄稿 織田 良正

2020.06.29



【寄稿】

ICT活用で病院から在宅患者を見守る
COVID-19を契機に医療・介護連携の加速を

織田 良正(社会医療法人祐愛会織田病院 総合診療科 部長/連携センター)


 佐賀県西南部の鹿島市(人口約3万人)に所在する当院(111床)は,佐賀県南部医療圏に属し,急性期から在宅医療まで担っている。当二次医療圏は全国平均より高齢化が進展しており,85歳以上の救急搬送患者,新規入院患者が急増している。当院の入院患者における85歳以上の割合は年々増加する傾向にあり,2019年度は27.9%となった。85歳以上の患者は要介護,認知症の割合がいずれも高い。自宅での生活に安心して戻るには,退院前後におけるかかりつけ医や多職種との連携はもちろん,各患者の必要に応じたケアを入院中だけでなく退院後も継続することが重要になる。本稿では,入院時から退院後の生活を見据え,ICT(Information and Communication Technology)を用いて医療・介護連携を図る当院の取り組みを紹介する(1)

 急性期医療から在宅医療まで担う織田病院におけるMedical Base Campの位置付けと,ICT活用例(クリックで拡大)

病院を「基地」に見立て,チームで在宅医療支援を実施

 高齢者の独居世帯,老老介護の世帯では,退院した後に入院中のケアが途切れてしまうことで,退院後すぐ再入院となるケースが少なくない。

 そこで当院では2015年9月から,地域の医療機関と連携を図る,院内の「連携センター」の中に退院直後の在宅医療支援を行うチームを結成した。同チームは,医師,訪問看護師,理学療法士,医療ソーシャルワーカー,ケアマネジャー,訪問介護士の多職種で構成される。「病院を基地(Base Camp)と見立て,基地である病院から地域へ訪問する」との意味を込めて「Medical Base Camp(MBC)」と名付けた。患者が退院すると同時に多職種が在宅医療へ移行するための支援を行うことで,入院医療から一貫した治療とケアが実施できるようになった。

 MBCの結成による退院直後の在宅医療支援に加え,85歳以上の高齢者も安心して在宅での生活に戻ることができるよう,当院ではICTを積極的に活用している。ICTによる在宅医療支援や在宅見守りシステムは大きく次の4点である。

クラウド型電子カルテの導入

 MBCチームは,在宅医療の現場においてクラウド型電子カルテを使用し,診療録などの記録を現場で直接入力できるようにしている。クラウド型電子カルテを使用することで,在宅の現場でカルテ記載や処方箋の発行が可能となり,業務時間の短縮につながっている。

GPS(Global Positioning System)の動態管理による訪問業務の見える化

 MBCチームが属する連携センターに80インチの大型モニターを設置しており,モニターに映し出された地図上に在宅患者宅をマッピングするとともに,訪問スタッフが使用するタブレット端末のGPSを利用し,スタッフの位置情報を画面上で把握できるようにしている。位置情報を「見える化」することで業務の効率化や,患者宅からの緊急連絡など,状況に応じた対応が可能となっている。

ビデオ通話システムによる在宅見守り

 2016年10月から企業(株式会社オプティム)と共に,スマートデバイスとバイタルセンサーなどのICT機器を用いた在宅見守りシステムの実証実験を本格的に開始している。「在宅での生活をいかにサポートするか」に主眼を置き,高齢者も安心してICTを利用できる工夫を施している。

 例えば,ビデオ通話システムの開発と導入がある。スマートフォンやタブレット端末を使用した在宅患者とのコミュニケーションでは,実際に使用すると,タッチパネルにスイッチやボタンがないために高齢者の使用が難しく,また音声も伝わりにくいなどの問題が挙がった。そこで,高齢者が普段から慣れ親しんでいる自宅のテレビにビデオ通話システムを連携させることで,複雑な操作を必要とすることなくテレビ画面上で医師の顔を見ながらビデオ通話が行えるようになり,在宅での見守りに役立っている。

在宅患者の室温を遠隔で管理

 2018年7月から熱中症の早期発見,予防を目的に高齢患者宅に温度センサーを設置し,室温管理にも取り組んでいる。患者宅の室温は前述の連携センター内の大型モニター上でモニタリングされ,一定の温度を超えた際には在宅患者に対して迅速にビデオ通話を行い,注意を呼び掛けている。

COVID-19対応で再確認したICTの有用性

 さて,世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,感染拡大に伴い地域医療にも大きな影響を及ぼしている。当院のある鹿島市では6月16日現在,PCR陽性者は幸い出ていない。しかし,周辺の市町村ではクラスターが発生し,複数の病院が外来・救急診療の停止を余儀なくされた。感染者の発生を予測することは困難であり,COVID-19への対応は感染症対策だけでなく,災害の危機管理にも匹敵するインパクトがある。

 当院では2020年1月下旬からCOVID-19の外来問診マニュアルを作成し,問診段階でのトリアージを開始した。2月中旬には発熱外来を設置して院外(病院駐車場)での診察を実施。発熱患者を可能な限り適切にスクリーニングし,その上で原疾患の鑑別も行えるように努めている。

 感染状況を踏まえ,柔軟かつ段階的に対策を講じる中,大きく変化したのが外来診療の在り方だ。感染予防の観点から,既に導入していたオンライン診療をより積極的に進めた。初診からのオンライン診療が4月に解禁されたことも相まって,オンラインによる診療件数は約1か月で延べ200件を超えた。診療科によっては,1日の外来受診患者の数よりも,オンライン・電話診療の患者のほうが多い状態となった。

 入院患者も原則的に面会禁止とせざるを得ず,患者家族への経過説明が難しくなった。そこで,タブレット端末を用いたオンライン面会を行っている。現在は1日に3~4組の面会を行っており,家族の満足度も非常に高い。

 在宅医療では,以前から取り組んでいるMBCでのICTを用いた在宅見守りシステムが生かされている。在宅での発熱患者はオンラインでより細やかにフォローし,COVID-19対策を行っている。さらに,発熱患者のケアだけでなく,患者宅における訪問スタッフによる感染対策の確認や家族への感染症教育も行っている。

 5月からはAI問診(Ubie株式会社)を導入し,来院前の問診に利用している。現在は院外の発熱外来で発熱者の対応を行っているが,感染対策の点からも身体診察を詳細に行うことは難しく,問診が主体となっている。AI問診を有効に利用できれば,患者の状態に応じた適切な医療機関の受診を,来院前の段階で促せるようになるだろう。究極は,来院前のAI問診が現在の発熱外来に近い役割を果たせる可能性も秘めている。さらなる活用法を模索し有効に活用していきたい。

患者との信頼関係を前提に,ICT活用を進めたい

 今後の地域医療がどのように変化していくのか,先行きはまだ不透明で,変化にいかに対応するか,明確な答えは見いだせていない。その一方で,現場では医療・介護におけるパラダイムシフトが確実に起きている。COVID-19という大きな外的要因で従来の方法の効率性が問われ,必然的に医療・介護の在り方の見直しが迫られている。

 課題解決に向かうアイデアの一つがICT活用であり,より厳しさを増す地域医療・介護の現場での大きな武器となることは間違いない。しかし「ICTの活用」と一言で言っても,現場での活用は決して簡単ではない。実用に至るまでには,医療従事者と患者・家族間の信頼関係の構築が必須である。そのためには,直接「見る」「話す」「触れる」といったオンラインでは得ることのできないかかわりが最も大切になる。

 ICTを使いこなすことが目的ではなく,あくまで「患者・家族の治療とケア」が目的であると忘れてはならない。そのことを常に自問自答し,有効な活用法を地域の実情に即し検討することが不可欠だろう。今後も医師会を中心とした地域の医療機関,介護施設などと連携を取り,地域の在宅医療・介護の充実を図っていく。さらには,医療・介護の枠に留まらず,消防や救急,行政との連携も深め,鹿島市や佐賀県南部医療圏の特色を生かした地域包括ケアの構築に医療面から貢献したい。

参考文献
1)織田正道,他.IoT・AIを活用した「在宅見守りシステム」の概要及び特徴と有用性.新医療.2020;47(5):66-9.


おだ・よしまさ氏
2007年佐賀大医学部卒後,09年同大胸部・心臓血管外科入局。同大病院,関連病院に勤務後,14年より社会医療法人祐愛会織田病院循環器科。15年からは同院連携センターの医師として在宅医療にも従事。17年佐賀大病院総合診療部,18年同大助教を経て,19年より現職。「少子高齢化の進む地域でこそ,医療・介護を前向きに全うしたい」。

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