医学界新聞

寄稿

2018.03.12



【特集】

新専門医制度への対応を振り返る

試行錯誤の中でいよいよ新専門医制度がスタートする。当事者である指導医・専攻医希望者らはどう動いたか? 今後の検討課題やアドバイスは?


■専攻医の「次のステップ」を見据えた院内体制整備が必要

福岡敏雄(倉敷中央病院 総合診療科主任部長・救命救急センター長・人材開発センター長)


 倉敷中央病院は毎年40~50人の後期研修医を採用しており,新制度への対応は最重要課題であった。2013年から「可能な限りの基本領域プログラムの基幹施設となる」を基本方針に担当の診療科を決め,プログラム設置を前提に準備を始めた。14年1月時点で10のプログラムで基幹施設となる見込みであった。

 準備中に一部で設置が危ぶまれることもあったが,16年1月のプログラム申請時には3領域増え13領域(内科,外科,小児科,整形外科,脳神経外科,産婦人科,眼科,放射線科,麻酔科,形成外科,病理,救急科,総合診療)となった。ところが,16年夏に新体制の専門医機構から制度延期が発表された。すぐに院内で情報を共有し,スタッフや研修医向けに説明会を行い不安軽減に努めた。しかし17年採用の後期研修医は38人と大きく落ち込んだ。

 18年度採用者の一次登録に向け当院では17年10月22日,29日に採用試験を行った。その後も随時試験を行い,一次登録での採用者40人(定員78人,充足率51%)となった。二次登録などの追加採用者は1~2人の見込みである。すでに一部のプログラムでは連携施設や定員などの見直しが予定されている。また,基幹施設のプログラムを1領域で追加予定である。

次年度専攻医登録予定の方へ

 19年度採用の一次登録が18年9月1日開始予定との発表を受け,当院の採用試験は8月下旬か9月初めを予定している。この2か月前倒しを前提にプログラムの確認や説明会・見学会などへの参加など,早めに対応する必要があるだろう。

 また,基本領域の専門医を取ることで満足する人は少ないだろう。ふたつの方向を意識しよう。ひとつは次のステップアップである。専門医取得後のスキルアップや二階建て部分の専門医取得などを意識しよう。

 もうひとつは基盤づくりである。医療技術は急速に進歩し,人口構成・財政基盤なども大きく変動し,医師の役割もどんどん変化している。それに適応できる基盤を早い段階で得る必要がある。医学的知識やスキルに加えて,社会的・倫理的・医療経済的な視点や臨床研究,プロフェッショナリズムなどを学ぶ機会が重要になる。

プログラム担当の方へ

 専攻医希望者は多様であり,たったひとつの物差しで病院を選んでいるわけではない。しかし結果が思わしくなければいろいろと考える。何が重要で何が可能か,要因を分析的に考え,対応を戦略的に行うことが求められる。とりあえず重要なのは,自施設での専攻医の研修内容である。実務的な課題として,以下の3つを挙げておきたい。

1)今後の専攻医の派遣・受入や研修進捗状況確認などの調整
2)二階建て部分の専門医プログラムの整備
3)専門医取得後のキャリアアップ・スキルアップの場の提供

 不十分な研修内容や,研修中のトラブルは信用を失う。多様な次のステップを提供すれば安心感につながる。院内の学習環境,特にIT環境と図書機能は学びやすさを大きく左右する。ぜいたくにする必要はないが,最低限のものは提供する必要がある。

 今後の重要な課題として定員調整を挙げておく。今回は結果的に全国で登録者の2倍を超える定員総数であった。予想外の偏りの原因のひとつと見なされよう。今後,応募者数に近づくよう定員が削減されるだろうが,どう進められるのか注目したい。臨床研修制度を振り返れば,初年度の定員は応募人数の約1.3倍であったが,15年を経て1.1倍となっている。専門医制度においては,地域間だけでなく領域間の調整が求められるので,問題は複雑である。


■多忙な初期研修中も将来のキャリア形成を考える機会を

坂倉悠哉(聖隷浜松病院 初期研修医)


 新専門医制度1期生としての個人的経験に基づき,困った点や後輩へのアドバイスを述べます。

 今年度,私自身は次のスケジュールで動きました。4月に興味のある科のローテートを行い,5月に専門科を決めました。6月に後期研修先の情報収集・見学申込を行い,7月に複数の大学・市中病院を見学。9月は学会に参加し後期研修の具体的な情報を集めました。10月に一次登録をし,11月に病院面接を受け,その後正式な内定通知をいただくといった流れです。

 困った点は,プログラムの開示や申込期限の延期があった点でした。具体的な研修内容が決まっていない病院もあり,先の予定を立てにくい状態でした。また,延期による専門医制度自体への不安もありました。当院では病院側が積極的に情報を告知し,各科部長からも新専門医制度の変更点を詳しく教えていただくことができました。後期研修プログラムを作っている先生方から情報を集めると効率的です。

早めの情報収集とコンタクトが必要

 次に,後輩へのアドバイスです。2019年度採用の専攻医募集開始は18年9月1日予定と公表されました。まずはそれに合わせてスケジュールを組むことをお勧めします。人気の病院だと正式な申込期限より早く内部で締め切りを設定している施設もあり,早めのコンタクトを取る必要があります。

 内科専門医制度では必要症例数の増加に伴い,専攻科研修の遅れが指摘されています。必要症例を早く経験できるよう各病院で工夫が見られており,内科志望者は確認が必要です。また,連携施設での1年間の研修が義務付けられたため,連携施設の把握もしておくとよいでしょう。休職期間の上限も定まっており,同期の女性医師は妊娠・出産を踏まえたキャリアパスを歩める環境にあるか否かを検討していました。こうした新専門医制度の変更点を知らない方は,まずは情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。

 制度の変更点ばかり話題になっていますが,専攻科を選ぶことは,新制度の創設に至った背景を考慮し,自分がどのような形で日本社会に貢献していきたいかを考える絶好の機会となります。初期研修中は忙しいですが,将来的にどこで誰とどんな仕事をしていたいか,一度立ち止まって考えてみることをお勧めいたします。


■「自分の理想の未来」と「社会からの期待とニーズ」のバランスを保つ

笹本浩平(市立敦賀病院 初期研修医)


 新専門医制度の開始に当たり,過渡期ということもあって情報が錯綜しました。私は早期から,多大な時間と労力を情報収集に費やしました。

 初期研修医1年目のころから後期研修病院の情報について詳しい人に何度も聞いて情報収集を行い,候補施設を選び出しました。その後,夏期休暇や有給休暇を利用して各施設を見学し,先生方との懇談により精度の高い情報を集めつつ,2年目9月までには応募プログラムを決めました。専攻科についても悩むことはありましたが,自分自身の個性が生かせるフィールドに決めました。加えて産業医資格の取得や各種検定試験など,キャリアを追求する時間も作りました。

将来の目的から必要事項を明確化する

 後輩へのアドバイスとして私が申し上げたいのは,「自分の理想の未来」と「社会からの期待とニーズ」を見極め,両者のバランスを保った状態で,自らの将来を形成する研修先を決めたほうがよいということです。

 「自分の理想の未来」とは,自分がしたいことやめざす医師像を追求することを指します。医学部入学時にどんな夢を持っていたかを思い出してください。数年間の学生生活・研修医生活を経て,自分の未来をいまどのように思い描いているでしょうか。その夢や理想を実現するための後期研修であり,その後の医師人生です。普段の学習や研修の隙間に,片手間ではなく「人生が懸かっている」ぐらいの気持ちで時間を作り,自分の将来像について考えてください。

 「社会からの期待とニーズ」とは,われわれ医療人に対して,患者さんがどのような医療を期待するのか,どういったニーズがあるのかを見極めることです。「将来必要とされる医療を自分が提供するためには○○という技術が必要なので,それを手に入れるためにはどんな研修を実践すれば良いのか」といったように,目的を意識し必要事項を明確化するのがよいと思います。社会からのニーズにアンテナを張ると必要事項がわかることもあります。上記を踏まえて,将来求められる医師像を考えてみてください。

 この両者のバランスが取れている道が最善であると私は考え,後期研修先を決定しました。次の3年間,両者のバランスを保ちながら,自分のために,みんなのために,研さんを積みたいと考えています。

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