医学界新聞

対談・座談会

2018.01.22



【座談会】

医原性サルコペニア根絶のため,看護師一丸で取り組みたい
リハビリテーション栄養
森 みさ子氏(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 急性・重症患者看護専門看護師)
若林 秀隆氏(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科診療講師)
荒木 暁子氏(日本看護協会常任理事)


 筋量減少と筋力低下を特徴とするサルコペニアは患者のADLとQOL低下にかかわる重要な疾患である(MEMO)。中でも医療者の知識不足・連携不足による入院中の不適切な介入が引き起こす「医原性サルコペニア」への対処は急務だ。医原性サルコペニア予防に,看護師はどのような役割を果たすべきか。

 本紙では,医原性サルコペニアの概念を提唱し,予防の重要性を訴える医師の若林氏を司会に,看護師による栄養管理とリハビリテーションに取り組み回復期リハ病院の管理者を務めてきた荒木氏,急性期病院看護師でNST(栄養サポートチーム)に携わる森氏による座談会を企画。医原性サルコペニア根絶の鍵として看護師・看護管理者のリハビリテーション栄養(以下,リハ栄養:MEMO)の取り組みの重要性が語られた。


若林 サルコペニアの正しい理解と対策は,あらゆる病院で今すぐに取り組まなければならない課題です。なぜなら,医療者がよかれと思って行った医療行為がサルコペニアを意図せず引き起こし,結果的に患者の入院期間延長やADL,QOL低下につながっている実態があるからです。これは医原性サルコペニア(病院関連サルコペニア)と呼ばれ,リハ栄養で予防・改善が可能です。状況を変える鍵は看護師の取り組みです。リハ栄養を実践してきたお二人は現状をどう見ていますか。

 看護師がリハ栄養を理解し,多職種をつなぐかかわりができれば医原性サルコペニアを防ぐことができるでしょう。しかし,実践は道半ばといった現場が多いです。

荒木 患者さんがQOLを維持して地域で暮らし続けるには,看護師の意識改革とともに,リハ栄養の組織的な実践と組織横断的な視点が必要です。今日は病院での経験を交え,看護師・看護管理者が実践すべきことをお話しします。

病院内でサルコペニアはこう作られる

若林 現場で医原性サルコペニアはどのように生じているのでしょう。

荒木 回復期リハ病院では,「とりあえず禁食」による低栄養が起点となる負のループを経験したことがあります。入院中の栄養不足がサルコペニアにつながり,身体機能低下が進んで入院期間が延びてしまいました。

若林 まさに医原性と言えますね。不適切な栄養管理の他に,低活動も医原性サルコペニアの原因として重要です。急性期病院では入院後の「とりあえず安静」による低活動がサルコペニアの発端となることもあります。

 一方で,単にリハに積極的に取り組めば良いわけではありません。リハ強度を上げたことで体重と骨格筋量が減少し,あわやサルコペニアになりかけた事例もありました。栄養量を変えないままリハ強度を上げれば,相対的に低栄養となります。リハと栄養のバランスを常に考えなければなりません。

若林 そうですね。「リハなくして栄養なし」「栄養なくしてリハなし」。つまり,身体活動に応じた十分な栄養と,栄養摂取量に見合った身体活動の2つが重要です。

サルコペニア“製造”を止める看護師の役割

若林 これらは病院で“製造”されたサルコペニアと言えるでしょう。看護師はどうかかわっていたでしょうか。

荒木 医師から「とりあえず禁食」の指示を受け,そのまま実施している看護師もいました。

若林 医師の指示が最も大きい問題ですが,栄養不十分な処方であると疑えなかった看護師の知識不足も問題です。

荒木 さらに,看護師のケア力の不足もあるでしょう。医師の禁食指示の背景には,看護師の業務量や技量への考慮もあるようです。

若林 人員不足は考慮せざるを得ないですが,当院ではリハビリテーション科で評価の上,経口摂取可能な患者さんには,少なくとも昼食は看護師が経口摂取を支援するよう,看護部一丸となって努力しています。

 森さんは医原性サルコペニア“製造”の根底にどんな要因があるとお考えですか。

 「高齢だから身体機能が落ちても仕方ない」「栄養管理は管理栄養士に任せておけばいい」と考える看護師も少なからずいることです。看護師が医師やNSTにつなげば適切に対応できた事例でも,看護師が気付かないことで低栄養が放置されてしまう例もあるようです。

若林 これまではリハ,栄養,看護はそれぞれリハ職,管理栄養士,看護師によって別々に行われていました。看護師や医師の多くはリハや栄養に詳しくないのが現状でしょう。しかし,サルコペニアのリスクの高い高齢患者が多くを占める今の時代,患者さんの全身的なケアに当たる看護師は身体活動・栄養とサルコペニアの関係を知らなければなりません。

 リハ強度に応じた十分な栄養を摂取しているかを考えることはその一つですね。リハ強度だけを上げてしまった先の例では,リハと栄養の目標を医師,看護師,理学療法士,管理栄養士などのチームで共有できていませんでした。看護師が活動量と栄養量のバランスを見直していれば未然に防ぐことができたはずです。

若林 リハ強度と栄養量のバランスを他職種が常に把握できているとは限りません。全身的なケアに当たる看護師こそ,積極的に栄養改善をめざす「攻めの栄養管理」にもっとかかわってほしいです。リハ栄養の見地から,「リハ強度に合わせて栄養を改善するために栄養量を何kcal増やすべきだ」と多職種で協力していきましょう。

 栄養管理を中心に話してきましたが,リハの面からはいかがでしょう。一部の患者さんは治療のために入院中は安静にすべきという観念を持っています。看護師が積極的に介入しないと患者さんが一日中ベッドで寝て過ごすという状況が起こり得ますよね。

 そうです。それが筋量・筋力に悪影響を及ぼします。これは急性期病院の看護師全員に,当然のこととして認識してもらいたいです。

若林 患者さんの活動量を上げるために,何をできるでしょうか。

荒木 例えば排泄時にトイレへの誘導を行うなど,日常生活の支援が挙げられます。リハ職によるリハは重要ですが,看護の一環で身体活動を高める工夫も求められます。

 当院では立ち上がり訓練などの運動や院内の売店で好きな物を買って食べてもらうことを推奨しています。患者さんと話し合うことに加え,家族など周囲の人の理解と協力を得ることも大切です。

若林 身体機能改善をめざす,看護師による積極的な「攻めのリハ看護」の提供に期待します。機能低下予防をリハと栄養の両輪で考えていく。ここに看護師の意識改革が求められます。

退院後を見据えた組織的な取り組みを

若林 リハ栄養は中長期にわたる取り組みです。看護師個人の努力だけでは限度があり,看護部の組織的な実践も必要です。リハ栄養への取り組みをどう考えていけばよいでしょうか。

荒木 サルコペニアは何より予防が重要ですので,常に適正な状態をめざす「目標設定型」で考えるべきです。入院患者全員に対してリハ栄養の見地から体重などを管理する。管理栄養士やNSTが全ての患者さんをフォローできるわけではないので,お任せする意識ではいけません。

 同感です。目標設定型の考え方を持ち,より良い状態をめざして医師や管理栄養士など他職種に働き掛けていく必要があります。

荒木 しかしながら,摂食嚥下,褥瘡予防,転倒・転落予防と違い,栄養管理が看護目標として入っていない場合も多くあります。

若林 医原性サルコペニアの予防に努める実践は,転倒・転落,褥瘡,摂食嚥下障害を減らすなど医療安全にもつながります。摂食嚥下障害の原因の一つはサルコペニアだと明らかになっており,適切な栄養管理は患者さんだけでなく,病院や看護部にとってのメリットにもなります。

荒木 栄養管理が不十分な患者さんをNSTにつなぐためのかかわりなど,看護管理者を中心に看護部を挙げた取り組みが必要でしょう。

若林 そのために,まずは看護師が栄養管理の内容を把握することが第一で,それとともに看護部による中長期のリハ栄養の目標設定と,到達までの方略づくりが課題と言えます。

 当院でも個々の患者さんに対して目標体重やめざす状態を看護計画に記入し,看護過程を展開出来るように取り組み始めたところです。測定した情報をリハ栄養の観点から看護に生かすため,目標を明確化していきたいです。

若林 患者の機能,ADL,QOL向上が栄養管理の最終目標であることを考慮して,検査値や体重などの中間目標を立ててほしいと思います。目標を設定し,評価をしていく上では,どのような工夫が必要ですか。

荒木 中長期的に状態を見ていくために,急性期病院の入院時から継続的に追跡することです。

若林 多忙な中ですから,簡便かつ変化を確認できる指標がよいですね。

荒木 体重や食事摂取量の増減だけでなく,例えば下腿周囲長を入院時から週1回測り,推移を把握することなどはいかがでしょう。

若林 有効だと思います。下腿周囲長は栄養状態の推移だけでなく,サルコペニアのスクリーニング(男性30 cm以下,女性29 cm以下,Ann Nutr Metab. 2017[PMID:28647743])も可能です。他にも血圧測定時に上腕周囲長を測るのもよいと思います。

 当院では入院時の主観的包括的評価(SGA)で体重と上腕周囲長を計測し,その後体重を週1回測定しています。リンクナースを配置し,入院時から体重に大きな増減があればNSTにつないで,栄養アセスメントを徹底する意識を持たせています。

荒木 直近からの変動だけではなく,中長期の傾向が見えていて見習いたいです。サルコペニア予防のためには,継続的なスクリーニングシステムを地域包括ケアシステム全体で取り入れるべきです。特に,急性期病院の退院時に回復期リハ病院や在宅に,急性期病院入院時からの変化と評価指標を引き継いでいくことが求められます。医原性サルコペニアを作らない療養生活には,急性期から地域生活期までを通して,看護師がリハ栄養の視点を持ち,同じ指標で継続的に見ていくことが大切なのです。

 ナイチンゲールやベナー,ヘンダーソンなど多くの看護理論家は古来,栄養管理を療養上の世話として大切にしてきました。看護師や看護管理者にあらためて認識してほしいのは,看護師が栄養管理を行うのは当たり前だということです。

荒木 栄養が患者さんに及ぼす影響を理解し,看護にどう位置付けるか。入院してきた患者さんをどんな状態で退院させるかを今一度考え直してください。急性期病院から回復期リハ病院,在宅まで医原性サルコペニアを作らないケアを提供するために,看護師全員が役割を果たすことが求められています。

若林 リハ栄養は医師,管理栄養士,理学療法士など多職種がかかわるものです。看護師にはこれらの職種と協働し,つないでいくという重要な役割があります。医原性サルコペニア根絶に向け,リハ栄養の知見を持って一緒に行動を起こしましょう。

MEMO サルコペニアとリハビリテーション栄養(リハ栄養)

 サルコペニアは「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけられる症候群で,身体機能障害,QOL低下,死のリスクを伴うもの」と定義される(Age Ageing. 2010[PMID:20392703])。症候は身体機能低下(歩行速度0.8 m/秒以下),筋力低下(握力男性26 kg未満,女性18 kg未満),筋量減少の3つ(J Am Med Dir Assoc. 2014[PMID:24461239])で,原因は表の4つにまとめられる。最近,医原性サルコペニアと言われているのは2次性のうち医療介入による低栄養,低活動が引き金となった場合である。リハ栄養は,「リハなくして栄養なし」「栄養なくしてリハなし」というリハと栄養のバランスを重視する考え方。回復期リハ病院・施設の入院・入所高齢者の約5割,急性期病院の高齢入院患者の3~5割に低栄養やサルコペニアがあるとされ,リハ栄養実践でその数を減らせると考えられている。

サルコペニアを防ぐ! 看護師によるリハビリテーション栄養』(医学書院)の表を改変(クリックで拡大)

(了)

●第3262号(2018年2月26日発行)より,本座談会出席の三氏を含む執筆陣の連載が開始! 看護師によるリハビリテーション栄養の具体的な介入例を提示します。


わかばやし・ひでたか氏
1995年横市大医学部卒,2016年慈恵医大大学院医学研究科臨床疫学研究部修了。横浜市立脳血管医療センター(当時)リハビリテーション科,済生会横浜市南部病院リハビリテーション科などを経て,08年より現職。日本リハビリテーション栄養学会理事長,日本サルコペニア・フレイル学会理事。

あらき・あきこ氏
1988年千葉大看護学部卒,2000年同大大学院看護学研究科修了。千葉リハビリテーションセンター,岩手県立大看護学部助教授,千葉大看護学部准教授などを経て,08年より千葉リハビリテーションセンター副看護部長,13年に同センター看護局長。17年より現職。看護学博士。NPO法人日本リハビリテーション看護学会理事長。

もり・みさこ氏
1990年神奈川県立衛生短大(当時)卒。同年より聖マリアンナ医大横浜市西部病院救命救急センターに勤務。外科,脳神経センターなどを経て,2010~15年にはNST専従者として従事。日本静脈経腸栄養学会代議員,神奈川栄養サポートナースの会会長。NST専門療法士,急性・重傷患者看護専門看護師。

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