人口減少時代の看護師確保の取り組み
寄稿 木村 緑
2025.03.11 医学界新聞:第3571号より
2024年3月,八戸学院大学健康医療学部看護学科と青森県むつ市は,青森県の下北圏域における看護師不足解消のため,むつ市内に看護学科に特化した「八戸学院大学むつ下北キャンパス」(図)を設置する包括連携協定を締結した。2025年4月からの開設に向け,現在準備を進めている。

同キャンパスは看護師・保健師国家試験の受験資格取得をめざす学生を受け入れ,下北地域の保健医療活動,健康増進に看護の実践者として貢献できる人材を育成することを目的としている。
◆人口減少と看護師不足の深刻化
開設に至る背景には青森県の人口減少および看護師確保の問題がある。青森県の総人口は2020年時点で約123万8000人1)であったが今後も減少傾向が見込まれ,2045年には約83万3000人ほどになると推計されている2)。また,人口減少に伴い高齢化も全国平均より速く進行している。このような急激な環境変化に対応するには,その地域にふさわしいバランスの取れた医療・介護サービスの提供体制の構築と,その担い手である看護師の確保が必要となってくる。
下北地域保健医療圏で唯一の中核病院である下北医療センターむつ総合病院は看護師不足が顕著であり,その解消は喫緊の課題とされてきた。むつ市を含む下北圏域では,2004年に県立田名部高等学校衛生看護科が閉科となって以来,看護師養成所の空白地帯となっていたため,看護師を志望する学生は,圏域外へ転出する必要があった。一度圏域外へ転出した学生が再びむつ市に戻ってくる割合は低いのが現実だ。本学でも教育目標の1つに「医療過疎地やへき地など地域特性の理解のもと,地域の看護活動に関する研究に積極的に取り組むことのできる看護師・保健師を養成する」ことを掲げているが,毎年,一定数の卒業生は県外に就職している現状にある。
このように,本学とむつ市が抱える課題は共有できる部分が存在していた。加えて,むつ総合病院と本学は2009年に看護学実習病院の協定を結んだことが縁となり,就職や臨床看護師に関する講義を設けるなど,看護教育における協働の実績と信頼関係があったことが,今回の連携実現につながった。
◆むつ下北キャンパスから地域で活躍する看護師を
同キャンパスではオンライン講義とともに本学の拠点である美保野キャンパスでの対面講義を週2回実施し,臨地実習はむつ総合病院をはじめとするむつ市内の施設等で実施する予定である。また,むつ市は一部事務組合下北医療センターと協力し,同キャンパスで学ぶ学生に対し入学金と学費の全額を貸与し,卒業後むつ総合病院で10年間勤務することで返済を全額免除する新たな修学資金貸与制度を設けるなど,看護師をめざす学生の経済的負担や自宅からの通学負担の軽減にも対応している。
「八戸学院大学むつ下北キャンパス」の開設は,下北圏域やその近隣で看護師をめざす学生が地域で学び,地域医療を支える仕組みを創出する大きな一歩である。今後人口減少が進み全国で看護師不足の問題が生じた際には,本取り組みが対応策のモデルとなり得るだろう。
参考文献・URL
1)総務省統計局.令和2年国勢調査.2021
2)国立社会保障・人口問題研究所.日本の地域別将来人口〔令和5(2023)年推計〕.2023

木村 緑(きむら・みどり)氏 八戸学院大学健康医療学部看護学科 教授
2005年4月より臨床看護師として青森県内の精神科病院に勤務し,12年八戸学院短大看護学科専任講師に着任。16年より八戸学院大健康医療学部看護学科講師を務め,23年4月より同大教授として精神看護学領域に携わる。24年からは同大むつ下北キャンパスプロジェクト委員として「八戸学院大学むつ下北キャンパス」設立の準備に携わる。博士(社会医学)。
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