医学界新聞プラス
[第1回]爪が黄色いだけで!?
『総合内科対策本部 これってどうする!?』より
連載 山本晴香,横江 正道
2024.06.19
総合内科対策本部 これってどうする!?
「微熱の原因は?」「リンパ節が腫れています」「両足がむくみます」「爪が黄色いです」「鎖骨が盛り上がっています」「眉毛も髪も薄いです」「目が赤いですが,痛くありません」「交通事故を繰り返しています」「手の爪が水虫です」「ワクチン接種後、調子が悪いです」「原因不明のCRP高値です」「腫瘍マーカー高値です」「T-SPOT陽性です」「尿の色がおかしいです」……このたび刊行された『総合内科対策本部 これってどうする!?』では,総合内科に寄せられるさまざまな難症例・珍相談に応えています!
「医学界新聞プラス」では,本書より4症例をピックアップし,ご紹介していきます。
症例
患者 71歳,男性。
総合内科への紹介目的 咳,痰。
紹介状内容 当院は内科も診療しているペインクリニックです。患者さんは7~8年前から咳,痰が多くなり,他の呼吸器専門の医院でみてもらっていたようです。1年前に他院で副鼻腔炎の治療(内服,処置)をしましたが,改善しません。まだ一度も胸部CTなどの精査を受けたことがなく,総合病院での精査を勧め,ご紹介させていただきました。
総合内科医の第一声 ちょっと言わせて!
咳と痰で紹介されたけれど,一目瞭然! 一度見たら,二度と忘れない。
対策本部としての初動態勢
症状の特性を理解する
慢性的な痰,咳嗽の呼吸器症状,副鼻腔炎があり,慢性気道感染がある背景の患者での黄色爪。
心構え
黄色爪と慢性気道感染は関連する!?
これってどうする!? 総合内科
- GIM 咳や痰が7~8年前から多くなってきたとのことですが,どれくらい咳,痰はありますか?
- 患者 ここ数年は1日中続いています。
- GIM それは大変ですね。その症状もあって呼吸器のクリニックに通院されていましたね。具体的にどんな治療をしていましたか?
- 患者 (お薬手帳を提示しながら)喘息もあるからと吸入薬のビランテロール/フルチカゾン(レルベア®)とモンテルカスト(キプレス®)をもらっていました。痰も多かったので去痰薬(カルボシステイン)ももらっていましたが,あまり効きませんでした。
- GIM お薬手帳によると,ステロイドと抗菌薬も2週間程度飲まれていましたね。効果はいかがでしたか?
- 患者 一時は痰は減りましたが,飲み終わったらまた元どおりでした。
- GIM 症状が続いて大変でしたね。他に新しく始めた薬はありますか?
- 患者 特に,それ以外はないです。
- GIM 朝起きた時に関節の痛みはありますか?
- 患者 ないです。
- GIM 見る限り,関節の腫れもなさそうですね。(お,これは!?) あと,この爪(図1)はいつからですか?
- 患者 2年前くらいからですね,その際は爪の水虫と言われて,飲み薬で治療を1年半していました。
- GIM 治療してよくなりましたか?
- 患者 水虫自体は改善しました。ただ,この爪の感じは変わらないです。あと,その頃から爪の伸びが遅くて爪をあまり切らなくなりました。
- GIM 足のむくみがありますが(図2),これはいつからですか?
- 患者 これは半年前からあります。
- GIM なるほど,これらの症状があり,気道感染や副鼻腔炎もあるとなると,ある病気が考えられます。胸のX線やCTを撮影しますね。
詳しい病歴聴取や身体診察を行うことで,病気がみえてきた。
既往歴 小児期から慢性副鼻腔炎で加療中。7年前に肺炎に2回罹患。気管支喘息,高血圧症。胆管の手術歴(良性疾患)あり。
処方薬 アムロジピン,エチゾラム,ブロチゾラム,モンテルカスト,カルボシステイン,フルチカゾン点鼻液,ビランテロール/フルチカゾン吸入薬。
社会歴 喫煙:40本/日×45年(20~65歳)。飲酒:ビール350mL/日×週3日。粉塵曝露歴なし,ペットなし,海外渡航歴なし。妻と長女との三人暮らし。子どもは長男,長女。特に呼吸器の症状はなし。
身体所見 血圧123/77mmHg,脈拍74/分,呼吸数16回/分,体温36.7℃,SpO2 98%(room air)。意識清明,会話問題なし,肥満なし(167cm,58kg)。心音:整,雑音なし。呼吸音:ラ音,肺副雑音の聴取なし。両側に下腿浮腫を認める(図2)。爪:黄色爪(図1, 2)。
画像所見 胸部X線では異常を認めなかったが,胸部CTでは右下葉枝気管支拡張像を認めた。
初期対応をするうえで必要な基礎知識
本症例のような,①成長速度の遅い(0.2mm/週以下)黄色爪,②慢性呼吸器疾患(胸水貯留,慢性気管支炎,気管支拡張症,器質化肺炎,再燃性肺炎),③リンパ浮腫,の3徴候を認めた場合,黄色爪症候群と定義される。
この3主徴がそろうのは黄色爪症候群の半数程度であり,症状は数か月から数年にかけて出現することもある。また,黄色爪は出現と消退を繰り返す場合があり,必ずしも3主徴は同時期に認められない。
診断としては成長速度の遅延した黄色爪(爪甲全体が黄色ないし黄褐色,緑黄色),下肢のリンパ浮腫(足首近く),肺病変があれば確定するが,黄色爪を含む2徴候でも黄色爪症候群と診断される場合が多い。
初動に続く対応 基本計画・応急対策
黄色爪症候群は知っていれば,確定診断につながる。また,薬剤性や全身疾患に伴う場合もあり,さらなる精査が必要となってくる。
対応のまとめ
総合内科での外来診療では経過,治療のフォローアップが困難であると判断し,追加の血液検査,画像検査を施行のうえ,呼吸器内科医に紹介した。なお,フォローしていくなかでX線やCTに経年変化がみられた(図3,4)。長期にわたってフォローしていくことが大切である。
最 終 診 断
黄色爪症候群
類似症例に対応するためのステップアップ
鑑別疾患として,薬剤性があり,抗リウマチ薬(ペニシラミン,ブシラミン,金製剤),テトラサイクリン,アテブリン(合成マラリア治療薬)の内服,グルタルアルデヒドやアクリノールの付着を確認する。
また関連性は明らかではないが,全身性疾患に伴う場合として,関節リウマチ,レイノー病などの膠原病,ネフローゼ症候群,内分泌疾患,悪性腫瘍,HIV感染,結核感染,真菌感染,免疫異常などの報告がある。乳がん,胆嚢がんなどの悪性疾患の前駆症状として出現する場合もある。
黄色爪症候群の病態機序は不明であるが,先天性のリンパ管形成不全による還流障害,抗リウマチ薬による後天性なども知られ,副鼻腔炎や気管支拡張症などの上下気道の慢性感染症との関連も示唆されている。黄色爪症候群を診断して満足するのではなく,背景を考えることが大切である。
総合内科対策本部として次につながる tips
黄色爪症候群は,疾患概念を知っていればsnap diagnosisで診断がつく。隠れている背景疾患を想起して病歴聴取,追加検査を行い,criticalな疾患を見逃さないようにすることが,次への対策になる。
- 文献
- 1) 東禹彦:爪―基礎から臨床まで,改訂第2版.金原出版,2018.
- 2) 皿谷健:一目瞭然!目で診る症例.日内会誌105:1069-1071, 2016.
- 3) 斎藤昌孝:全身性疾患に伴ってみられる爪の変化.杏林医会誌49(2):169-172, 2018.
(山本晴香)
総合内科対策本部 これってどうする!?
総合内科って、大変だけど面白い。難症例も珍相談も、どんとこい!
<内容紹介>「微熱の原因は?」「リンパ節が腫れています」「両足がむくみます」「鎖骨が盛り上がっています」「眉毛も髪も薄いです」「目が赤いですが,痛くありません」「交通事故を繰り返しています」「手の爪が水虫です」「ワクチン接種後、調子が悪いです」「原因不明のCRP高値です」「腫瘍マーカー高値です」「T-SPOT陽性です」「尿の色がおかしいです」……『総合内科対策本部 これってどうする!?』では,総合内科に寄せられるさまざまな難症例・珍相談に応えます!
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