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『こんなときどうする!? 整形外科術後リハビリテーションのすすめかた 第2集』より

連載 三木 貴弘 ,渡邊 勇太,野村 勇輝,本村 遼介,鈴木 智之

2024.07.12

主要な整形外科疾患の「術後リハビリテーション」にスポットを当て、機能解剖や手術法の知識から、評価や介入の方法に至るまで時系列に沿って多角的に解説し、好評を博した書籍の第2弾『こんなときどうする!? 整形外科術後リハビリテーションのすすめかた 第2集』がついに刊行されました。前作で紹介できなかった13の重要疾患を収載し、臨床で誰しもが遭遇するであろうさまざまな“こんなときどうする!?”に対し、具体的な解決策を提示します。

 

今回の医学界新聞プラスでは,本書の中から「半月板損傷」について,時系列に沿った部位ごとのリハビリテーションの方法を3週にわたって紹介していきます。

1 Week ~

膝屈曲の可動域練習
  • (1)目的
  • ● 膝屈曲ROMの獲得
  • (2)ポイント
  • ● 半月板は膝屈曲に伴い後方に変位するため47,49-52),術後プロトコルに沿って段階的にROMを拡大する.
  • ● 他動運動を行う際にしっかりと大腿部・下腿部を把持し,筋緊張を確認しながら,正常な関節運動を意識して行う.
  • ● 筋緊張が強い場合は,なるべく下肢との接触面積を多くするよう心掛ける.または,端座位など大腿部の緊張が抜けやすい状態で行うことも方法の1つである.
  • ● 他動運動で膝屈曲ROMを確保した後,自動介助運動から開始し,徐々に自動運動へと進めていく.
  • (3)方法
  •  ①療法士による他動運動
  •  1)前腕で下腿部を包み込むように把持し,もう一方の手で大腿部を把持する.
  •  2)大腿部の手で股関節の位置を固定し,下腿部の手で脛骨の動きを誘導する.筋緊張を感じながら関節の軸を意識し,愛護的に行う.
  •  ②ヒールスライド(図20)
  •  1)患者自身に大腿後面を把持させる.下腿三頭筋の緊張を取り除くため足関節背屈位にならないように注意する.
  •  2)把持した大腿部を手前に引きながら膝関節を屈曲させる.股関節や下腿の代償運動に注意しながら行う.動作中に下腿外旋位になる場合は,脛骨近位前内側を持ち,脛骨を内旋しながら屈曲運動を実施するとよい.
歩行練習(1/2荷重)
  • (1)目的
  • ● 両松葉杖歩行(1/2荷重)の獲得
  • (2)ポイント
  • ● 荷重時痛の有無や動作パターン,荷重量を確認しながら,歩行練習を段階的に進める.
  • (3)方法
  • ● 平行棒内に体重計を設置して,1/2荷重(体重の半分)の感覚を練習する.
  • ● 平行棒内で両手支持にて歩行練習(1/2荷重)を行う.
  • ● 平行棒内での歩行(1/2荷重)が安定したら,両松葉杖を使用して歩行練習を行う.
他部位(足部)の筋力トレーニング
  • (1)目的
  • ● 下肢筋力の維持・向上
  • (2)ポイント・方法
  • ● 図21を参照.
  •  
どうする2-2図20.png
図20 ヒールスライド
a:セルフでのヒールスライド,下腿三頭筋の緊張を取り除くため,足関節背屈位にならないように注意する.
b:下腿外旋による代償運動.
c:股関節内転/内旋位+下腿外旋による代償運動.
どうする2-2図21.png
図21 足部(足趾)トレーニングの例
a:タオルギャザー.足趾を屈曲させながらタオルを引き寄せる.
b:ショートフットエクササイズ.母指球/小指球を踵に近づけアーチを挙上させる.
※ b の別法:足指を伸展させてアーチを挙上させてその状態を維持しながら足指だけを接地させる.

2 Week ~

歩行練習(全荷重)
  • (1)目的
  • ● 独歩の獲得
  • (2)ポイント
  • ● 荷重時痛の有無や動作パターン,荷重量を確認しながら,歩行練習を段階的に進める.
  • (3)方法
  • ● 平行棒内に体重計を設置して,全荷重の感覚を練習する.
  • ● 平行棒内で両手/片手支持にて歩行練習を行う.
  • ● 平行棒内での歩行(片手支持)が安定したら,片松葉杖→独歩へと進めていく.
  •  
両脚カーフレイズ
  • (1)目的
  • ● 下腿三頭筋の強化
  • (2)ポイント
  • ● 下腿三頭筋は,ジョギングやランニング,ジャンプの着地動作での衝撃吸収において重要な役割を果たす.
  • ● 体幹前傾による代償動作が生じやすいため,身体が上方へ持ち上がるように意識しながら行う.
  • ● 踵挙上時に小指荷重(外側荷重)になりやすいため,母趾屈筋群を意識しながら行う.
  • (3)方法
  • ● 壁や平行棒などにつかまって,踵を最大まで上げるように行う(図22)
  •  
大腿四頭筋の筋力トレーニング
  • (1)目的
  • ● 大腿四頭筋の強化
  • (2)ポイント
  • ● 可及的早期に膝伸展0°を獲得し,膝伸展不全(ラグ)が出ないように内側広筋の筋収縮を意識しながら,大腿四頭筋の筋力トレーニングを行う.
  • ● 内側広筋の収縮感が得られにくい場合は,神経筋電気刺激を併用して行う.
  • ● 求心性収縮だけではなく,遠心性収縮がしっかりと行えているかどうかを確認する.
  • ● 高負荷でのトレーニング(徒手抵抗や重錘,セラバンドなどの使用)では,半月板に加わる圧縮ストレスが増加する可能性が高い.したがって,半月板縫合部の力学的強度が高まってくると考えられる術後2~3か月以降より,段階的に負荷をかけながら大腿四頭筋の筋力トレーニングを行う.
  • (3)方法
  • ● 端座位で膝伸展自動運動を行ったり(➡『こんなときどうする!? 整形外科術後リハビリテーションのすすめかた 第2集』376ページ),両脚立位で大腿四頭筋セッティングを行う.
  •  
どうする2-2図22.png
図22 両脚カーフレイズ
下腿三頭筋の筋収縮を確認する.過度に体幹が前傾しないように注意する.小趾荷重になりやすいため母趾荷重を意識する.
必要に応じて装具を着用しながら実施する.腹圧を適切に コントロールしながら実施する.
ヒップヒンジ
  • (1)目的
  • ● 股関節屈曲(骨盤前傾)運動の再学習
  • (2)ポイント
  • ● ハムストリングスの柔軟性低下によって股関節屈曲(骨盤前傾)運動が減少するため,あらかじめハムストリングスのストレッチを十分に実施しておく.
  • ● 体幹中間位を保持しながら行う.腹圧コントロール不良に伴う過度な腰椎伸展運動や,股関節屈曲不足に伴う過度な腰椎屈曲運動が生じないように注意する.
  • (3)方法
  • ● 端座位や立位にて,体幹中間位を保持しながら骨盤を前傾させる(図23)
  •  
他部位(体幹)の筋力トレーニング
  • (1)目的
  • ● 体幹筋力の維持・向上
  • (2)ポイント・方法
  • ● 図24を参照.
  •  
退院時指導
  • (1)目的
  • ● 退院(術後2~3週以降)の際に,自宅でも行えるようなセルフトレーニングやストレッチを指導する.
  • (2)ポイント・方法
  • ● 退院後の社会生活により活動量が増加し,一時的に膝関節周囲の腫脹や関節水腫が増加することが多い.
  • ● 患者自身が腫脹や関節水腫の程度をチェックできるように指導し,必要に応じて自分で活動量をコントロールしてもらうように指導する.
  • ● 退院後の診察時(4週以降)に,医師の指示のもと装具を除去する.
  • ● 術後3か月以内をトレーニング前期と位置づける.
  • ● 組織の治癒過程を考慮したプロトコル(Time-based protocol)と運動課題をクリアしながら段階的に負荷を上げていくトレーニング(Task-based progression)を組み合わせて,術後リハビリテーションを進めていく.
  • ● 片脚支持での動作練習を徹底して行い,姿勢制御機能(特に足部アーチや股関節回旋コントロールの機能)を向上させる.
  • ● ジョギング開始に向けて,衝撃吸収機能(股関節や膝関節の伸展筋,足関節底屈筋の筋力,各筋の遠心性収縮の機能)を向上させる.

 

  •  
どうする2-2図24.png
図23 ヒップヒンジ
a:端座位.体幹中間位のまま骨盤を前傾させる.
b:立位.〔注意すべき代償運動〕体幹:腰椎の伸展や屈曲.
どうする2-2図23.png
図24 サイドプランク
肘は肩の真下に置き,腹圧を保ち体幹を一直線にする.必要に応じて装具着用しながら実施する.腹圧を適切にコントロールしながら実施し,代償運動が出ないように注意する.
〔注意すべき代償運動〕肩:非支持側の肩甲帯プロトラクション.体幹:胸腰椎/骨盤の回旋,腰椎の伸展,股関節:屈曲.
  • 文献
  • 47)Vedi V, Spouse E, Williams A, et al:Meniscal movement:an in-vivo study using dynamic MRI. J Bone Joint Surg Br 81:37-41, 1999
  • 49)Thompson WO, Thaete FL, Fu FH, et al:Tibial meniscal dynamics using three-dimensional reconstruction of magnetic resonance images. Am J Sports Med 19:210-216, 1991
  • 50)Yao J, Lancianese SL, Hovinga KR, et al:Magnetic resonance image analysis of meniscal translation and tibio-menisco-femoral contact in deep knee flexion. J Orthop Res 26:673-684, 2008
  • 51)Kim E, Kim YJ, Cha JG, et al:Kinematic change of the meniscus and the tibiofemoral joint space in asymptomatic volunteers using a wide bore 3T closed MRI system. Skeletal Radiol 44:1441-1451, 2015
  • 52)Yamamoto T, Taneichi H, Seo Y, et al:MRI-based kinematics of the menisci through full knee range of motion. J Orthop Surg(Hong Kong)29:1-8, 2021
 

「こうすればいいのか!」。
術後リハってやっぱりこんなに奥深い。

<内容紹介>主要な整形外科疾患の「術後リハビリテーション」にスポットを当て、機能解剖や手術法の知識から、評価や介入の方法に至るまで時系列に沿って多角的に解説し、好評を博した書籍の第2弾『こんなときどうする!? 整形外科術後リハビリテーションのすすめかた 第2集』がついに刊行されました。前作で紹介できなかった13の重要疾患を収載し、臨床で誰しもが遭遇するであろうさまざまな“こんなときどうする!?”に対し、具体的な解決策を提示します。

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 < 第1集はこちら! >

 

 

術後リハで起こるどんなイレギュラーにも慌てない!

 

<内容紹介>腰椎椎間板ヘルニア,変形性股関節症,橈骨遠位端骨折……本書は,整形外科領域のリハビリテーションを担当する療法士に馴染み深い代表的な疾患について,術後リハビリテーションに焦点を当てて,時系列に沿いながら多角的に解説する。
また,多くの療法士が持つ悩みを熟知した経験豊富な執筆陣により,臨床で誰もが一度は遭遇するであろう“こんなときどうする!?”をピックアップし,具体的な解決策を提示する。

 

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