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『これだけは気をつけたい! 高齢者への薬剤処方 第2版』より

連載 矢吹拓(国立病院機構栃木医療センター・内科副部長/内科医長)

2024.03.15

 超高齢社会がますます進展する現在,診療科を問わず高齢者への適切な薬物治療に関する知識は必要になっています。新刊『高齢者への薬剤処方 第2版』は,高齢者に不適切な可能性のある薬剤の基準である米国Beers Criteriaの「日本版」として,最新の医薬品情報を盛り込み,この度初版から10年ぶりに改訂されました。プライマリ・ケア領域の医師・薬剤師を対象に,高齢者のコモンな内科疾患から,腎機能低下時,メンタルヘルスまで,幅広い知識が詰め込まれています。
  「医学界新聞プラス」では本書のうち,「改訂版の意義と特徴」「心血管系薬 高齢者に不整脈薬物治療を行ううえでの注意点」「プラゾシン」「メトクロプラミド」の内容を一部抜粋し,全3回にてご紹介します。

6.制吐薬 メトクロプラミド

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おもな商品名(会社名) 
プリンペラン(日医工) 5mg  2% 20mg/g  0.1% 1 mg/mL

薬剤情報
【効能・効果】 消化器機能異常:胃炎,胃・十二指腸潰瘍,胆囊・胆道疾患,腎炎,尿毒症,乳幼児嘔吐,薬剤投与時,胃内・気管内挿管時,放射線照射時,開腹術後.X 線検査時のバリウムの通過促進
【用法・用量】 1日10〜30 mg, 1日2〜3回に分服 食前.
【使用上の注意】 禁忌 褐色細胞腫の疑い,消化管の出血・穿孔・器質的閉塞
【重大な副作用】 ショック,アナフィラキシー,悪性症候群,意識障害,痙攣,遅発性ジスキネジア
【高齢者への注意】 副作用(錐体外路症状等)の発現に注意し,用量並びに投与間隔に留意するなど慎重に投与すること.本剤は,主として腎臓から排泄されるが,高齢者では腎機能が低下していることが多く,高い血中濃度が持続するおそれがある.

中止する際の注意点

 メトクロプラミドはドパミンD2受容体遮断薬である.嘔吐中枢である化学受容体のセロトニン受容体を遮断し,上部消化管の運動性を高めることで胃排出を促進して,下部食道括約筋の緊張を高めるとされている.メトクロプラミドに伴う有害事象は内服開始から5日以内に発症することが多い1)ため,処方開始5日間は特に注意して経過をみる必要がある.有害事象が出現した場合には速やかに中止すべきである.早期に中止すれば有害事象は可逆的である.中止にあたって,一般的にはそのまま中止して問題はないが,処方期間が12週間を超えるような長期間にわたる場合や,処方用量が多いときには,離脱症状の可能性も考慮して漸減・中止を検討してもよい.

投与を避けるべき理由

 メトクロプラミドを避けるべき理由として以下の有害事象が挙げられる.
①中枢神経有害事象
 中枢神経作用の結果,傾眠,疲労感,倦怠感,めまいなどの中枢神経症状が出現する可能性がある.使用開始から5日以内(中央値1日)に生じる可能性があり1),添付文書上では自動車運転などの危険を伴う機械操作に従事させないようにと記載されている点にも注意が必要である.特に高齢者や中枢神経抑制薬を内服中の患者,腎機能低下のある患者では慎重に投与を検討する.
②錐体外路症状
 薬物誘発性の錐体外路症状が多く報告されており,内服開始早期には急性ジストニアやアカシジア,12週間を超えるような慢性期には薬剤性パーキンソニズムや遅発性ジスキネジアが報告されている2).特に薬剤性パーキンソニズムは,メトクロプラミド処方後に有意に抗パーキンソン薬が処方されることが疫学的にも示されており,「処方カスケード」の1つとされている3,4).​​​​​​​
③高プロラクチン血症
 ドパミンには視床下部からのプロラクチン抑制因子の放出を促進する作用があるため,ドパミン受容体遮断薬はプロラクチン分泌の抑制がなくなり高プロラクチン血症をきたし得る.その結果として,乳汁分泌や無月経,女性化乳房,勃起不全が報告されている.​​​​​​​
④特定の背景を有する患者
 褐色細胞腫の疑いのある患者では,ドパミン作用によって急激な血圧上昇が懸念されるため禁忌とされている.また,器質的な消化管閉塞や穿孔,活動性出血が疑われる場合には,消化管運動亢進作用によって症状を悪化させる可能性があり,やはり禁忌とされている.また,小児では錐体外路症状が発現しやすいため,可能な限り使用すべきではない.代謝はCYP3A4であり,各種薬剤との併用に注意する必要がある.​​​​​​​

代替薬とその使用方法

①代替薬
ドンペリドン
 メトクロプラミドは一般的には種々の原因による悪心・嘔吐に対する対症療法薬として使用されていることが多い.原疾患によって代替薬は異なるが,一般的な悪心・嘔吐に対する対症療法薬であれば,ドンペリドンが代替薬として用いられることが多い.ドンペリドンはメトクロプラミドと同様にドパミン受容体遮断薬であり,消化管の運動性を高め制吐作用を発揮するが,脳内移行が極めて低いため,メトクロプラミドのような中枢神経有害事象は少ないことが知られ.

②代替薬の使用方法
ナウゼリン錠(5 mg) 1回1錠 嘔気時
 製剤として経口剤以外に坐剤が使用可能である.

③代替薬使用の注意点
 中枢神経有害事象は少ないとはいえ,1回5 mgなど少量から開始する.長期使用の結果で生じる可能性があるため,使用期間は必要最小限とすべきである.また,メトクロプラミドとは異なり重篤な心室性不整脈や心臓突然死などの心臓伝導系の有害事象との関連が報告されており,30 mg/日を超えないように推奨されている.また,CYP3A4代謝でもあるため,メトクロプラミドと同様に併用薬剤にも注意が必要である.

  • 参考文献
  •     1) Svendsen K, et al:Reported time to onset of neurological adverse drug reactions among different age and gender groups using metoclopramide:an analysis of the global database Vigibase. Eur J Clin Pharmacol 74(5):627-636, 2018 [PMID:29290074]
  •     2) Al-Saffar A, et al:Gastroparesis, metoclopramide, and tardive dyskinesia:Risk revisited. Neurogastroenterol Motil 31(11):e13617, 2019 [PMID:31050085]
  •     3) Avorn J, et al:Increased incidence of levodopa therapy following metoclopramide use. JAMA 274(22):1780-1782, 1995 [PMID:7500509]
  •     4) Huh Y, et al:Metoclopramide and Levosulpiride Use and Subsequent Levodopa Prescription in the Korean Elderly:The Prescribing Cascade. J Clin Med 19;8(9):1496, 2019 [PMID:31546900]
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高齢患者の薬物治療をアップデート!米国Beers Criteriaの日本版

<内容紹介>米国Beers Criteriaの日本版が、最新の医薬品情報を盛り込み初版から10年ぶりに改訂した。超高齢社会の今、高齢者への適切な薬剤処方の知識は診療科を問わず不可欠になっている。プライマリ・ケア領域の医師・薬剤師を対象に、高齢者のコモンな内科疾患から、腎機能低下時、メンタルヘルスまでカバーし、高齢者の薬物治療をアップデートできる内容に大幅改訂。医薬品使用時の重篤度と判定理由を示し、代替薬の使用方法や、やむを得ず使用する際の注意点など、診療場面で判断に迷うポイントを厚く解説している。

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