ハワイ州におけるCOVID-19対応
社会の多様性を尊重した健康危機管理をめざして
寄稿 岡田悠偉人
2024.06.11 医学界新聞(通常号):第3562号より
筆者はハワイ州による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策チームの一員として,多様な人種と文化が共存する地域の健康危機対策を指揮した。今回はその経験を振り返り,多様化する社会における健康危機管理の視点を共有したい。
ハワイ州におけるCOVID-19対応を時系列に振り返る(表)。2020年2月,日本人観光客がハワイ州における最初のCOVID-19感染者と認定され,3月からは州知事の命令により国際線の停止とハワイ州全土のロックダウンが実行された。ハワイ州住民は高齢者が多く,島しょ群で医療資源が限られているため,その後も最大限の感染対策を講じることが決定された。官民の病院が連携し,病院ごとに機能と汚染度を分けて地域全体でゾーニングする方法が採用され,地域医療管理においては中核病院の緊急でない手術を停止して一部の病床をCOVID-19患者専用とした。また,出生率が高いハワイ州では母子保健の継続も重要であり,公衆衛生機関の役割を再構築し感染対策と並行して対応に当たった。ハワイ州は主要な医療機関の数が少ない反面,各病院に疫学部門があり,スムーズかつスピーディーに感染対策と病床管理を進めることができた。
一方,突然の渡航制限やロックダウンなどの大規模な感染対策による深刻な社会的影響も散見された。州GDPの約25%を占める観光産業が全て停止して失業率は20%まで上昇。学校教育も中断されたので相対的貧困層の児童が給食にアクセスできなくなり,家庭経済と栄養状態が懸念された。こうした背景から,COVID-19対策チームはハワイ州内の健康格差,特に社会的脆弱性を有する層と向き合うことも重要な業務の一つとなり,近隣のクリニックやNPOと協力して食料や生活必需品,教材の配給を行った。
迅速な対応が功を奏し第1波では感染拡大を抑え込むことに成功したが,ロックダウンが解除されて屋外に人が集まるようになると,2020年8月には第2波として感染者数が1日に200例を超えるようになり,ホノルル市による2回目のロックダウンが実施された(写真)。
2020年9月になると感染拡大も落ち着き,COVID-19対策チームの役割も感染対策から社会活動の再開支援へと
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岡田 悠偉人(おかだ・ゆいと)氏 ハワイ大学がんセンターがん疫学部 / 疫学専門家
2008年沖縄県立看護大卒。10年聖路加国際大国際看護学修士課程修了,18年米ハワイ大学公衆衛生学修士課程修了,24年同大疫学博士課程修了。16年より現職。COVID-19流行下ではAmazon日本法人の感染対策責任者を務め,日本では観光庁や青森県のガイドライン作成に携わり,ねぶた祭りを再開させた。
NEW NURSING株式会社代表取締役。
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