第76回日本産科婦人科学会学術講演会開催
取材記事
2024.05.14 医学界新聞(通常号):第3561号より
![3561_0401.png](https://www.igaku-shoin.co.jp/application/files/7617/1530/4887/3561_0401.png)
第76回日本産科婦人科学会学術講演会(学術集会長=東大・大須賀穣氏,右写真)が4月19~21日,大須賀穣会長(東大:右写真)のもと,「ともに歩む,広がる産婦人科の未来へ」をテーマにパシフィコ横浜ノース(横浜市)で開催された。本紙では,生涯研修プログラム「産婦人科における遺伝学的検査」(座長=東大・織田克利氏)の模様を報告する。
◆さらなるエビデンスの拡充と運用体制の整備が望まれる遺伝学的検査の実態
最初に登壇した昭和大の小出馨子氏は,非侵襲性出生前遺伝学的検査(NIPT)に関連する制度および実施体制を主題に発表した。NIPTは2013年に運用が開始されて以降,未認証施設での実施や認証施設の地域偏在が問題視されてきた。こうした課題を解決すべく2022年7月より開始された新たな実施体制下では,出生前検査を希望する妊婦に正しい情報提供と遺伝カウンセリングに基づいたNIPTの提供をより多くの施設で行えるよう制度設計がなされた。
新体制開始後は認証施設数増により検査へのアクセスは改善された一方,妊婦とその家族が出生前検査について正しく理解した上で適切な選択ができるような,継続的かつ専門的なケアの充実については課題が残ると同氏は指摘し,行政や医療機関が妊婦を中心においたサポート体制を構築することが重要だと語る。リーフレットを活用した適切な情報提供,妊婦の不安をくみ取りながらしっかりと受け止め,非指示的な態度で自律的な決定プロセスに寄り添う遺伝カウンセリングマインドを携えた傾聴の姿勢が全ての産科医療機関に求められていると参加者に訴え,発表を終えた。
レディスクリニックコスモス高知の桑原章氏は,着床前遺伝学的検査(PGT)の実施に関するこれまでの経緯と課題を説明した。PGTは重篤な遺伝性疾患の判別を目的としたPGT-M,胚移植1回当たりの妊娠継続率向上を目的として胚の染色体の数を調べるPGT-A,構造を調べるPGT-SRの3種類に分けられ,2022年4月から生殖補助医療が保険適用となったことを背景に,生殖補助医療関連技術として重要な位置を占めている。実際,生殖補助医療による妊娠においてPGT-Aを実施し正倍数性の胚を得られた場合,着床率・流産率は年齢による影響をほぼ受けないことが日本産科婦人科学会のPGT-A特別臨床研究で明らかになるなど,エビデンスも積み上がり始めた。その一方で桑原氏は,「PGTは万能でなく,生殖補助医療における流産率,未着床率については依然として高い」とし,今後さらなるエビデンスの拡充が待たれると締めくくった。
◆全ゲノム解析時代を念頭に置いた遺伝学的検査の臨床実装
「ゲノム情報に基づいたがん発症予防が可能になれば,国民にがんゲノム医療が普及しやすくなる。そのためにも多遺伝子パネル検査(MGPT)の臨床導入は必須だ」と述べたのは平沢晃氏(岡山大)である。MGPTは遺伝学的検査の1つで,がん遺伝子パネル検査とは異なり,生殖細胞系列の遺伝情報のみを調べる検査である。単独遺伝子検査では同定されない遺伝子を同時に検出することができるだけでなく,単独の遺伝子を複数回調べるよりも安価に受検可能だ。
MGPTにはこうしたメリットがあるものの,日本では2024年4月時点で保険診療の適用外であり(註),薬機法の承認を得たMGPTが存在しないなど課題も多いと平沢氏は問題視する。またMGPTをめぐる国内の動向として,日本遺伝性腫瘍学会が2024年度中に遺伝性腫瘍に関するMGPTの症例選択基準や管理指針を定める方針であることや,一部のガイドラインでMGPT推奨が始まっていること,人間ドックでのMGPT導入事例など臨床実装に向けた動きがあることを紹介し,遺伝性疾患に関連して急速に変化する社会情勢や価値観に対応していくことが喫緊の課題であるとの考えを示した。
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