医学界新聞

取材記事

2024.03.25 週刊医学界新聞(看護号):第3559号より

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 第38回日本がん看護学会学術集会が2月24~25日,鈴木久美会長(大阪医薬大:右写真)のもと,「コラボレーション――深化・進化するがん看護」をテーマに神戸国際展示場(神戸市),他にて開催された。本紙では,シンポジウム「次世代のがん医療を支える“多職種協働型人材養成”」(座長=兵庫県立大・川崎優子氏,徳島大大学院・今井芳枝氏)の模様を報告する。

◆がん看護の質向上をめざした「がんプロフェッショナル養成プラン」

 本シンポジウムは,がん医療を担う医療人の養成推進をめざし,国公私立大学から申請された優れた育成プログラムに対して文科省が財政支援を行う「がんプロフェッショナル養成プラン(がんプロ)」をテーマに開かれた。

 最初に登壇した文科省の菊池博之氏は,政府が策定した「がん対策推進基本計画」を踏まえて2007年よりがんプロが始動したこと,これまでがん対策推進基本計画の改定に対応する形で見直され,2023年度から第4期が開始されたことを説明。看護師だけでなく多職種が受講し,第3期までの15年間で正規課程,インテンシブコース合わせて10万人以上を受け入れ,がん看護専門看護師数もがんプロが開始された2007年より急激に増加したと,その成果を報告した。第4期では,①医療現場で顕在化した課題への対応,②がん予防の推進,③新たな治療法の開発をテーマに,各地域11大学を拠点に全国76大学がそれぞれの教育コースを設けていることを紹介し,全国でがんの専門資格を有する看護師が増加し,がん医療・看護のさらなる質の向上,均てん化推進に期待を寄せた。

 第1期よりがんプロに参画する高知県立大の藤田佐和氏は,第4期がんプロからわが国のがん医療・地域医療の先を見据えて在宅リエゾン看護を新たに取り入れ,講義,演習,実習それぞれの科目で教育内容を拡充していることを会場に共有した。次に氏は,がん看護実践に携わる看護職を対象としたリカレント教育を紹介した。同大では,地域のがん医療に携わるがん診療連携拠点病院,訪問看護ステーション,在宅支援診療所等の看護職や他職種,教育機関の講師が協働してプログラムを運営している。具体的には「在宅がん看護」や「高齢がん患者」のケアに携わる訪問看護師,病棟・外来看護師が質の高いがん看護実践を系統的に学ぶことを支援する90時間15日間のインテンシブコースと,がん医療の新たな課題解決に向けて専門看護師,認定看護師の学修を支援する4科目60時間 8日間の高度実践看護師コースである。修了生は獲得した力を実践現場で発揮するとともに,専門看護師・認定看護師教育課程に進学するなど好循環を生んでいるとの考えを示した。

 「がんプロ教育では高度化・細分化・複雑化するがん医療を正しく理解するため,病態生理学,薬理学,ヘルスアセスメント等の講義,実習が38単位と充実しており,個別性のあるケアを提供するためのキュアの理解が深まったことで,自身のサブスペスシャリティである頭頸部がん看護にも生かされている」と振り返ったのはがんプロ修了者の田中圭氏(長崎医療センター)だ。がんプロでは看護師だけでなく多くの職種の受講者が地域,大学院の垣根を越えて学び合うため,各職種の強みや価値観,苦悩を理解できたことで,チーム医療の実践に生かされていると述べた。さらに氏は現在,頭頸部がん看護の質の向上と均てん化をめざして全国的な看護師グループ,頭頸部がんにかかわる医療福祉従事者の研究会を立ち上げ運営していることや,小中高校生を対象とした「がん教育」の普及に約10年間携わっていることにも言及。「こうした社会活動はがんプロでさまざまな刺激を受け,そこで培ったネットワークを生かすことで実現できている」と述べ,がんプロの「多職種協働型人材育成」はキュアの理解を深めケアを見つめ直す機会であり,患者や家族,組織,地域の課題解決のための医療チームづくりの素地を培う教育プログラムであると評価し,発表を終えた。

 座長の川崎氏はがん対策推進基本計画に掲げられている「がん予防」「がん医療」「がんとの共生」の課題を解決するには人材育成が必要であり,組織の変革ができる高度実践看護に焦点化し,がんプロ教育成果を踏まえて共有したと企画の背景を会場に共有。4月30日(火)までオンデマンド配信されていることを紹介し,本シンポジウムが若手看護職のキャリア支援や,看護管理者の人材育成計画につながることに期待を寄せた。


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