医学界新聞


リハ・栄養管理・口腔管理の三位一体的実施を推進する

対談・座談会 若林秀隆,栗原正紀,糸田昌隆,白石愛

2024.02.19 週刊医学界新聞(通常号):第3554号より

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 リハビリテーション,栄養管理,口腔管理――。三者を一体的に実施することで,患者のADL等予後の改善につながることが明らかになってきた。エビデンスの蓄積に加えて,リハビリテーションの医科歯科連携に取り組んできた医療者からの要請等を受け,2024年度診療報酬改定においてリハビリテーション患者に対する口腔機能管理料等での点数加算が新設された。本紙では,医科歯科連携に長年取り組んできた4氏による座談会を企画。連携の必要性や実践上の課題など,広く議論を行った。

若林 2023年6月に発表された「経済財政運営と改革の基本方針 2023」1)(いわゆる骨太方針)に,「リハビリテーション,栄養管理及び口腔管理の連携・推進を図る」という文言が入ったことは記憶に新しいかと思います。従前より上記三者の連携に向けて取り組んできたわれわれからすると,大きな変化が訪れたとの衝撃がありました。加えて,次年度の診療報酬改定では,点数加算も新設されました。

 本日は,長崎リハビリテーション病院で医科歯科連携システムの構築・運営に尽力する栗原先生,歯科医師として大学に口腔リハビリテーション科を立ち上げて診療・教育・研究に携わる糸田先生,歯科衛生士として医科歯科連携に関するエビデンスの構築に寄与してきた白石様のお三方にお越しいただきました。私自身は,臨床でのリハビリテーション・栄養・口腔管理を行う多職種チーム運営に加えて,栗原先生にお声掛けいただいて日本リハビリテーション病院・施設協会の医科歯科連携推進委員会(以下,推進委員会)で委員長を務めています。リハビリテーション(以下,リハ)の医科歯科連携について,その必要性や実践上の課題など,幅広くお話しできればと思います。

若林 まずは,回復期リハ病棟におけるエビデンスをたくさん作ってきた白石様から,リハ患者の口腔状況や口腔管理(MEMO)の必要性,医科歯科連携の現状についてお話しいただけますか。

白石 私たちの調査では,回復期リハ病棟の高齢患者の約8割に,何らかの口腔機能障害が認められ,そのうちの30%以上が重度の障害であることが明らかになりました。口腔機能障害の内容としては,歯・義歯の問題が最も多く,次いで舌の問題,歯肉の問題が多かったです2)。口腔管理の必要性に関しては,退院時に口腔衛生・口腔機能の改善が見られる群と見られない群で比較すると,前者ではFIMの運動項目,認知項目,合計点数,FIM効率,FIM利得が有意に高かったとの報告があります3)。また,回復期リハ患者の口腔の問題はADL,認知レベル,栄養状態と関連していて,歯科専門職の介入による口腔管理は,口腔状態や摂食・嚥下,栄養状態の改善を通じて間接的にADL等の改善につながると考えられます4)

若林 そうした研究結果の蓄積によって,口腔管理がリハ患者の予後に影響をもたらすことが示されたわけですが,現実の病棟における医科と歯科の連携状況はどうなっているのでしょうか。

白石 非歯科職種に対するアンケート調査5)によれば,9割以上の回復期リハ病棟で「歯科的な問題が生じている」との回答があり,口腔の問題に困っている医療者は少なくないはずです。しかし,歯科を標榜していない病院や施設がいきなり歯科とつながるのはハードルが高く,そもそも歯科衛生士の中で病院勤務をしている方は全体の約2割にとどまります。

若林 そうですね。歯科衛生士を雇用するリハ病院・施設も一部存在しますが,まだまだ少ないのが現状です。栗原先生は推進委員会立ち上げ時から活動を続けられていますが,当時と今とを比較してどうお考えですか。

栗原 委員会を立ち上げた2012年当時は病院に勤務する歯科衛生士はまれでした。白石様の話では現在は約2割が病院勤務とのことですが,病院勤務だとしても口腔外科に所属しているのであれば,口腔衛生・口腔機能に対する考え方を医科と共有できる歯科衛生士の割合はもっと少ないかもしれません。歯科医師に関しても同様で,歯科医師側が口腔機能に対する視点を持っていないと,意味のある連携にはなりにくいです。ですから,各都道府県の歯科医師会にお願いして,リハ・栄養・口腔に関する研修会を歯科医師向けに開催してきた経緯があるわけです。医科の側ももちろん,口から食べることの重要性を理解した上で口の中を診なければなりません。

 地道な取り組みを通じて連携の必要性を説いてきたことによって,医科歯科連携全体としては良い方向に進んでいると私自身はとらえています。

若林 良い方向に進んではいるけれど課題も多いといったところでしょうか。糸田先生も相当長い期間,医科歯科連携に携わられています。この間の変化をどう見ていますか。

糸田 今回の診療報酬改定に関してもそうですが,口腔外科ではない病院歯科の在り様に関して,少しでもインセンティブを働かせようとの動きが行政に見られたというのは,30年前と比べて隔世の感があります。

 少し歯科医師側の話をさせてもらいます。口腔機能の低下は歯牙の喪失に始まり,進行していきます。そのため,歯牙喪失に至らないよう歯・歯周炎治療を行うことと,口腔機能が低下し始めた患者に対する治療の両者に対応できるように歯科医師は育成されるべきと考えられます。しかしながら私たち歯科医師は,歯学部を卒業してすぐは歯治療と歯周炎治療の2つにしか対応できません。ヒトが歯牙を喪失する一番の原因がその2つですから,非常に大切なことではあるものの,口腔機能に関する知識が不足しています。近年の卒前教育の体系には口腔機能に関するカリキュラムも含まれますが,臨床に出ると歯・歯周炎治療が仕事の大半を占める環境で働くことが多いですから,歯牙が欠損する中での口腔機能低下,嚥下障害に至るまでの口腔機能の変化など,口腔機能全体をとらえる力が涵養しづらくなっていると言えます。

栗原 食べられる口腔づくりといった視点を持つことができれば,他職種との会話が成立しやくなりますよね。

白石 それは歯科衛生士に関しても同様だと感じます。

栗原 加えて,歯科医院の先生方は歩いて施設まで来られる患者をずっと診てきたけれども,回復期以降でかかわる患者は何らかの障害を抱えているという患者層のギャップもあるかと思います。

糸田 そうですね。障害や疾患を抱えた患者が,治療後に生活に戻っていくイメージを持てている歯科医師はそういないです。以前は歯科教育の中に障害学の科目はありませんでしたから,卒後教育などでフォローしていけると良いでしょう。

栗原 協働する中で医科側が歯科の先生から学ぶことも多く,例えば入れ歯を外して生活していたら,ものの1週間で合わなくなってしまうとは知りませんでした。

白石 訪問に行くと,装着している義歯の数よりも多く入れ歯を持っていて,どれが合うかわからないといった人もいます。

若林 医科と歯科で同じ視点で見られるようになると良いですね。相手の言葉に合わせて互いの知識を連携させながら,徐々に共有できる部分を増やしていく。今回の診療報酬改定で,そのスタート地点にようやく立てたと思います。

若林 長崎リハビリテーション病院では,回復期リハ病棟における医科歯科連携のシステムを構築しています。栗原先生から,具体的な実践のお話を伺えますか。

栗原 当院では,歯科診療オープンシステムという医科歯科連携のシステムを敷いています。まずは院内の歯科衛生士が患者の口腔衛生・機能の評価を行い,歯科受診が必要であると判断した場合,主治医および本人・家族の許可のもとで院外の歯科に診療を依頼します。かかりつけ歯科医師がいて,訪問可能な場合にはそちらにお願いし,訪問がかなわない場合,当院が連携する登録歯科医師に依頼するという形です。システム構築の折りには常勤歯科医師の雇用を含めてさまざまな形態を検討しましたが,報酬上の問題等もあり,現在の形に落ち着きました。

糸田 登録歯科医師はどれくらいの数いるのですか。

栗原 現在21人が登録されています。長崎市歯科医師会との間に協定を結び,公募をお願いしました。歯科医師を雇うことが難しかっただけでなく,開業歯科医の先生方に,病院の中を実際に見てもらうことでそこにあるニーズ,多くの専門職が何を行っているのかを知ってほしいとの思いもありました。診療だけでなく,カンファレンスにもできるだけ参加してもらっています。診療内容としては義歯の調整が多いです。なお,報酬に関しては,それぞれの登録歯科医師に訪問歯科診療として自身で請求してもらっています。ですから,当院に入る報酬はないのです。

白石 連携体制を運用する中で見えてきた課題はありますか。

栗原 体制自体の問題点ではないのですが,他の病院に取り組みが広がらないことに課題を感じています。関心をお持ちの施設はそれなりにあるものの,やはり採算の問題が大きいようです。

若林 推進委員会では,長崎リハビリテーション病院の仕組みをベースに,各県の歯科医師会と合同で医科歯科連携インストラクター講習会を開催して,地域のリハ病院と歯科医師会の連携を強化する取り組みを行っています。徐々に広がりを持たせていきたいところですね。

 当院の急性期病棟での医科歯科連携の取り組みですが,患者の口腔内に問題がある場合,口腔外科にいる歯科医師が診てくれます。加えて,理学療法士と歯科医師を含む栄養サポートチーム(NST),リハ医,栄養に詳しい麻酔科医,歯科医師,NST専門療法士の理学療法士・言語聴覚士・看護師,脳卒中リハビリテーション看護認定看護師がいる嚥下リハ栄養チームが存在していて,前者は週2回,後者は週1回で合わせて週に3回,リハ・栄養・口腔を三位一体で診られるチームが回診しています。

栗原 若林先生がおっしゃったように,遊撃隊のような形で医科歯科連携チームが側面から介入していくタイプと,当院のように病棟全体がチームと考えて連携に当たるタイプの,2つのタイプの連携がありますね。急性期に関しては,側面からの介入がフィットするのかもしれません。

糸田 病院によってはマンパワー的にそれが限界ということもありそうです。

若林 当院の急性期病棟でもいずれは病棟単位で連携して取り組めるといいのですが,当面は現在の形が限度かもしれません。個人的には,看護師がコーディネーターとして関連職種をまとめつつ,三位一体を実現できると良い形になると考えています。

若林 先日,中央社会保険医療協議会(中医協)の総会議事次第として診療報酬改定における個別改定項目に関する資料が発表されました6)。回復期等口腔機能管理計画策定料,回復期等口腔機能管理料(歯科医師),回復期等専門的口腔衛生処置(歯科衛生士)が新設されたことで,回復期リハ病棟における医科歯科連携が推進されることは間違いないと思います。

白石 長年の活動がようやく実りましたね。

糸田 これまでに何度も要望を出してきましたから。一つ,大きな峠を越えたのだと思います。

栗原 今回の改定に当たっては,医療課長が「患者は生活者」である視点を含める意向を示しました。これは画期的なことです。一方で,リハ領域全体で見ると厳しい改定がなされたという印象を受けています。

若林 そうですね。急性期ではリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算が新設されましたが,施設基準はやや厳しいという印象です。最初は一部の病棟だけが同加算を算定することになるのかなと思います。

 リハ・栄養・口腔の一体的実施は,これまでこの領域に携わったことのない医療者からするとピンとこないかもしれません。しかし,患者さんの暮らしを入院中から守るためには大事なことです。医師,看護師にはリハ関連職種,管理栄養士,歯科医師,歯科衛生士が働きやすい病棟づくりにご協力いただけるとうれしく思います。また,診療報酬改定を受けて,病院長,看護部長等施設の意思決定層の方々には,リハ・栄養・口腔の連携体制構築にゴーサインをどんどん出してもらいたいと思います。

(了)


 口腔管理(高齢者対象では“口腔健康管理”)は口腔衛生と口腔機能を維持改善する目的で行われる。「口腔衛生管理」は歯面・歯間・粘膜清掃や歯石除去等を行い,主に歯科衛生士が担う。「口腔機能管理」は蝕・歯周炎の治療から始まり,咀嚼・嚥下機能を維持・改善する処置で,主に歯科医師が担う。摂食機能療法では歯科衛生士等と協働する。「口腔ケア」は食事周辺のケアを指し,口腔清拭や嚥下体操指導,食事介助等,多職種で役割分担して行う。

1)内閣府.経済財政運営と改革の基本方針2023.2023.
2)白石愛,他.高齢入院患者における口腔機能障害はサルコペニアや低栄養と関連する.日静脈経腸栄会誌.2016;31(2):711-7.
3)大石佳奈,他.回復期脳卒中患者の口腔衛生・口腔機能と退院時ADLとの関連.Jpn J Compr Rehabil Sci. 2022;13:202.
4)吉村芳弘,他.歯科衛生士の口腔管理は回復期リハビリテーションの患者アウトカムを改善する.日補綴会誌.2020;12:42-9.
5)田坂樹.回復期リハビリテーション病棟における歯科との連携状況――自記式質問票による全国調査.老年歯学.2023;37(4):312-9.
6)厚労省.中央社会保険医療協議会総会(第581回)議事次第.個別改定項目(その1)について.2024.

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東京女子医科大学大学院リハビリテーション科学講座 教授

1995年横市大医学部卒,2016年慈恵医大大学院医学研究科臨床疫学研究部修了。済生会横浜市南部病院リハビリテーション科,横市大附属市民総合医療センターリハビリテーション科准教授等を経て21年より現職。日本リハビリテーション病院・施設協会常務理事,医科歯科連携推進委員会委員長。著書に『サルコペニアを防ぐ! 看護師によるリハビリテーション栄養』(医学書院)など。

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長崎リハビリテーション病院 理事長

1978年長崎大医学部卒。同大脳神経外科講師,十善会病院副院長,近森リハビリテーション病院院長などを経て,2008年より長崎リハビリテーション病院理事長。12~16年日本リハビリテーション病院・施設協会会長。厚労省医政局「チーム医療推進方策検討ワーキンググループ(2010-14年)」の委員として,「チーム医療推進のための基本的な考え方と実践的事例集」の作成にも携わった。

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大阪歯科大学医療保健学部口腔保健学科 教授

1988年岐阜歯大卒。歯科医師。開業歯科医院に勤務後,90年大阪歯大補綴学第二講座入局。95年わかくさ竜間リハビリテーション病院歯科・リハビリテーション科診療部長など経て,2017年より現職(大阪歯大病院口腔リハビリテーション科科長を兼務)。日本口腔ケア学会理事,日本老年歯科医学会理事,日本口腔リハビリテーション学会理事。

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熊本リハビリテーション病院

熊本県歯科医師会立熊本歯科衛生士専門学院卒。歯科クリニック,療養型病院,訪問歯科,老健などに勤務後,2011年より社会医療法人熊本丸田会熊本リハビリテーション病院歯科口腔外科(当時)。第32回日本静脈経腸栄養学会学術集会(17年)にて「脳卒中回復期の口腔問題とサルコペニアとの関連――オーラルサルコペニアの新提言」でフェローシップ賞受賞。歯科衛生士,NST専門療法士。

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