地域電子カルテシステム「Net4U」を活用した包括的な医療体制の構築
寄稿 三原一郎
2024.01.29 週刊医学界新聞(通常号):第3551号より
山形県鶴岡地区で運用しているNet4Uは,2000年に経産省の補正予算公募事業「先進的情報技術活用型医療機関等ネットワーク化推進事業――電子カルテを中心とした地域の医療情報化」に採択されたことを機に,「一地域・一患者・一カルテ」を基本コンセプトとして開発された地域電子カルテシステムである。当時はインターネットの黎明期で医療連携へのICT活用が期待され始めた時代であり,医療DXの先駆けとも言える事業であった。
開発当時から,所見の記載のみならず,検査データの自動登録,画像の添付,訪問看護指示書や紹介状の作成・送付,多施設間の情報共有などの機能を有しており,わが国で最も歴史のある地域電子カルテシステムである。そして,現在に至るまで発展的に運用されており,2012年には病院から地域へという時代の変遷を見据え,「医療と介護をつなぐヘルスケアソーシャルネットワーク」として全面アップデートされ,医療のみならず,介護を含む多職種連携を支える情報共有ツールとして活用されている(図1)。
また,当地区におけるNet4Uの運用面の特徴として,運用費を同地区医師会が負担していること,事務局が同地区医師会地域医療連携室「ほたる」に設置されていること,開発ベンダーが鶴岡市に常駐していること,鶴岡二次医療圏全域で利用されていることなどが挙げられる。
在宅医療で効果を上げるNet4U
Net4Uは,主に在宅医療におけるさまざまな患者情報を多職種,多施設間で共有することを可能とし,そこにかかわる多職種相互のコミュニケーションを拡大することで,在宅医療を支えるツールとして着実に成果を上げてきた。現在,Net4Uには医療施設のみならず,訪問看護ステーション,居宅介護支援事業所,地域包括支援センター,老人保健施設などが参加しており,ICTを利用した医療・介護情報共有基盤として,鶴岡地区は全国的に見ても成果が出ている地域と評価されている。
参加施設は154件であり,参加職種の割合は,看護師が47%,介護職26%,リハ職10%,医師9%,薬剤師6%,歯科医師1%である。看護師と介護職でおよそ4分の3を占め,Net4Uの利用を見ても看護師の書き込み数は他職種を圧倒しており,看護師が発信する情報を他の職種が参照している現状がうかがわれる。さらに,職種ごとのユーザー数の年次推移においても看護師と介護職の伸びが著しい(図2)。
背景には,在宅医療の主な担い手である訪問看護師と介護職が,在宅医療を支えるツールとしてNet4Uを活用していることが考えられる。在宅医療におけるNet4Uの効果は以下の点が挙げられる。①医師への報告,相談などがお互いの都合が良い時間帯で確認でき,さらには記録として残ることから,電話やFAXと比べ個人情報保護の観点からも利便性が高い点。②病院の緩和ケア,褥瘡,認知症などに対応する認定看護師とNet4Uを介して協働することで,お互いのレベルアップに役立っている点。③患者・家族参加型ツールであるNote4U(註)を利用することで,患者家族が遠方に住んでいる場合のサポートに役立っている点。④介護職がNet4Uに参加することで,在宅医療におけるより効果的な情報共有につながっている点である。
クリニカルパスの地域連携
当地区では2006年に地域連携パス推進協議会を設立し,複数の地域連携パスを運用している。特に大腿骨近位部骨折,脳卒中に関しては,ほとんどの患者が中核病院である鶴岡市立荘内病院へ搬送されることから,初診より全例登録を原則とし,パス情報集積している。データを解析することで種々の知見が得られており,その成果は論文や学会で報告している。また脳卒中パスは,維持(生活)期においても運用されており,パス情報をNet4Uで共有することで,パスのアウトカムであるADL低下防止や血圧コントロールに一定の成果を上げている。
最近の地域連携パスのトピックとしては,栄養障害・嚥下障害などにより生活に支障を来す人を多職種で支援する「たべるを支援し隊」の活動が挙げられる。25人ほどのメンバーはそれぞれ異なる施設に所属しているが,Net4Uを利用することで,動画を含めた画像,フェースシート,アセスメントシート,アウトカム評価シートなどの患者情報の共有が可能となっており,情報共有が不可欠な活動に貢献している。
Net4Uは多職種間の情報共有ツールとしてだけではなく,鶴岡地区を包括する庄内地域の医療情報共有ネットワーク 「ちょうかいネット」とも連携しており,庄内2次医療圏の主な病院の電子カルテ情報を患者の同意の下,診療所,訪問看護ステーション,介護施設などから閲覧できる広域連携機能も有している。
運用課題と医療情報ネットワークへの期待
2023年10月末時点でNet4Uへの登録患者数は延べ8万7074人であり,月平均500人ほどの新規登録がある。一方で,ある訪問看護ステーションを対象とした調査では,訪問患者のおよそ50%でしかNet4Uが使われていないと明らかになった。また,記録のほとんどは訪問看護師が担っており,医師の参加は限られ,薬剤師や歯科医師の利用はさらに限定的である。参加者が増えているとはいえ,ケアマネジャーが実際にNet4Uにアクセスし,訪問看護師などと情報共有している事例はそれほど多くはないという現実もある。地域連携パスにおいても,急性期から回復期,さらには生活期へとパスでつながってはいるが,あくまで医師間の情報共有であり,生活期パスへの看護師や介護職の参加はまだ少なく,脳卒中の再発や再骨折の予防を地域全体でどう取り組むかは今後の課題である。
さらに,Net4Uのような地域医療情報ネットワークの運用費を誰が負担するのかという,全国共通の根本的な課題がある。当地区の場合,医師会が運用費を全額負担しているが,いつまで継続できるかは不透明であり,負担のあり方は今後検討する必要がある。また,Net4Uは地域住民に知られた存在とは決して言えない。Net4Uは地域住民にとってこそ有益なシステムであることを周知するための広報活動にも今後取り組む必要がある。
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2022年は医療DX元年とも言われ,オンライン資格確認システムが義務化され,マイナンバーカードの保険証利用も開始された。オンライン資格確認システムを利用することで,患者の同意の下,患者の診療/薬剤情報や特定健診情報も医療機関で閲覧が可能となり,患者自身もマイナポータルから薬歴などが閲覧可能となった。わが国が進める全国レベルの医療情報ネットワークは全国医療情報プラットフォームと呼ばれ,今後は当地区におけるNet4Uやちょうかいネットなど既存の地域医療情報ネットワークと融合しながら活用されていくことが期待される。
註:患者・家族と医療者・介護者をつなぐWeb連絡ノート。Net4Uと連携し,薬剤情報や検査結果を共有するほか,在宅療養者の変化に関する連絡などに活用される。
三原 一郎(みはら・いちろう)氏 三原皮膚科 院長 / 山形県鶴岡地区医師会 連携・情報担当理事
1976年慈恵医大卒業後,同大皮膚科に入局する。米ニューヨーク大への留学などを経て,93年に郷里の山形県鶴岡市に皮膚科医院を開業し現在に至る。鶴岡地区医師会理事,山形県医師会常任理事,日本医師会IT関連委員会委員,鶴岡地区医師会会長を歴任。20年に旭日双光章を受章する。
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